幕間:魔王の期待
謎の人物、オールドの視点です。
期待しているとは言ったが、まさかこれほどとは思っていなかった。
俺はほとんどの情報を秘匿しているし、俺の居場所や、足取りについての情報なんて、狙って調べてもそうそう手に入れられるものではない。
まあ、邪魔している相手が相手だし、相手からしたら俺の情報はできる限り伝わらない方が都合がいいんだろう。
だから、手がかりを手に入れるとしても、もっとかかると思っていた。
それがまさか、そんなニアミスするだなんて誰が思うだろう。
アリス達が訪れたアイランドタートル周辺の海底。あそこは元々、俺の拠点への入り口の一つだった。
今でこそ、アイランドタートルの甲羅によって塞がれてしまっているが、昔はそこに海底洞窟があり、そこから入り込めるように調整していた。
まあ、あまりに不便なので結局お蔵入りになったけど、それでも色々手を加えたことは間違いない。
恐らく、アリスはそれを感じ取ったのだろう。アリスだけが、その違和感に気づいていた。
もし、あそこで海底に沈殿しているアイランドタートルの甲羅をすべて回収すれば、海底洞窟の入り口を発見でき、そこから俺の下までくる芽もあったかもしれないが、まあ、流石にそれは無理だよね。
でも、アリスの勘の良さ、いや、運の良さには本当に驚かされる。この調子なら、俺の下に辿り着くのも時間の問題かもしれない。
「後は、無事に集めきってくれるといいんだけど」
恐らく、俺の話を聞いて、アリス達はアイランドタートルの村人から多少の話は聞いただろう。
俺のことや、グレンのこと。そして、昔何をやったのかも。
アリスの性格なら、恐らく同情してくれるはず。期せずして粛正の魔王となってしまった俺に対して、可哀そうだとか、助けたいだとか、そういう感情を抱いたはずだ。
しかし、アリス達が元の世界に帰るための条件は、俺を倒すことである。
アリスだけならば、もしかしたら俺を倒すことができず、元の世界に帰るのを諦める展開もあるかもしれないが、仲間がいる限り、そうはならないだろう。
図らずも、ほとんどのプレイヤーをまとめ上げる立場になってしまった以上、自分だけの意思で俺を倒さないという選択は取れない。
倒したくはないけど、倒さなければならない。こうなってくると、アリスがとる行動は一つ、先延ばしである。
どうやら、アリスの考えだと、少なくともレベル500はなければ俺には太刀打ちできないと考えているらしい。であるなら、今すぐ結論を出したところで、見つけても勝てないのだから、慌てて答えを出す必要はない。
スターコアを集めることで、魔王を倒す手がかりを得られると考えているならば、とりあえずはスターコアを集めようとするのが自然だ。
まあ、すべてが合っているとは言わないけど、大きく間違っているわけではない。スターコアを集めてほしいのは俺も同じだし。
問題は、集め終わった後だ。その後の行動によって、アリスの命運は大きく分かれることになるだろう。そしてそれは、俺にとっても、この世界にとっても重要な場面になると思う。
「どう転ぶのか、見ものだね」
うまくすれば、俺の目的も達成できるかもしれない。三千年もの間、耐え忍んできた苦労が報われるかもしれない。
そう考えると、ちょっとそわそわするね。
「今日もご機嫌だな」
「ああ、来てくれたんだね」
若干楽しみにしていると、再び友人が来てくれた。
忙しいとは思うけど、俺がこうしてご機嫌だといつも来てくれているような気がする。
「少しは近づいてきたようだな」
「そうだね。後はもう、俺か君を見つけるだけじゃないかな?」
「そうかもな」
理想としては、アリス達がスターコアを集めきる頃に、どちらかと連絡を取れる状態であって欲しい。
一応、アリスには幻獣の島のスターコアを渡してあるけど、あれには別の役割があるし、それで連絡を取るとは考えない方がいい。
できれば直接会ってほしい。まあ、現実的に考えるなら、友人と出会うのが一番楽かな。
今までにも、顔を合わせてはいるんだし、あっちも情報さえ得られれば見つけるのはそう難しくないだろう。こっちが意図的に隠れようとしない限りはね。
「お前、会う気あるのか?」
「そりゃあるよ。たとえ会いたくないとしても、どこかのタイミングで絶対会うことにはなるでしょ」
「そうか。こんなところまで来られるのかは少々疑問だが」
「別に、入り口さえ見つければ来るのはそう難しくないでしょ。まあ、少し大変ではあるかもしれないけど」
俺が自由に動けるのなら、自分から会いに行ってというのも考えたけど、それは無理だろう。
もし会うなら、あちらから会いに来てくれるのを待つしかないけれど、ちょっと見つかりづらい場所にいるのは事実だ。
まあ、見つかりづらいとは言っても、ちょっと考えれば思いつけるところなだけましかもしれないけどね。
後は、タイミングの問題かな。
一番いいのは、スターコアを集めきったタイミングで出会うこと。つまり、俺が持っているスターコアを見つけてくれるのがいいのだけど、それは流石に難しいかな?
こちらから積極的に干渉できない以上、俺の下に辿り着くのは相当難しい。友人を通して招待するというのも手だが、どこまで許されるかだろうな。
最悪なのは、スターコアを使って相手がとんでもないことやらかす場合だけど、それ次第では俺も頑張らないといけないかもしれない。
そこだけが怖いよね。
「なら、もう少し接触した方がいいか?」
「できることならね。あんまり胡散臭いと信用がなくなりそうだし、いざという時に信用してもらえるだけの交流は必要だろうから」
「そういうことなら、最初の接触は悪手だったか」
「そりゃそうでしょ。なんであんなことしたの?」
「身内を守るのが義務なんでね。まあ、うまくやるさ」
「お願いね?」
今のところ、友人に対するアリスの評価は右肩下がりになってそうだけど、まあ、それは仕方ない。
まさか、そこまでの逸材だなんて思ってなかったし、友人のやっていることを考えれば、仕方のないことだったとも言える。
だからここからは、できる限り敵ではないことを示しつつ、信頼関係を築くことに注力してほしいところ。
「あんまり無理はするなよ?」
「どうしたの? 急に」
「今回の会話で結構な力を使ったはずだ。周りを見ればわかる」
「ああ、やっぱり気づく?」
「当たり前だろ。どれだけお前と一緒にいると思ってる」
「はは、参ったね」
今の俺は、色々と制限が多すぎる。話したいことを話せないし、ただ話すだけでも力を使う。
魔王が聞いて呆れるけど、奴らの目をかいくぐるにはある程度力を削ぐ、いや、隠す必要があった。
まあ、最初はそんなことする余裕もなかったけどね。
それはさておき、そのおかげで燃費も悪いので、ちょっと話すだけならともかく、あれだけ長時間話していれば力も結構使う。
この空間は、俺の力が関係している場所でもあるから、その影響がもろに出ているんだろう。流石に、いつも来ている友人を欺くのは無理だったか。
「お前がいなくなったら、俺が困る。ただの会話で力を使いつくしてくたばるなんてアホな真似はやめろよ?」
「流石にそこは考えているよ。これは必要経費さ」
「思いがけず近くに来てくれたから、嬉しくてつい調子に乗ったというわけではないんだな?」
「うっ、ま、まあね」
なんでわかるかなぁ……。
仕方ないじゃないか、友人がいるとはいえ、一人で暇なのは確かなんだから。久しぶりに現れた期待の星に興奮するのは仕方のないことである。
まあ、おかげでしばらくは寝てる必要がありそうだけど。
ジト目で睨みつけてくる友人から目をそらしながら、冷や汗を流す。
こういったやり取りも楽しいものだけど、今後はもう少し楽しみが増えそうだね。
そんなことを思いながら、友人を送り出した。
感想ありがとうございます。




