第五百一話:魔王を倒すか否か
「オールドさんは、運悪く粛正の魔王に選ばれてしまった。それによって、時代の粛正が起きてしまったのです」
「なるほど。でもそれだと、オールドさんが人々を助けて回ってたって言うのはなんなの?」
「そこに関しては、村の創設者、グレン様のお力添えによって、解放されたと言っておりました。あるいは、すでに時代の粛正が済んだから、解放されたのやもしれません」
「ああ、そう言えば名前聞いてなかったの……」
予想はしていたことだけど、やっぱり村の創設者はグレンさんらしい。
色々繋がってきたかな。
グレンさんとオールドさんは友達同士で、恐らくグレンさんは転移者だと名乗ったことで追われる羽目になり、この島に来た。そして、その後オールドさんが粛正の魔王に選ばれてしまい、世界を破壊、犯罪者となってしまう。その後、事態を聞きつけたグレンさんが、どうにかしてオールドさんを救い出し、時代の粛正は終わった。こんなところか?
粛正の魔王を操っていたはずの神様がなぜ襲われたのかだとか、今のオールドさんがどういう状況なのかはよくわからないけど、少なくともオールドさんが粛正の魔王自身だということは間違いないらしい。
神様が今更になって粛正の魔王を倒せと言ってきたのは、仕返し的な意味も含まれているのかもしれないね。
なんで牙を剥かれたのかは知らないけど、その尻拭いに俺達を呼び出すのはどうなんだ。完全にとばっちりなんだけど。
「オールドさんは今どこにいるかわかるの?」
「さあ、そこまでは存じておりませんね」
「じゃあ、グレンさんの方は?」
「それもわかりかねます。元々、神出鬼没な方ですからね」
この際だから居場所も突き止めたかったけど、そこまでは知らない様子。
まあ、そこまで期待していなかったからそれは問題ない。
問題なのは、オールドさんを倒しにくくなったってことだろうか。
話を聞く限り、オールドさんには何の落ち度もないだろう。転移者としてこの世界に呼ばれたのは防ぎようがないことだし、粛正の魔王に選ばれてしまったのも、同じく防ぎようがないことだ。自分の意思で世界を破壊して回っていたわけでもないし、むしろ正気を取り戻してからは積極的に人々を助けて回っていたように思える。
誰が悪いって言ったら、神様だろう。呼び出したのも、粛正の魔王に選んだのも神様なんだから。
しかし、だからと言って魔王を倒さないかと言われたら、どうしようってなるんだよな。
今のところ、俺達が元の世界に帰るためには、魔王を倒さなければならない。元の世界に帰る手段を知っているのが神様だけな以上、それに歯向かうということは元の世界に帰ることができないということである。
もちろん、その他に元の世界に帰る方法を探すという手もあるが、そんなものあるだろうか?
次元の裂け目だとか、異次元のゲートとか、そういうものがあったとしても、それが元の世界に繋がっているという保証はないし、それに飛び込むのは相当に勇気がいることだと思う。下手したら死ぬかもしれないしね。
確実に帰るには、やはり粛正の魔王を倒さなければならないわけだ。
これがもし、俺だけが帰れないって言うんだったらまだ考えたけど、カインやシリウス、サクラのことや、他のプレイヤーのことを考えると、俺一人で決めるわけにはいかない。
どうにかして、オールドさんを生かしつつ、元の世界に帰る手段があればいいんだけど。
「もし、オールドさんに会ったなら伝えてほしいことがあるのですが、よろしいですか?」
「え? な、なんなの?」
「我々はいつでもあなた様の味方だ、と」
そう言ってにこりと笑うハルメルさん。
オールドさんが粛正の魔王であり、この世界を滅ぼした張本人だと知った上で、その発言が出るのだから凄いことである。
まあ、自分達は粛正に巻き込まれなかったからというのもあるんだろうけど、オールドさんの人柄を正しく知っているってことなんだろう。
これはますます倒しづらくなってしまった。
まだ居場所すらわかっていないんだし、今すぐに決める必要はないのかもしれないけど、これは悩む。
倒せとしか言われてないし、行動不能にしたら許してくれたりしないかな。
「か、考えておくの」
何となく、居心地が悪くなってきたので、俺はさっさとこの場所を離れたかった。
話を切り上げ、約束通りアイランドタートルの甲羅の一部を受け取り、島を去る。
去っていく際、村人達から、またいつでも来て欲しいと手を振られたけど、正直あまり行く気にはなれなかった。
別に、俺達が悪いわけじゃない。俺達に魔王を倒せと言ったのは神様だし、あの説明を聞く限り、正直に話せば納得してくれそうな気がしないでもない。
だけど、知り合いは知り合いでも、敵同士であるなんてことが知られたら、どう転ぶかわからない。
本当なら、もっとグレンさんとかの情報を聞いておきたかったけど、仕方ないだろう。
「いや、まさかの話だったな」
いったん城へと戻り、話を整理する。
シリウス達も、今回の話は予想外のようで、ちょっとそわそわとしていた。
「これ、どうすんだ?」
「どうするも何も、私達にできることは一つではありませんか?」
「でも、可哀そうじゃない? 無理矢理やらされた挙句、元の世界にも帰れてない人を倒しちゃうの?」
「それはそうですが、それで私達が帰れなくなるのは違うんじゃないですか?」
カインとしては、相手がどういう境遇だろうが、元の世界に帰るためには倒す必要があると考えている様子。
まあ、確かに少し話すようにはなったけど、基本的には赤の他人である。それに、オールドさん自身、こちらの目的を手伝いたいという話をしていた。
こちらが魔王を倒すことが目的だと聞いておきながら、それに同意したってことは、オールドさん自身も、倒されることを望んでいるってことなんだろう。
それに、魔王を倒すことによって元の世界に帰れるのは俺達だけじゃないはず。恐らく、このために連れてこられたプレイヤー達はみんな帰ることができるはずだ。
仮に、俺達が元の世界に帰ることを諦めて、オールドさんを助けようとしても、他のプレイヤー達全員の同意を得られるかと言われればそんなことはない。
そもそも、今集まっているプレイヤーのほとんどは、魔王を倒すことで元の世界に帰れるって言うことを聞いたから協力してくれているのであって、それを今更やっぱ帰れないかも、なんて言ったら暴動が起きてもおかしくない。
当初の目的を考えても、オールドさんは倒すべきだ。
「まあ、確かにそうだよな」
「シリウスまでそう思うの?」
「そりゃ、他に方法があるんだったらそっちを全力で推したいが、今のところ何もないだろ? アリス、『スターダストファンタジー』で異世界に行くとかそういう話はないか?」
「うーん、神界や幻獣界は異世界と言えば異世界だけど、どちらかというと『スターダストファンタジー』の中の世界だし、それ以外って言うと……」
一応、『スターダストファンタジー』は、その名の通り星に関係する描写がいくつかある。
例えば、スターコアなんかは他の星から飛来した希少物質、みたいな考え方もあったはずだ。
そういう意味では、『スターダストファンタジー』の世界にも、異世界、というか異星は存在するんだろう。
ただ、そこに行く手段があるかと言われると……ないよなぁ。
まあ、厳密にはこの世界は『スターダストファンタジー』の世界と少し違うみたいだし、探せばワンチャン見つかるかもしれないけど、それに賭けるしかないのかな。
俺はこの先どう動いたらいいのか、頭を悩ませた。
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