第四百九十九話:島に上陸
その後、細々としたことを話した後、オールドさんとの通信を終了した。
今までオールドさんとの会話ではほとんど詳しいことはわからなかったんだけど、ここに来てちょっと情報が出てきた気がする。
オールドさんの友人について、そして、アイランドタートルの背に住む住人について。
ついでに、深海には何かあるんじゃないかという疑惑が浮上したけど、それに関してはよくわからないので放置しておこう。
もし、何かあるなら、そのうち新たに情報が出てくると思う。こういうのは、基本的に情報を集めて行けば解禁されるものだしね。
「オールドさんの友人がグレンさんだといいんだけど」
オールドさんの口ぶりからして、ずっと昔から一緒にいたようだった。
オールドさんは時代の粛正に関係しているはずだし、そう考えると、三千年以上前から一緒だったということになる。
その上で、今も一緒に行動してるってことは、その友人も転移者だった可能性が高い。
そして、転移者として声を上げた結果、国に追われることになったグレンさん。この二人が関係あるというのはこじつけに近いものではあったけど、これなら多少は可能性もある。
オールドさんの口からは言えなかったようだけど、もし、島の人達がオールドさんを覚えているなら、村の創設者のことも覚えているだろう。
それがグレンさんであれば、一応一つの繋がりが生まれる。
後はそこから足跡を辿ることができれば、グレンさんにも話を聞くことができるかもしれないね。
まあ、オールドさん自身に会えたら一番楽ではあるんだけど。
「とにかく、明日行ってみるの」
すでに外は暗闇に包まれている。どのみち、明日も行く予定ではあったのだし、それを島に上陸することに変えればいいだけの話だ。
うまく交渉できるといいのだけど。そう思いながら、眠りについた。
翌日。俺達はポータルを通ってアイランドタートルの場所までやってきた。
特に移動しているということもなく、相変わらず緑豊かな島にしか見えない。
港のようなものは見えないけど、どこから入ればいいのかな?
「村人が保有してるかもしれないって言うのは考えたな。確かに、そんな効果があるなら持っていてもおかしくはない」
「村人にとって、どんなものなんでしょうね、甲羅って。お守りなのか、それとも神器のようなものなのか。あんまり神聖なものだと譲ってくれるか怪しいですね」
「ほんとにオールドさんの名前を出せば譲ってくれるのかしら」
「それはやってみないとわからないの」
ちなみに、今は普通に冒険者装備をつけている。
今回は海底に潜る予定はないからね。水着を着てくる必要はない。
まあ、一応持ってきてはいるけど、使わないで済むといいんだけど。
「とりあえず、上陸してみるか」
「なるべく、穏便に済ませていくの」
とりあえず、港のようなものは見当たらないので、適当に端っこの方に着陸する。
一応浜辺もあるようだけど、この下に甲羅があると思うとちょっと怖いな。
揺れとかも感じないし、ただの地面なんだけど、わかってると何となく揺れている気がするのはなぜだろう。
絶対気のせいではあると思うんだけど、思い込みって怖いよね。
「何者だ!」
「おっと……」
辺りを見回し、人の気配がする方へと足を伸ばすと、しばらくして数人の獣人が現れた。
皆、手に槍を持っていて、穂先をこちらに向けながら威嚇している。
こんな島なのだから、槍自体は粗末なものかと思いきや、見た目は鉄製だ。
鉱山なんてあるわけないし、地下を掘って掘り当てるって言うのも無理なこの島で、どうやって鉄を入手しているのかわからないけど、あんまり舐めてると痛い目を見そうだ。
「落ち着くの。私達は怪しいものじゃないの」
「怪しい奴はみんなそう言うんだ。そもそも、どうやって入ってきた? 船なんてなかったのに」
「それはまあ、空から」
「くっ、空までは見ていなかった。これは警備体制を見直さなければいけないかもしれない」
そう言ってぎりりと歯を食いしばる獣人さん。
見た感じ、犬獣人だろうか。他の獣人もいるけど、大抵は犬っぽい。
グレンさん(仮)は犬獣人だったりするんだろうか。いや、『スターダストファンタジー』的に考えるなら狼獣人か? まあ、どっちでもいいけど。
「とにかく、俺達はよそ者を歓迎する気はない。とっとと出ていくんだな」
「まあまあ……話を聞いてほしいの」
「黙れ。俺達は誰の指図も受けん」
全く警戒を緩めない獣人達。
これは、ログレスの人達が上陸拒否されたのも頷ける。むしろ、怪我もなく帰ってこられただけましなのかもしれない。
さて、こんな押し問答しているのも時間の無駄だし、効くかはわからないけど、一応オールドさんの名前を出してみようか。
「あの、私達、オールドさんの知り合いで……」
「……何? オールドさんの?」
これだけ警戒されているのだから、多少反応するかもしれないけど、交渉は難しいかもしれないと思っていたんだけど、その名前を聞いた瞬間、獣人達は槍を収めてくれた。
えぇ、こんなに効果覿面なことある? 名前出しただけなのに。
名前だけ知ってるって可能性もあるのに、名前を出しただけでここまで警戒心が解けるのも珍しい。
それとも、やっぱりオールドさんは何かやっていたんだろうか? それだけ村の人達に信頼されているってことなんだろうか。
「失礼した。オールドさんの知り合いとは知らず、槍を向けてすまなかった」
「いや、いきなり来たのはこっちだし、気にしてないの」
「どうぞこちらへ。村に案内しよう」
そう言って、歩き出す獣人達。
こんなにとんとん拍子に進んでいいんだろうか。何か罠臭い感じもするけど、それだったら最初にあんなに槍向けてこないだろうし、罠はないか。
でもまあ、一応警戒はしておこう。そう思い、【ライフサーチ】や【トラップサーチ】を使いながらついていく。
しばらくすると、村へと辿り着いた。
村というには結構立派で、家も木造ではあるが、結構しっかりとした造りだし、規模もそれなりに大きい。
村というよりは、小さな町と言ってもいいくらいの規模ではないだろうか。
王都のように活気に溢れる、って言う感じではないが、のどかで、とても住みやすそうな場所である。
「ようこそお越しくださいました。私が長老代理のハルメルでございます」
案内された家で俺達を出迎えてくれたのは、しわしわのおばあちゃんだった。
腰はめちゃくちゃまがっているし、しわの数もやばい。けれど、それでも杖を突きながらも元気に歩いている。
島亀の誓いの効果なんだろうけど、実際に目の当たりにすると凄いな。
襲ってきたのは割と若めの人達だったけど、島の警備とかは若い人達がやってるのかもしれないね。
「オールドさんの知り合いだと伺いました。お名前をお聞きしても?」
「もちろん。私はアリスって言うの。で、こっちがカイン、シリウス、サクラなの」
勧められた椅子に腰かけ、自己紹介を済ませる。
お茶もふるまわれたけど、一応警戒して飲まなかった。まあ、多分何も入ってないけど、一応ね。
「オールドさんの知り合いが来るのは久しぶりです。まあ、こんな孤島なのですから、当然ではありますが」
「あの、私達がオールドさんの知り合いだってこと、疑わないの?」
「疑ってどうするのです。あの方と知り合いだということがどういう意味か、今の世でもわかっているはず。であれば、わざわざ嘘を言うはずがない。それに、あの方の名を知っているのは、本当にごくわずかでしょうしね」
そう言って笑うハルメルさん。まあ、確かに言われてみればそうなのかな?
仮に、オールドさんが魔王、もしくは魔王関係者だった場合、その知り合いということは、自分も魔王の関係者だと言っているようなものである。
もちろん、今の時代、オールドさんのことを知る人はそんなにいないと思うけど、時代の粛正があった時代であれば、その名は大犯罪者の名前だ。そりゃ知り合いだなんて言えるわけがない。
それでも知り合いだと言えるのは、オールドさんのことを仲間だと思っている人だけ。だから、オールドさんの知り合いだと名乗った時点で、そこは信用していいって考えなんだと思う。
「さて、それでは、用件をお伺いしましょう。どのような理由でこの島に?」
疑いも晴れたところで、本題へと入る。
さて、うまく交渉できるといいけど。
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