第四百九十八話:甲羅の入手方法
「そういえば、なんで私があそこにいることを知っていたの?」
『うん? ああ、あそこはちょっと特別でね、色々と、近いんだ』
「近い?」
『そう。ちょっとした偶然ではあるけど、俺が気配を感じ取れるくらいに近かったってこと』
「それって……」
気配を感じ取れるほど近かったってことは、要はオールドさんはあの近くにいたってこと?
あんな、海底で近くにいるって言うのもおかしな話だけど、気配を感じ取れるほど近いってことは、そう言うことだと思う。
となると、もしかしてオールドさんはアイランドタートルの背に住んでいる?
それなら島亀の誓いについて知っているのも自然だし、友人があの島にいたなら、助けた後で島に匿ったって可能性もある。
思いがけずオールドさんの居場所を発見してしまったかな?
『盛り上がってるところ悪いけど、俺はあの島に住んでいるわけじゃないよ。もっともっと遠い場所さ』
「なら、なんで気配を探れたの?」
『言っただろう? あそこはちょっと特別なんだ。君もあそこに行ったなら、何か感じたんじゃないかな?』
「言われてみれば……」
確かに、あそこでは何か違和感を感じていた。
俺だけが感じていた、あの場所にいてはいけないという謎の感覚。
特別な場所ってことは、あそこには何かしらあるってことなんだろうか?
それが何なのかはわからないけど、オールドさんが感じ取れるってことは、魔王関係?
でも、確かアイランドタートルの場所は、魔王の被害が少なかったという話だった気がするけど。
オールドさんが何か仕掛けたってことなんだろうか。以前の、幻獣の島にあったスターコアもどきのように、通信する手段でもあった?
だとしてもいてはいけないって感じる理由はわからないけど。
『これに関して詳しく説明するのは難しい。まあ、神聖な場所、とでも思ってくれてたらいいんじゃないかな』
「神聖な場所ねぇ……」
霊峰の山頂にあった、あの祭壇のようなものだろうか。
確かに、神秘的な雰囲気というのは、なんとなく近寄りがたいものではあるけど、そんな感じなんだろうか?
なんか納得いかないけど……。
『詫びと言っては何だけど、アイランドタートルの甲羅について、有益な情報を上げようか?』
「有益な情報?」
『具体的には、入手手段について。恐らくだけど、持って帰ることはできなかったんじゃないかな?』
「ぐぬ、まあ、そうだけど……」
まあ、甲羅の効果を知ってるんだから、あれがどれだけ硬いかも知っているだろう。
納得はいかないけど、アイランドタートルの甲羅をどうにかして入手できるなら、十分な成果である。
俺はいったんあの感覚について保留にすると、オールドさんから入手手段について聞きだすことにした。
『どうやら君は脱皮した後の甲羅を取ろうとしたようだけど、それは不可能だ。アイランドタートルの体を離れた甲羅は、時間と共に硬化していき、やがては破壊不可アイテムになる。一部だけを持っていくのは無理だし、すべてを一括で運ぶのもほぼ不可能だろう』
「なら、甲羅は取れないってことなの?」
『いいや、ないことはない。さっきも言った通り、アイランドタートルの体から離れた甲羅は、時間を追うごとに硬化していくが、離れて間もない甲羅はまだ破壊できる範囲にあるんだ』
「なるほど」
つまり、剥がれて間もない甲羅を探せばいいんだな。
……って、そんなことできるのか?
理屈としては簡単だけど、そもそもアイランドタートルが脱皮するスパンはかなり長いと言われている。
研究して見ないことには詳しくはわかっていないが、今わかっている最後の脱皮は、かなり前のことのようだ。
それを待っていたら時間がかかりすぎるし、それだったら別のレアアイテムを狙った方がまだましである。
数ヶ月どころか数年はかかるであろうことをやる気にはなれない。
『まあ、そう慌てない。君なら知っていると思うが、島亀の誓いは甲羅を持っていることで効果が発揮される。一応、背にいるだけでも効果はあるようだが、村人達は基本的に小さく砕いた甲羅を持っているものだ』
「つまり、村の人から譲ってもらえばいいってことなの?」
『そういうことだ。もちろん、村人自身が持っているものは譲ってはくれないだろうが、新たに生まれる村人のために、いくつか保管しているだろう。交渉すれば、譲ってもらえるかもしれないよ?』
「まあ、それならまだましなの」
次の脱皮を何年も待つよりは、島の村人達に甲羅の欠片を譲ってもらう方がよっぽど楽である。
ただ、確かあの島の人々は、外から来る者に敏感で、すぐに追い返してしまうということだった気がする。
調査に来たログレスの人達も、そのせいで結局島に上陸することはできなかったと言っていたし。
交渉次第と言えばそれまでだけど、そもそも交渉してもらえるんだろうか?
『交渉のことが心配なら、俺の名前を出せばいい。そうすれば、多少融通してくれるかもしれないよ』
「オールドさんって、あの島の人達にとって何なの?」
『強いて言うなら、村の創設者の友人、かな?』
「それって意味ある肩書なの?」
『ないよりはましだろうと思うよ。それで追い返されたなら、運が悪かったと諦めてくれ』
まあ、確かに村の創設者は村人にとっては偉大だろうし、その友人の頼みって話なら多少話を聞いてくれそうな気がしないでもないけど、そもそもその村の人達ってオールドさんやその友人のことを覚えているんだろうか?
だって、村ができたのって三千年前辺りでしょ? そんな昔から存続しているなら、当然村人は代替わりしているだろうし、友人のことはともかく、オールドさんのことについては知らない人もたくさんいるんじゃないだろうか?
島亀の誓いをずっと離さずに、三千年前からずっと生きてるって人がいるなら別だけど。
でもまあ、確かにないよりはましなものである。
オールドさんの名前を出すだけでどれだけ効果があるかはわからないが、少なくとも赤の他人より、知り合いって立ち位置の方が交渉に乗ってくれる可能性は上がる。
それで無事に甲羅を手に入れられたら、言うことなしだ。
「まあ、そこまで言うなら行ってみるけど、なんでそこまでしてくれるの?」
『日頃から詳しいことを話せないことのお詫び、というのもあるけど、一番は自分のためでもある。君が俺の思惑に乗って動いてくれたら、俺にとって都合がいい。それだけのことだよ』
「ふーん。その思惑って言うのは、世界を滅ぼしたり?」
『まさか。俺の目的は……んー、えー、まあ、そんな大したことではないよ。君ならば、共感してくれると思ってる』
「そう。まあ、どのみち私は魔王を倒せればそれでいいの。無理だと思うけど、オールドさんも協力してくれる?」
『ははは、俺も目的を叶えてもらうとしているんだ、君の目的を叶える手伝いをするのは当然だし、ぜひとも協力させてもらいたいところだね。と言っても、しばらくは動けないと思うけど』
「期待してるの」
ちょっと突っ込んで聞いてみたけど、オールドさん自身、魔王を倒すことにはそんなに反対ではないようだ。
もし、オールドさんが魔王なら、渋ると思っていたんだけど、オールドさんは魔王ではないってことでいいんだろうか?
やはり関係者で、それも操られてのことだった。だから、魔王を倒すこと自体には賛成だと。
あるいは、オールドさんが魔王で、自分が倒されることが目的だって言うならまだ魔王の線もあるけど、オールドさんの目的はよくわからない。
悪い人ではなさそうだし、そんな酷いことにはならないとは思うけど、何もわからないまま協力するのはちょっと怖いよね。
「……そう言えば、一つ聞きたいことがあったの」
『なにかな?』
「その友人って、何て名前なの?」
そう言えば聞いていなかったと思い出し、質問を飛ばしてみる。
それに対し、オールドさんは軽く笑って、こう答えた。
『詳しいことは、島の人達にでも聞いてほしい。ただ、一つ言うとするなら、俺の自慢の友人だよ』
そう言い切ったオールドさんは、得意げに鼻を鳴らしていた。
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