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第四百九十七話:島の話

 アイランドタートルだが、時代の粛正が起こる以前から存在していたらしい。

 比較的動かないとはいえ、特定の場所に留まらず、周りに何もない海を揺蕩っているアイランドタートルは、魔王の魔の手から比較的遠い位置にいたってことなんだろう。

 それでも、全くの無傷だったわけではないと思うが、その多くが生き残り、その背で生活していた人々もまた、生き残ったということらしい。

 で、オールドさんの友人は、訳あって追われる身となっていたらしい。そして、誰にも見つからない場所を求めて、逃げた先がアイランドタートルの背だったということのようだ。


『本当なら、一緒にいたかったんだけどね。だけど、当時は訳あって一緒にいることができなかった。だから、比較的安全なアイランドタートルまで逃げてもらったのさ』


「なんで追われることになったの?」


『きっかけはただ運が悪かっただけのことだけど、まあ、最終的には俺のせいかな? いやはや、あの時は本当に悪いことをしたと思っている』


 何か、昔を懐かしむような様子で話を続けるオールドさん。

 結局なんで追われていたのかを話すつもりはないようだけど、まあとりあえず最後まで聞こう。

 当時、あのアイランドタートルの背には、誰も住んでいなかったらしい。ただ、きちんと木々は根付いており、動物などは多く生息していたようだ。

 オールドさんの友人は、そこで新たな生活を始めた。

 島を開拓し、住居を整え、作物を栽培し、生活の基盤を整えていった。そうして、月日が経ち、気が付けば一つの村となっていたようだった。


『当時は俺も意識が朧気でね、これはただ友人から聞いただけのことなんだが、島亀の誓いもあり、なんとか暮らしていくことはできたようだ』


「一人で行ったのに、どうやって村人が生まれていったの?」


『そこらへんは詳しく教えてもらえなかったが、彼の持つスキルを考えれば人くらい簡単に増やせるだろう。中には、島に流れ着いた者もいるとは思うけどね』


「スキルで、人を増やす?」


 確かに、スキルの中には【ホムンクルスクリエイト】とかあるし、人自体は増やせるかもしれないけど、その素材はどうやって調達したんだ。

 それとも、他にそれらしいスキルがあっただろうか? 今のところ、思いつかないけど。

 とりあえず、その友人というのは、スキルを使える人物だったようだ。

 まあ、時代の粛正がどうとか言ってるし、その時代にはスキルを使える人なんてたくさんいただろうけども。


『詳しいことは機会があったら友人から聞いてくれ。俺はよく知らないんでね』


「はぁ」


『まあ、そういうわけで、あそこに村を作り出した。島亀の誓いの効果もあり、場所も場所だけあって平穏無事に暮らしていくことができた。が、途中で友人は島を出た』


「それはなんでなの?」


『どうやら、俺のことが心配で探しに来てくれたらしい。あの時は嬉しかったね。彼が女性なら、求婚していたかもしれない』


 何らかの理由で追われていたようだが、時間が経ち、それも忘れ去られる頃合いだった、というのもあるのかもしれない。

 そうして島を出た友人は、オールドさんを見つけ、曰く、助け出してくれたようだ。

 いったい何から助け出したのかはわからないけど、オールドさんにとっては、それは人生を左右するほどのことであり、その友人にとても感謝しているとのこと。

 恐らくだけど、オールドさんが犯したという、犯罪に関係しているんじゃないかな?

 ログレスで、もしかしたらオールドさんは魔王の関係者なんじゃないかという話が出ていたけど、そう考えると犯罪というのは時代の粛正を引き起こしたことってことになると思う。

 そして、その時オールドさんは洗脳に近い状態になっていたはずだし、そこから助け出したと考えれば辻褄は合うか。

 ということは、友人は時代の粛正を食い止めた救世主なのかもしれないね。


『その後、友人がいなくなった島では独自の文化が芽生え、今では完全に独立した村となっているって話だね』


「なるほど……」


 アイランドタートルの背に村を作った張本人というのは驚いたけど、まあそれだけだったらなくはないのかな?

 人を増やした方法はよくわからないけど、もし友人が転移者だとしたら、強さはあっただろうし、村を統治することくらいはできそうだ。

 むしろ、今はその村にはいないというのが残念である。もしまだいるのなら、オールドさんについて詳しく聞けるかと思ったのに。


「……ところで、その友人って、今はどこにいるの?」


『さあ? 君のことを観察するようにお願いはしているけど、基本的には気ままな人だからね。どこにいるのかは俺もわからない』


「連絡とか取れないの?」


『取れないこともないけど、あまり必要性を感じないね。ただでさえ、俺の都合で負担をかけてしまっているのに、これ以上縛るのもどうかと思うし、俺が話したいと思えば、大抵はいつも向こうから来てくれるしね』


「うーん……」


 オールドさんからここまでの話が聞けたのは初めてだ。

 大抵は、いつも詳しいことは話せないと言ってはぐらかされるんだけど、今回はオールドさん自身ではなく、友人の話だったから多少条件が緩かったってことなんだろうか?

 理由はよくわからないけど、今ならばもっと突っ込んだことを聞けるかもしれない。


「なら、その友人の特徴は?」


『特徴、うーん……まあ、神出鬼没、とだけ言っておこうかな』


「それは特徴なの?」


『もちろん。彼はどこにでもいる。彼が居たいと思った場所にすぐに現れることができるからね』


「そういうスキルってこと?」


『そう思ってくれて構わないよ。君も、会ったことあると思うけどね』


「え?」


 会ったことがある? はて、そんな人物いただろうか。

 今までいろんな人に会ってきたけど、神出鬼没って言葉が似合いそうな人なんて、いなかったような気がする。

 いや、細かく考えればいるのか? 神出鬼没の条件がよくわからない。

 うーん……今は思いつけないな。


『まあ、さっきも言ったけど、彼には君を観察するようにお願いしてあるし、いずれもう一度会う場面もあるんじゃないかな?』


「さっきから言ってるけど、私を観察して何する気なの?」


 さらっと言ってるけど、観察してるって、要は監視だよね?

 オールドさんのことについてはよくわからないけど、監視するってことは、俺のことで知りたいことがあるってことなんだろうか。

 でも、それだったらこうして話しているのだし、直接聞けばいいだろう。実際、以前は俺の話を聞きたいって、交換条件を出してまで話していたんだから。

 わざわざ監視する理由がわからない。


『俺は君に期待しているんだ。君ならば、いずれ……あー、んー、大いなることを成し遂げてくれる気がしている。俺が直接道を指定することはできないが、俺の思惑通りに動いているかどうかは気になる。だから、ちょっと観察させてもらおうかなと』


「普通に気持ち悪いの」


『はっはっは、違いない。でも、これは非常に重要なことだ。君の選択が、命運を分けることになるかもしれない。どう転ぶかわからない以上、観察したくなる気持ちは君もわかると思うけどね』


「んー、まあ、なんとなくはわかるの」


 例えば、オートで敵と戦うようなシステムのゲームがあった場合、俺は別に何も操作せずとも、キャラ達は敵を倒してくれるわけだけど、相手が強敵だったらどう転ぶかわからない。

 途中で手を貸さなければ負けてしまうかもしれないし、あるいは負けたらペナルティがあるとかだったら、余計に目を離せないだろう。

 仮に、勝てる可能性の方が高かったとしても、よほど他のことで忙しいでもない限りは、観察したくなると思う。

 それと同じだと考えれば、気持ちはわからなくもない。

 ただ、逐一自分のことを見られていると思うとちょっと怖いな。今のところ、オールドさんに俺を害する気はないみたいだけど、もし関係がこじれて、敵対するようなことになってしまったら、寝首を掻かれてしまうかもしれない。

 できれば監視しているその友人を見つけたいけど、今まで気配すら感じたことないんだよな。もしこっちに敵意を持っているなら、多少はわかりそうなものなのに。

 俺は少し不安を感じながらも、オールドさんに質問を続けた。

 感想ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] やっぱり団長かなぁ
[一言] >『特徴、うーん……まあ、神出鬼没、とだけ言っておこうかな』 >『そう思ってくれて構わないよ。君も、会ったことあると思うけどね』  やっぱ団長は粛正のか、それに極めて近いナニカですねぇ。…
[一言] サーカスの団長さんかな? 敵っぽかったけど、敵じゃないのかな……
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