第四百九十六話:破壊不可アイテム
「ねぇ、これどうするの?」
「どうするって言われても……」
何度も攻撃すればいずれ壊せるんじゃないかと淡い希望を抱いたりもしたけど、これは恐らく防御力を抜けていないのが原因だ。
『スターダストファンタジー』のダメージは、攻撃のダメージから防御力の値を引いた数で算出される。
まあ、それに加えて【プロテクション】によるダメージ軽減とかもあるけど、簡単に言えばそんな感じである。
で、この場合、ダメージよりも防御力が上回った場合、ダメージはゼロになる。
これが、あまりに格上だと絶対に勝てないという理由であり、これを突破するには、毒などによる継続ダメージを与えるか、防御無視攻撃をするくらいしか方法がない。
それと同じ理屈なら、これも防御無視攻撃をすればいいんじゃないかと思ったけど、なぜだか壊すことはできなかった。
アイテムだから防御力という扱いではないのか、それとも防御無視攻撃を無効化する効果でもあるのか、どういう理由かはわからないけど、これでは壊すことはできない様子。
もちろん、状態異常による継続ダメージもダメ。そもそもアイテムだからなのか、かかりすらしなかったしね。
本格的に、たまたま偶然壊れたものを見つけるくらいしか方法がなくなってきた。
どうすりゃいいんだ……。
「とりあえず、いったん上がる?」
「そうするの」
とりあえず、これ以上ここで攻撃していても埒が明かないし、ここはいったん体制を整えることにしよう。
そう思って、海上へと上がる。
辺りはすっかり暗くなり、太陽に変わって月が空に浮かび始めていた。
思ったよりも長く海底にいたらしい。早く帰らないと怒られそうだ。
できれば今日中に回収しておきたかったが、仕方ないのでポータルで城へと戻る。
大丈夫、ポータルさえ設置しておけば、またいつでも来ることができる。チャンスはまだあるはずだ。
「しかし、どうしたものか……」
夕食を取り、お風呂にも入って、みんなと別れて部屋でベッドに倒れ込む。
あの様子を見る限り、攻撃によって破壊するのは不可能だろう。
あの時は思いつかなかったけど、もしかしたら破壊不可のアイテムなのかもしれない。
一部の武器や防具は破壊不可アイテムと言って、どんな方法でも破壊できないというものが存在する。
主に終盤に手に入れられるものであり、敵の武器破壊、防具破壊を防いだり、【ブレイクバースト】のような、武器破壊スキルを使っても武器は破壊されず、攻撃力だけ上げる、と言ったような使い方ができたり、割と便利な代物である。
まあ、そもそも武器破壊とかをしてくる敵はそう多くはないので、メリットとなるのは主に自分で破壊する系のスキルのデメリットを無効化できるってくらいだけど、この世界なら劣化によって武器が壊れる可能性ももしかしたらあるかもしれないし、しっかりと手入れできない状態であれば、破壊不可は便利かもしれない。
まあ、それはいいとして、もしあれが破壊不可のアイテムだとしたら、壊して一部だけ持ってくるというのは不可能だ。
ならば壊さず、すべてを持ってくるというのも手だけど、あの一部だけでも相当な大きさがあったし、脱皮の際に多少砕けているかもしれないとは言っても、小島くらいの大きさはあるんじゃないだろうか?
そんなもの、いったいどうやって運べばいいのか。
普通の家くらいの大きさなら、ワンチャン運べるかもしれないけど、島レベルは無理だ。仮に運べたとしても、どこに置くんだって話になるしね。
こうなってくると、もうこれを入手するのは無理なように思える。潔く諦めて、別のレアアイテムを狙うのも手か?
「でも、なんだったんだろう、あの感覚……」
気になるのは、あそこで感じた妙な感覚だ。
一応、あの後カイン達にも聞いてみたけど、特にそんな感覚はしなかったという。つまり、俺だけが感じていたってことだ。
別に、ちょっと違和感を感じただけで、何か被害を被ったわけでもないし、何か見つかったわけでもないんだけど、俺だけが感じたというのが気になる。
いったい何だったんだろうか。
「……ん?」
と、そんなことを考えていると、【収納】にしまってあるスターコアもどきが反応した気がした。
オールドさんとの通信のために日に何度か確認はしてるんだけど、そういえば今日は確認していなかった気がする。
一応確認しておこうかと思って【収納】から出すと、その瞬間にオールドさんの声が聞こえてきた。
『やあ、ようやく繋がったかな?』
「オールドさん、そっちから連絡してくるなんて珍しいの」
いつもこちらから連絡していたし、連絡してもほとんど出なかったのに、一体どういう風の吹き回しなんだろうか。
俺の言葉に、オールドさんはからからと笑うと、さっそく本題に入った。
『いやなに、また懐かしい場所に足を運んでいたようだから、気になってね』
「懐かしい場所?」
『こっちの話さ。まあ、まさか海の底まで潜るとは思っていなかったけどね』
なんで知ってるんだ。
俺達がアイランドタートルの甲羅を採取しに行ったことは、誰も知らないはず。
一応、ショコラさんには少し確認したし、予想はできるかもしれないが、だとしても海の底まで潜っていたことを知るはずがない。
いったいどうやって確認してるんだ。衛星でも使ってるのか?
この世界に衛星があるわけないとは思うけど。
『まあ、それはいい。なにやら探していたようだけど、一体何をしていたんだい?』
「まあ、ちょっと、甲羅を探しに」
『なるほど、あれが欲しかったのか。確かに、防御力という点では優れているかもしれないね』
「別に、自分で使うために欲しかったわけじゃないの。ただ、研究したいって人がいたから、持っていこうと思っただけなの」
『研究、というとログレスかな? 確かに、あそこなら欲しがってもおかしくはないか。随分と面白いことになってるようじゃないか』
「オールドさんは、アイランドタートルの甲羅について何か知ってるの?」
この様子を見るに、アイランドタートルの甲羅がどんな効果を持っているのかも知っていそうだ。もしかしたら、破壊する方法も知っているかも。
一縷の望みをかけて聞いてみると、楽しそうな声で答えが返ってきた。
『もちろん。あの島は、俺の友人のいた場所でもあるからね。あそこに住む人々が、どんな暮らしをしているのかも知っている』
「それは、ちょっと興味あるの」
そういえば、あそこで暮らしている人達についても何もわかってなかったんだよな。
甲羅を手に入れてから改めて調べようと思っていたけど、結局甲羅は手に入らなかったわけだし、すっかり忘れてしまっていた。
確か、ログレスの人達が行った時は、交渉の余地なく突っぱねられたという話だったけど。
『なら、少し話そうか。今日は、ちょっと調子がいいんでね』
そう言って、オールドさんは話し始めた。
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