第四百九十一話:島亀
リストに載っているアイテムはざっと100個くらい。そのうち三割くらいはすでに見つけており、【収納】にしまってあるので、いつでも渡すことが可能だ。
そして、場所を見る限り、見つけるのはそう難しくはないだろうというものが三割くらい。
これらは、その場所自体に行くのが難易度が高いだけで、生息率が低いというわけではないとショコラさんが言っていた。
道が険しいだとか、魔物が強いってくらいだったら、俺達には障害にはならない。高いレベルによって上がった能力値があれば、大抵の場所は問題なく移動することができる。
めちゃくちゃ高い山も登ったしな。暑さ寒さとか、空気の薄さとか、そういうものをなんとかできれば、行くこと自体は簡単だ。
そしてそれも、装備やスキルの取得によってカバーすることができる。だから、その場所に行くことが難しいってだけだったら、何の問題もないのだ。
で、残りの四割なんだけど、そもそもの生息率が低かったり、見つけるのに相当苦労するという代物らしい。
例えば、雪深い雪原の下にしか生えないだとか、一年の内特定の日にちでしか採取できないだとか、空気に触れると別のアイテムになってしまうだとか、そういうもののようだ。
場合によっては何か月も待ってようやく採取する機会が巡ってくるってものだったり、特殊な設備がなければそもそも採取できないということもあって、これらの取得は絶望的である。
一応、これらを無視して、場所の難易度だけが高いものだけを採取していっても、目標の半分は超えることができるが、ショコラさんは、一つでいいから、この中から何か取って来てほしいと注文を付けてきた。
まあ、ショコラさんとて研究者だし、せっかく貴重な素材が手に入るチャンスなのだから生かしたいのだろう。
こんな無理難題吹っかけてきているのに図々しいとも思うが、それはスターコアの価値を考えれば当然のことだし、それに関して文句はない。
他の素材に関しては、スターコアを探してもらっている人達の中から一部を引っ張ってきて任せてもいいけど、こちらに関しては俺達がやらないとだめだろうな。
「探すのはいいけど、どれ探すんだ?」
「それが問題なの」
問題なのはどれを探すべきかということ。
正直、難易度に関してはどっこいどっこいだと思う。植物でも鉱石でも動物でも、相当な苦労をしないことには手に入れるのは難しい。
絞るとしたら、まずあまり時間をかけたくないから、季節限定とかそういうものは除外することになるだろう。
直近で手に入る代物ならいいが、よくて一年後とか言うものを探すのは無理だ。いや、無理ではないが、面倒くさい。
で、採取するのに特別な条件がいるものも却下。
言えばそれらの器具を貸してくれるかもしれないが、ただでさえ見つける確率が低いのに、さらに採取に失敗する可能性が増えるのはいただけない。
もちろん、きちんと使い方を学び、適切に採取したり、何ならショコラさんをその場に連れて行って採取してもらうってことをすればそれでもいいかもしれないが、確実に手に入れられないかもしれないって言うのはマイナスだ。
できることなら、【収納】にさえ入れておけば問題ないってものが好ましい。
そうやって絞っていくと、残るのは……。
「アイランドタートルの甲羅……」
「島亀? それってどんな魔物なの?」
「アイランドタートルは魔物じゃないの。どちらかというと、大陸に近いの」
アイランドタートルは、甲羅の上に大地が根付いている、超巨大な亀である。
見た目には孤島のようにしか見えず、時にはそこには動物が生息していたり、あるいは人が町を築いている場合もある。
とても温厚な性格で、滅多に動くことがなく、たとえそこで生活していても、自分達がアイランドタートルの上で生活しているだなんて思わないこともしばしばあるようだ。
暴れられればひとたまりもないが、基本的には温厚であり、さらに、外敵が迫ろうものなら撃退してくれることもあることから、人族の味方として、魔物認定はされていない。
だから、分類としては、島、あるいは大陸と言ったところだろう。
「そんなでっかい亀の甲羅なんてどうするの?」
「さあ? まあ、一部だけでもいいって言ってるから、成分とかを調べたいんじゃないの?」
「へぇ」
アイランドタートルについては、ルルブのコラムにちょっと書かれていた程度である。
確か、伝説ではアイランドタートルを使って世界征服をしてやろうと画策した馬鹿がいた、みたいなことを書かれていた気がするけど、よくそんなことを思いつくよね。
「でも、友好的な動物から無理矢理甲羅を剥がすのは、なんだか気が引けますね」
「いや、欲しがってるのは脱皮して脱げた甲羅みたいなの」
「亀って脱皮するんですか?」
「知らないけど、何年かに一度、アイランドタートルが大きく身震いすることで、地震みたいなことが起こるらしくて、その際に大地がごっそりなくなることがあるって話だから、多分そこで脱げてるんじゃないかと思うの」
「なるほど」
一応、アイランドタートルは人族の味方とはいえ、脱皮の際は町が崩壊するレベルのことが起きる。下手をすれば、甲羅に住んでいる人々は皆海に沈むことになる。
そのせいで、過去には数多くの人々が亡くなったという記録もあり、どうにかして脱皮の周期だけでも把握できないものかと言われているのは事実だ。
今のところ、アイランドタートルだとわかっている島はいくつか確認されており、それらは過去にも何度か脱皮をしているらしい。
だから、どうにかして甲羅を入手し、その生態を調査したいわけだ。
決して、甲羅を使って大儲けしようと考えているわけではないし、むしろそこに住む人達に安全に避難できるようにするためなのだから、悪いことをしようとしているわけではない。
だから、いいかなって。
「まあ、私はアリスさんについていくだけなので構いませんよ」
「別にいいんじゃね? 生きてるアイランドタートルから無理矢理引っぺがすわけじゃなく、海の底に沈んだ甲羅を回収するってだけだろ?」
「ああ、そういうことなんだ。まあ、それならいいのかなぁ」
アイランドタートルの甲羅を入手しづらい理由は、海の底に落ちてしまっていること、そして、そもそもが巨大で回収が不可能だからだ。
まあ、一部でもいいみたいだから、砕けばいいのかもしれないけど、そもそも海の底でそんなことできる技術はこの世界にはない。
だからこそ、無理難題のリストに載せられているわけだ。
しかし、海の底に潜るだけだったら、ちょっと準備はいるけど不可能ではない。
他の入手しづらいものと比べたら、まだ楽な方なのだ。
「じゃあ、決まりなの」
「しかし、海の底なんだろ? どうやって行くんだ?」
「その辺は考えがあるの」
まずはそこからだよな。
俺だけだったら、【水中呼吸】っていうNPCスキルがあるから、スキルを取れば問題はないけど、シリウス達はNPCスキルを覚えられない。だから、それに代わるスキルを取るなり、装備を整えるなりする必要がある。
でも、それには当てがある。何の問題もない。
俺はひとまずどんなデザインにするかと思案しながら、素材の準備を進めることにした。
感想ありがとうございます。




