第四百八十九話:獣人と言えば
ひとまず、要望は後で聞いておくということで、しばらく待つことになった。
すっかり忘れていたけど、レキサイトさんの発表のために手直しをする必要もあるらしいので、明日また来てくれとのこと。
まあ、オールドさんについてや、グレンさんについてなど、色々と新しくわかったこともあったし、話し合いとしては有意義な時間だっただろう。
おかげですっかり日が暮れているが、これならチェーンライブラリーに入らなかったとしても問題はない。
ちょっとは気になるけど……また後で機会があったら入れてもらえばいいだろう。
「それにしても、三千年前の人物って意外といるのな」
「確かに。イグルンさんもそうだもんね」
研究所を後にし、城へと戻って、微妙に空いた時間を俺の部屋で潰す。
三千年前というと、物凄い昔なはずなんだけど、まさかそんな時代から生きている人がいるとは思わなかった。
一応、イグルンさんも三千年前、というかそれ以上に昔の人物ではあるんだけど、あれは肉体を失って魂だけの状態になっていたし、どちらかというと幽霊みたいなものだ。生きていたとは言い難い。
それに引き換え、ショコラさんは正真正銘三千年を生きた人である。
いったいどんな人生だったんだろう。初めから、すべてをなくした状態でスタートする人生なんて考えたくもないけど、もし俺が同じような状態だったら発狂しているかもしれない。
いつかは呪いを解いてあげたいとも思うけど、ショコラさんはそれを望まないだろうか?
恐らく、【キュア・カース】では解けない類の呪いだとは思うけど、なんだかんだ今の人生を満喫しているようだし、可哀そうだからとあえて死なせてあげる必要はないのかもしれない。
まあ、頼まれたところでやりたくないけどさ。
「他にも時代の粛正以前から生き残ってる奴がいるかもな」
「というか、私達は今からそいつを探す予定なの」
「それもそうか。グレンだっけ? どこにいるんだろうな」
三千年前に行方をくらませた人物を探すのは相当に大変だろう。
せいぜいわかることは、クラスやスキルを持っているであろうことと、もしかしたら獣人かもしれないってことくらい。
一応、獣人の国にも行ったことはあるけど、そこにいたりするんだろうか?
グレンさんが住んでいた村の人達をどう思っていたのかはわからないけど、同じ獣人として一緒にいたいと思っていたなら、今も獣人の中で暮らしている可能性はなくもない。
ただ、いつまで経っても容姿が変わらないと考えると、一つの場所に留まっているのは危険だろう。
ただでさえ、魔女達は同じような理由で迫害されてるんだから、それを理由に何か言われていてもおかしくはない。
あれ、でもそうなると、俺達も同じようなこと言われる可能性があるのか?
シリウスやサクラは成人してもそんなに容姿変わらないような種族だから何も言われなそうだけど、俺やカインは普通に成長する種族だし、不審に思われることもありそう。
むしろ、もう思われているかもしれない。何か対策取った方がいいのかな。
「もし仮に獣人の国にいるのなら、ラズリーさんが何か知っているかもしれませんね」
「確かに、ラズリーも同じ条件だから、似た者同士何か知ってるかも」
「なら、またあの町に行ってみるのもいいかもしれませんね」
「別に行かなくても、そのうち納品で来るだろうし、その時聞けばいいんじゃない?」
「ああ、それもそうか」
鍛冶屋であるラズリーさんにはこの国の武器や防具を作ってもらっている。
効果自体はそこまで強くはないが、特殊効果までついた特注品。しかも全部ミスリル製となれば、戦力アップは間違いない。
今の時点でも、正規の兵士はほとんど行きわたっているし、予備として武器庫に貯蔵しているものも数多くある。
これだけあれば、いざ魔物が攻めてきたとしても十分対処できるだろう。
ラズリーさんには、とてもお世話になっているのである。
「他に獣人というと、クリーか?」
「あのナイフをよく折ってる人? 今なにしてるのあの人」
「一応、スターコア捜索のために調査に出てもらっているけど、本人的にはラズリーさんの護衛って立ち位置みたいなの」
「護衛ねぇ。まあ、必要ではあるか」
「必要、かなぁ?」
クリーさんは、【アサシン】なはずだけど、ビルド的に、火力を出すには武器破壊スキルを使う必要がある。
いや、別にそこまで火力出さなくても、その辺の魔物なら倒せるとは思うのだけど、なんかついやっちゃうらしい。
で、その折れたナイフの代わりを作ってるのがラズリーさんであり、以前の事件の件も合わせて、ラズリーさんを守ってあげたいと思っているようだった。
ただ、ラズリーさんはそんなことしなくても優秀な店員が何人もいるようで、ナイフをツケで買ったクリーさんを追い詰められる程度には強い人がいるようなので、わざわざ護衛に回らなくても何とかはなりそうだけどね。
ラズリーさん自身はそこまで戦闘力はないけど、そのカリスマ性は十分高い。優秀な人を呼び込むのはお手の物のようだ。
まあ、そうでなきゃ、あんなふうに鍛冶屋をやってはいられないだろうけど。
「後は一応クズハさんも獣人だけど」
「ただ、クズハさんは一つのところに留まっていたわけではないですから、知っている可能性は低そうですね」
「ずっと意識なかっただろうしな。まあ、イグルンなら知ってるかもしれんが」
クズハさんは、隣の大陸で聖女候補として活躍していた。
まあ、実際に活躍していたのは、クズハさんの体を乗っ取るような形になっていたイグルンさんだけど、どちらにしろ、獣人の町で暮らしていたというわけではない。
そういう意味では、クリーさんもあんまり知らないだろうな。あの人も、ぶらぶらさまよっていたようだし。
「獣人と言えばそのくらいか? まあ、アリスも一応獣人ではあるが」
「私に聞かれても困るの」
「わかってるよ」
今のところ、獣人の仲間はそれくらい。
一応、アスターさんとかも獣人ではあるけど、獣人の国について詳しいってなったら、当てはまるのはラズリーさんくらいなものだろう。
そのラズリーさんも、最近まで一部からつまはじきにされていたようだし、もしかしたら詳しいことは知らないかもしれないが。
もし本格的に探すなら、獣人の国で、長年容姿が変わっていない人を探すってことになるだろうけど、危機感を持っているならそんなことを思われる前に引っ越してそうだし、そういう噂があるかどうかも微妙なところ。
それで見つからなかったなら、いよいよもってどうやって探せばいいかわからないが、他に何か手掛かりがあればいいんだけどなぁ。
オールドさんに聞いたら、何かわかったりするだろうか? あの人、重要なことはほとんど言えないみたいだけど、友人がどうとか言っていたし、その人がグレンさんである可能性もワンチャンあるかも。
後でその辺を突っ込んで聞いてみたらいいかもしれないね。
そんなことを考えながら、しばらくみんなで話していた。




