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第四百八十六話:グレンの手掛かり

 グレン・ターク。クリング王国の南にある未開拓地域にあった、小さな村に残されていた名簿に載っていた名前の一つ。

 名簿には、すべての名前にバツ印がつけられており、その中でもおそらく最後にバツ印がつけられたと思われる人物の名前である。

 その人物が転移者だったというのは、なんともおかしな偶然だ。

 まあ、だからと言ってそれがどうしたという話ではあるんだけど、この人が転移者だったというなら、もしかしたら、オールドさんに何かしら関わっていた可能性もある。

 実際に話が聞ければいいんだけど、もう三千年以上も前の話だし、流石にそれは無理があるよね。


「グレン氏とオールド氏が関係あるかもしれないという推測か。それは流石に、こじつけが過ぎないかい?」


「それはそうだけど、情報が少なくてこう考えざるを得ないの」


 グレンさんもオールドさんも転移者なら、何かしら関係があってもおかしくはない。

 俺のように、同じ境遇の人を集めて仲間となっていたかもしれないしね。

 ただ、今のところそれを裏付ける証拠は何もない。そもそも、グレンさんは転移者だったかどうかすらはっきりしていないし、情報が少なすぎる。

 納得できるような情報とするには、こうしてこじつけるくらいしか方法がない。

 まあ、安易に先入観を持つくらいだったら、謎のままの方がいいかもしれないけどね。


「確かに、同じ転移者であるなら、可能性がないわけではないだろう。だが、信憑性の薄いものを信じすぎるのは良くない。やはり、何か根拠がなければ」


「なら、グレンさんについてもっと何か知らないの?」


「流石に、日々の日常のニュースの一つとして捉えていただけのものを詳しく話せと言われても困る。すでに三千年以上前の話だし、名前を憶えていただけでも感謝してほしいものだが」


「……ごめん、言いすぎたの」


「構わんよ。君は魔王を倒すためにやってきた、いわば神の遣いだ。魔王に繋がるかもしれない情報に躍起になるのはわかる」


 いくらショコラさんが三千年以上を生きる人だからと言って、すべてを知っているわけではないことくらいわかっていたはずなのに、やってしまったな。

 そもそも、そんなに焦る必要はないのである。いや、魔王がいつ復活するかわからない以上は、急いだほうがいいのかもしれないけど、その兆候は今のところ皆無だ。

 というか、すでに俺達が呼び出されてから五年くらい経とうとしているんだし、そんなすぐに復活という流れにはならないだろう。

 まだ時間はあるはず。ならば、ゆっくりと調べて行けばいい。

 何も、ショコラさんだけに聞く必要はないだろう。現場に行けば、もしかしたらまだ何か残っているかもしれないしね。


「グレン氏とオールド氏が何か関係あるという証拠はどこにもないが、確かめる術がないことはない」


「え、あるの?」


「確実ではないがね。というより、君ならば気づいていてもおかしくはないと思っていたのだが」


「え?」


 三千年以上前の人物であるグレンさんについて今更調べる方法なんてあるんだろうか?

 村に行けば何かあるかもしれないとは思ったが、あそこはすでにそれなりに調査したし、足跡を辿るにしても結構骨が折れそうだが。


「君はオールド氏と会話したのだろう? 確か、その声は若い男の声だったとか」


「う、うん」


「だが、君の推測だと、オールド氏は三千年以上前の人物だ。仮に寿命がないとしても、普通は老いてしゃがれた声になっていると思わないかね?」


「あっ……」


 そうだ、確かにその通りだ。

 ショコラさんのように、不老不死の呪いをかけられているならともかく、三千年も経っているなら、老いていてもおかしくはない。

 それなのに、まだ若い声だったということは、老いない体ということなんだろう。


「これは一つの仮説だが、転移者は老いないのではないかと言われているんだ」


「老いない?」


「そう。実際、国を統治していた当時の転移者は、時代の粛正で滅びるまでの間、一切姿形が変わっていなかったと言われている」


 それを聞いて、そう言えば俺達も年取ってないよなと思い出す。

 俺達がこの世界に来てからそろそろ五年経つはずなのに、俺の体は相変わらず幼いまま。

 種族が関係しているのかとも思ったが、人間であるカインも、すでに三十間近なのに若いままだし、俺達は姿が変わらないのではないかという仮説を立てていた。

 これが俺達だけでなく、転移者全員に働くのだとしたら、オールドさんが若いままだということにも説明がつく。


「もちろん、これはただの仮説だが、その様子を見るに、何か心当たりがありそうだね?」


「う、うん、あるの」


「それは重畳。なら、もしグレン氏が転移者であるならば、その体もまた、老いないのではないかな?」


「なるほど……」


 つまり、グレンさんも年を取らない性質を持っている。すなわち、うまくすればまだ生きている可能性がある。

 もちろん、当時呼ばれた目的を達成して元の世界に帰っている可能性もあるが、オールドさんが残っている以上、同じようにこの世界に残っている可能性は高いだろう。

 村人惨殺事件の後、捕まっておらず、そのまま逃げ切ることができているなら、どこかでまだ暮らしている可能性はある。

 問題は、それがどこかという話だが。


「まあ、仮にグレン氏が今も生きているとしても、流石にどこにいるかまではわからない。だが、君のその類稀なる運なら、見つけられるのではないかな?」


「運に頼るのはどうなの……?」


「半分冗談だ。もし、グレン氏を探すなら、私も協力しよう。ここは研究者と共に、多くの情報が集まる町でもある。グレン氏の情報も、いずれ舞い込むかもしれない」


 半分は本当なのか……。

 でも、これに関しては運にでも頼らなければ達成不可能だろう。

 グレンさんに会って話を聞く。これだけ聞けば簡単そうだが、その人物が三千年以上前の人物って言われたら誰だって匙を投げる。

 痕跡を調べるとしたら、その裁判を行った国だろうけど、その国は時代の粛正によって滅びているだろうし、その場所が今のクリング王国だからと言って、クリング王国には情報は残っていないだろう。

 わかりそうなのは、グレンさんは獣人なんじゃないかってことくらい。

 あの村にあった名簿は、獣人語で書かれていたし、少なくとも獣人語が読めたってことだろうからね。

 まあ、知力が高ければ獣人語を取得することはできるから、別の種族って可能性もあるけど、獣人の習性的にも、獣人である可能性はそれなりに高い。

 獣人で、転移者であることからクラスやスキルを持っている、これくらいか。

 探すの大変そうだけど、これも目的の一つに加えた方がよさそうだね。

 なんだかどんどん探すものが増えて行っている気がするが、謎を解くにはそうするしかない。

 とりあえず、それっぽい獣人がいないか後で聞き込みしてみようと思い、頭の中にメモしておいた。

 感想ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 既出の人物なら怪しいのはサーカスの団長かなぁ
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