第四百八十五話:意外な繋がり
「……なるほど、魔王の関係者と思われる人物か。君は重要な情報を手に入れるスペシャリストかもしれんね」
わずかな動揺は当然のようにショコラさんにも見抜かれ、俺はオールドさんについても話すことになった。
オールドさんは未だに謎が多く、重要人物っぽいとは思うものの、肝心なことを喋ってくれないせいで何もわかっていなかった。
だが、どうやらショコラさんはその人物に心当たりがあるらしい。
「先程話した魔王によく似た人物のことだが、中には名前を聞いた者もいた。そして、その名が、オールドだったと記憶している」
「なら、やっぱりオールドさんは……」
「十中八九、魔王の関係者、あるいは魔王自身だろう。いやはや、居場所まではわからずとも、直接会話をできるなんて君はとても運がいい」
オールドさんが魔王かもしれないというのは、ショコラさんにとっても可能性は高いらしい。
しかし、主観ではあるが、話してみた限り、オールドさんはそんなに悪い人のようには思えなかった。
大きな犯罪、時代の粛正をしてしまったことを後悔しているようだったし、そもそもそれは自分の意思ではなく、何者かによって操られた結果そうなってしまったというものだった。
俺からすれば、オールドさんは被害者のように見える。
だが、オールドさんが魔王、もしくは魔王の関係者だったとして、それなら一体誰に操られたんだって話だ。
ショコラさんの証言を信じるなら、オールドさん自身は神の御業に近いようなことをできたのだろう。であるなら、弱いはずはない。
そんな人が、一体誰に操られるって言うんだ。
考えられるとしたら、同じように別世界からやってきた転移者ってことになりそうだけど、彼らに世界を破壊する理由はないはず。
いや、あるかもしれないのか?
当時の彼らがどんな理由でこの世界に呼ばれたのかは知らないが、俺達と同じように突然呼び出されたのだとしたら、憤りを感じていたことだろう。
俺だって、いきなり連れてきて、魔王を倒せと言われてなにも思っていないわけじゃない。そんなのそっちが勝手に解決してくれとも思っていた。
であるなら、そうやって呼び出した神様の世界を破壊し、憂さ晴らしをしようとしたという可能性もなくはない。
もちろん、そんなことをすれば元の世界に帰れないだろうし、いくらキャラとしての力があるとしてもそこまでの力はないかもしれないが、例外は存在する。
今の時点だって、例えばシュエとかノクトさんは本来ではありえない幻獣の冒険者だ。
そういう、通常ではありえないような設定を反映できるなら、洗脳能力を持ったキャラや、あるいは世界を憎んでいる復讐者のようなキャラがいても不思議はない。
そうした設定を持った人がたまたま呼び出されて、オールドさんを魔王に仕立て上げた、あるいは魔王に協力させた、という可能性もある。
そうだとしたら、オールドさんはとても運がないというか、可哀そうではあるけど。
「しかし、仮にそのオールド氏が魔王だったとして、アリス殿の話を聞いている限りでは、再び時代を粛正する気はないように聞こえるが」
「多分、オールドさんも望んで時代の粛正をしたわけではないと思うの。そうするように仕向けた誰かがいるはずなの」
「なるほど。確かに、オールド氏の言葉を信じるなら、そういうことになるだろう。しかし、オールド氏が君を騙そうとしている可能性はないのかな?」
「私に嘘は通じないの。意識していれば、嘘をついているかどうかくらいわかるの」
「ああ、【センスイヤー】だね。それならそれなりに信憑性は高いか。となると、誰が唆したかということだが」
「ショコラさん、当時、私達みたいな転移者はいなかったの?」
「ふむ。確かに、転移者という概念はあった。知っての通り、この世界は我々が住んでいる物質界、いわゆる地上の他にも、神々が住む神界、幻獣達が住む幻獣界のように、様々な世界が存在する。だから、こことは違う、全く別の世界からやってくる何者かを、転移者と呼ぶことがあった」
ショコラさんの話によると、転移者は様々な種類が存在するらしい。
人間もいればエルフもいるし、ドワーフやホビットもいる。なんなら、ロボットや魔物の姿をしていることもあるようだ。
だが、基本的にそれらはこの世界に既に存在している者の姿と大差がなく、一目見て転移者だと気づくことは稀だという。
転移者自身が申告して、且つその力を見せつけることができた者だけが、正式に転移者と認められ、国などから手厚く保護されていたようだ。
「今は知られてすらいないが、当時も相当珍しい存在だった。うまく立ち回り、王として君臨した転移者もいたが、中には嘘つき扱いされ、拷問の末に殺された自称転移者も少なくない。転移者だと名乗ることは、一獲千金のチャンスであると同時に、とんでもない博打だったのだ」
「それじゃあ、情報を知っていれば、自分から転移者だって名乗る人はいないの」
「そうだ。転移者と認められた者も、本当に転移者だったかどうかはわからない。だから、誰々が転移者だったと断言することはできない」
転移者と言うこと自体がリスクだったと考えると、自分から言い出す人は稀な方だろう。
となると、オールドさんも、唆した誰かも、隠れていた可能性が高いか。
それだと、流石に割り出すのは無理があるよなぁ……。
「私が覚えている転移者絡みの事件というと、大陸の南の方で、裁判にかけられた転移者が逃げ出したという話か」
「逃げ出したの?」
「ああ。今でいう、クリング王国の付近だろうか。転移者を騙ったとして有罪判決を受けた人物が、その結果に納得できずに逃げ出したという話だったはずだ」
ショコラさんの話が本当なら、当時ならそう珍しくもなさそうな事件である。
でも、逃げ出せたってことは、本当に転移者だったのかな? あるいは、とてもレベルが高かったとか。
「そいつは小さな村の出身だったらしいんだが、そうして逃げ出した後すぐ、その村の住人が惨殺される事件があったらしい。そのせいで、ちょっと話題になったんだ」
「それって……」
転移者だと名乗る人物が住んでいた村が、裁判事件の後に惨殺事件があった。
たまたま盗賊とかに襲われた、とも考えられるけど、二つの事件を繋げて考えると、その逃げた人物を匿った村人達を、裁判を行った国が惨殺した、とも取れるか。
もしそうだとしたら、その転移者の人はその国を相当恨んでいそうだな。
「それで、転移者の人は捕まったの?」
「いや、結局捕まえることはできなかったようだ。その後の話は聞いていないから、どこかで捕まったのか、逃げおおせたのかはわからない」
恐らくだけど、その転移者って人は本当に転移者だったんじゃないかな。
警備が厳重であろう裁判所から逃げるのはかなり難しいだろうし、何か特別な力でもなければ難しい気がする。
本当のことを言ったのに、疑われて、しかも自分が住む村の人達を殺されるなんて可哀そう。
「名前は何だったか。確か……グレン、だったかな?」
「グレン?」
その名を聞いた時、どこかで聞いたような気がした。
どこだったかと頭の中を整理していると、それがとある村で見つけた名前だということを思い出す。
そう、未開拓地域で見つけた小さな村。その最後の生き残りの名前であろう名前。
ここで、繋がるのか?
まさかの繋がりに、俺は目を見開いた。
感想ありがとうございます。




