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第四百八十四話:真逆の人物像

「私は当時、ログレス再興のために方々を旅していた。仲間を集めるため、物資を集めるためにそうせざるを得なかった。その過程で、様々な人から話を聞く機会があったのだ」


 そう言って話してくれたのは、時代の粛正が終わった後の魔王についてである。

 各地での魔王の評価は、恐怖に彩られていた。それはそうだ、かつての腕利きの冒険者やドラゴンまでもが参加して、勝てなかったのだから。

 中には家族を殺されて悲しむ者、怒る者など、基本的にはマイナスの感情ばかりだったが、そんな中でも、魔王を肯定する人もいた。


「彼らの魔王の評価は、他の人々と比べて真逆だった。命を救われた、優しい人だったなど、おおよそ魔王の評価とは思えないような内容だった」


「地上を蹂躙されて、おかしくなっちゃったとかなの?」


「いや、そうではない。正確に言うと、彼らがそう評価したのは魔王ではなく、魔王に似た人物だった。その人物に、救われた人が多数いたということだろう」


「うーん?」


 魔王に似た人物?

 多分、容姿が似ていたってことなんだろうけど、それだけでイコール魔王ってこじつけるのは早計ではないだろうか?


「確かに、それだけなら魔王によく似た他人だと思うだろう。しかし、彼らは皆、その人物のことを神だと称した」


「か、神様なの?」


「そう。その力の一端を見たという人物もいた。迫りくる魔物を軽く手を払うだけで屠って見せたとか、神業とも言える強固な結界を一瞬にして作り上げたとか、そんな感じだな」


 あまりにも似ている容姿と、神様の力とも取れる神業の数々。

 ショコラさんは、魔王は神様に連なる者なのではないかと言っていたけど、ここでそれが繋がってくるわけだ。

 もちろん、その話だけで本当にその人がやったことが神の御業なのかはわからないけど、そこまで証拠が揃っているなら、同一人物と考えても差し支えないってことなんだろう。

 まあ、聞いているだけだとちょっと根拠が弱いような気もするけど。


「もし仮に、その人物が魔王だとしたら、色々と矛盾が出てくる。なぜ、地上を滅ぼしておきながら、生き残りに対してそんな行動を取ったのか、ということだ」


「それは……」


 粛正の魔王の目的は、時代の粛正である。一度世界をリセットして、やり直させるシステムだ。

 魔王がやるのは、単純に文明の破壊であり、人々の殲滅ではない。だから、生き残りに対しては優しくなれた、とも考えられる。

 まあ、当時の人々からしてみたら、唐突にやってきて世界をめちゃくちゃにした化け物って印象だろうから、そう考えるのは無理があると思うけど。


「……何か知っているようだね?」


「えっ? あ、いや、それは……」


「自信をもって述べたと思ったが、この情報も知っていたかな? むしろ、私は君に教えを乞う立場なのだろうか」


「そういうわけじゃないと思うの……」


「でも、何か思い当たることがあるようだが?」


「ま、まあ……」


 俺はこらえきれなくなって解釈を話す。

 粛正の魔王は何も、人々の殲滅を望んでいるわけではない。人々にとって、魔王とは乗り越えなければならない試練であり、粛正の魔王はその最たるもの。

 そもそも目的が違うから、助けたのではないかという話をすると、ショコラさんは腕を組んで考え込み始めた。


「……なるほど。粛正の魔王の目的は文明の破壊であり、人々の殲滅ではない、か。確かにその理論なら、生き残りをわざわざ殺す必要もない。むしろ、そこから這い上がってくれなければ困るのだから、助けるのは当然ということか?」


「そこまでは知らないけど、多分そんな感じなの」


「ふむ、面白い。そんな解釈があるとは思わなかった」


 ショコラさんはうむうむと頷いているけど、これで納得できるのは凄いと思う。

 レキサイトさんなんて、なんのこっちゃって感じでぽかんとしているしね。

 三千年の知識の積み重ねは伊達じゃないってことだろうか。俺も、設定を知っていなければわからなかったと思うし。


「なかなか有意義な話を聞けた。礼を言う、アリス殿」


「いや、こちらこそなの」


 粛正の魔王に関しては、推察できるのはこのくらいだろう。

 なぜ神界に乗り込んだのかはわからないが、粛正の理由に神界が絡んでいたとかだろうかね。

 まあ、ここですべての謎が解けるとは思っていないし、今後も色々と話をしていけば何か発見もあるかもしれない。

 ショコラさんは、三千年前のことを知る数少ない人のようだし、唐突に思い出すこともあるだろう。


「あ、そう言えば、まだ聞きたいことがあったの」


「なんだね?」


「三千年前、時代の粛正が起こる前に、何か大きな事件はなかったの?」


 なんだか話が終わってしまう雰囲気だったが、肝心なことが聞けていなかったと思い出す。

 元々、ここに来た理由はオールドさんの関わった事件を調べるためだった。

 もちろん、魔王についての情報も大切だが、そちらも重要であることに変わりはない。

 当時のことを知るショコラさんなら、何か知っているかもしれない。


「大きな事件? 火山が噴火したとか、そんなものか?」


「いや、何かしらの犯罪なの。すべての冒険者に恨まれるような、大きな犯罪なの」


「すべての冒険者に恨まれるとは、一体何をやらかせばそんなことになるんだね」


 まあ、それはそう思う。

 冒険者は、依頼人やギルドの指示で、魔物を討伐したり、遺跡の調査をしたりしているわけだけど、そんな彼らに嫌われるって何をしたらそうなるのか想像できない。

 一応、ギルドは、冒険者同士を意図的に同士討ちさせたり、ギルドの信用を著しく損なうような行為をした者に対しては容赦しないが、ギルドに逆らったらどうなるかなんて子供でも知っていることである。

 一生ギルドに追われるような生活をしたいと思う奴はいないし、犯罪者でも、ギルドに喧嘩を売る奴はそうはいない。

 だから、オールドさんは何をして冒険者と敵対することになったのか気になる。


「少なくとも、私が聞いた限りでは、ギルド全体を敵に回した愚か者の話はなかった。もしそんなものがあったなら、全国のギルドに通達されるはずだから、もし本当にそんなことがあるなら耳に入らないということはないと思うがね」


「そっかぁ……」


「まあ、私の生まれる前にあったというならわからないが、当時の歴史書を読んでも、そこまで恨まれるような輩はいなかったと思うが」


 じゃあ、一体オールドさんがやらかした犯罪って何なんだろうか。

 冒険者を、ギルドを敵に回したなら、必ず全国に周知されているはず。普通の子供ならともかく、知識欲が旺盛なショコラさんなら、そういった話があったなら確実に耳にしていることだろう。

 それなのに、そう言った話はなかったという。一体どういうことだ?


「強いて言うなら、粛正の魔王は冒険者達から嫌われているとは思うがね」


「えっ?」


「だってそうだろう? 腕利きの冒険者が総出でかかっても倒せず、世界をめちゃくちゃにされたのだから、恨まない方がおかしいと思うが」


「それは、確かに」


 その理屈で言うなら、確かに魔王は冒険者達から恨まれている。

 まさかとは思うが、オールドさんの正体って……。

 いや、まだそうと決まったわけではない。仮に、オールドさんが魔王だったとして、じゃあなんで俺と暢気に話なんてしていたんだってことになるし。

 魔王の関係者って言うのが一番有力そうだろうか。魔王の関係者なら、魔王が嫌われているイコール関係者の自分も嫌われているってなりそうだし。

 これに関しては、オールドさんに問い詰めないといけないかもしれない。

 もし、魔王、もしくは魔王の関係者であるなら、放っては置けない人物だし、何とか接触したいところだ。

 思わぬところで判明したオールドさんの正体予想に、少し動揺しつつも今後の接し方を考えた。

 感想ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 名前聞かないのかな
[一言] 今までの事が色々と繋がって来そうな話でした 仮にオールドさんが粛清の魔王だとしたら何故そうなってしまったのでしょう。明かされるのが楽しみです
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