第四百七十七話:手掛かりを探して
粛正の魔王に対抗した人物として、いくつか人物が取り上げられている。
彼らはとても強力な力を持っており、レベルで表すなら100は超えているだろうと紹介されていた。
彼らは嵐を巻き起こしたり、傷ついた者を瞬時に癒したり、多くの人を盾で守ったり、単独で矢の雨を降らせたりした。
今の時代では考えられないほどの超絶技巧の数々。これに関して、当時はそもそものスキル体系が違っていたのではないかと言われている。
今現在のスキルは、【治癒魔法】とか【剣術】のように、基本的なスキルが存在し、それをどれだけ極めたかによってスキルレベルが設定されている。
しかし、当時の彼らの行いを見る限り、仮にスキルレベルが10あったとしても、説明がつかないようなことがいくつも上げられる。
だから、スキルレベルによって技量が上がっていくのではなく、そもそもが特別な行動を取ることができるスキルが存在していたのではないかという仮説があった。
当時の人々はそれらを使って、人間業ではできないような超絶技巧を繰り返していた。しかし、粛正の魔王にはそれでも勝てなかった。
善戦はしていたようだが、それだけの技術力をもってしても魔王には届かず、徐々に数を減らして敗北するしかなかった。
もしかしたら、魔王は一体の魔物というわけではなく、概念のようなものなのかもしれない。あるいは、外宇宙から来た得体のしれない怪物のようなもの。
いくら強力なスキルを使えたとしても、効果がなければ何の意味もない。仮に、物理も魔法も何もかもに耐性を持っていたのだとしたら、何をやっても倒すのは不可能だ。
つまりは、時代の粛正に抗う術はないということである。
「これ見る限り、当時はクラスが普通にあったのは間違いなさそうなの。魔王に勝てないのも、まあレベルを考えれば当然なの」
まあ、元から当時はクラスがあったのではないかということはわかっていた。
今それがないのは、粛正の魔王によって神界が侵攻され、多くの神様達がいなくなってしまったから。要は、クラスを担当する神様がいなくなってしまったから、現在の全く違うスキル体系になっている。
これはアルメダ様からも聞いたし間違いないだろう。
「少し思うのは、なぜ粛正の魔王が現れたのか、という話なの」
一応、『スターダストファンタジー』において、粛正の魔王は過去に何度か登場している。
粛正の魔王は、その名の通り時代を粛正する存在であり、その度に時代は滅んでいたとも書かれていた。
そのトリガーとして、戦争などの理由によって、人々が争い、収拾がつかなくなった時、というのがある。
要は、世界全体がおかしくなったから、それをリセットするために一回滅ぼしますよってことだ。
戦争以外にも、例えば飢饉によって食料がなくなり、人類の存続が不可能になった時とか、水害によって地上のほとんどが海になってしまい、住むことができなくなった時とか、時代の粛正が行われる理由はいくつかあるらしい。
時代の粛正が起こるのは、その時代に生きる人達からすれば絶望的なことではあるが、同時に世界を存続させるための機能として必要なもの、という見方もできる。
つまり、三千年前に時代の粛正が起こったということは、何かしら要因があったということになる。
「見ている限り、何か起こったような描写はないの」
この本に書かれていることもそうだが、アウラムやエキドナから聞いた話を総合すると、人もドラゴンも幻獣も、みんな粛正の魔王と戦って果てていったように聞こえる。それを考えると、少なくとも戦争によっていがみ合っていた、ってわけじゃないだろう。
まあ、魔王を相手にするのに一時的に協力したって考えもあるけど、多分ないんじゃないかなと思う。
だけど、だからと言って、食料が不足していたようにも思えないし、何か災害が起こってぎりぎりの状態だった、というわけでもなさそうだ。
まあ、あくまでこの本に書かれていることだし、そんなに詳しく書かれているわけでもないから、実際にはそういうことがあったのかもしれないけど、断言するには情報が足りなすぎる。
「オールドさんが関係してそうな事件のことも書かれてないし、ちょっと期待外れなの」
まあ、城で調べるよりは詳細なことが書かれているという意味では来た甲斐があったと言えるかもしれないが、結局三千年前に何が起こっていたのかを示すものは少なかった。
例えば、三千年前にはこんな生活があったんだよ、とかそういう日常的なものですらほとんど残されていない。
一応、当時の地名やそこで何が行われていたのか、というのは簡単にではあるけどまとめられていたけど、それらが現在の技術に使われているかと言われるとどうなんだろうって感じ。
「んー、本を読みに来たってだけなら十分満足だけど、これどうするの?」
オールドさんについても、粛正の魔王の詳細についても何もわかっていない。
多少詳しく載っていたとはいえ、ほとんどはすでに知っていることばかり。
流石に、これ以上詳細が載っている図書館なんてありはしないだろうし、後はダメ元で歴史研究家達に意見を求めるくらいしかないか?
「おーい、アリス」
「ん? シリウス、どうしたの?」
と、そんなことを考えていると、遠くに本を取りに行っていたシリウスが話しかけてきた。
一体なんだろうと思って振り返ると、ちょいちょいと手招きをしているので、首を傾げながらついていく。
そうして、しばらく進むと、奥の本棚に隠れるようにして、一つの入り口があった。
「ここは?」
「まあ、そこの小窓から覗いてみろよ」
「?」
言われた通りに、扉についている小窓から覗いてみると、そこには薄暗い部屋にいくつも本棚が並べられている部屋があった。
まあ、ここは図書館だし、本棚があること自体はおかしなことでもないが、それらの本はすべて鎖で巻かれていたのである。
これっていわゆる、チェーンライブラリー?
「なんか、いかにもって感じじゃないか?」
「まあ、確かに」
チェーンライブラリーって言うのは、本に鎖をつけて、図書館から持ち出せないようにするための工夫である。
実際にお目にかかったことはないが、昔はこういう工夫で盗難を防いでいたとか聞いたことがある。
今いる場所では普通に読めるのに、わざわざ鎖で繋がれている本があるってことは、この部屋にある本はよっぽど重要な本ってことなのかもしれない。
「ここの本って読めるのかな」
「どうだろうな。今、カインとサクラに聞きに行ってもらってるけど」
「お待たせしました」
シリウスがそんなことを言っていると、ちょうどよく二人が戻ってきた。
もし、ここの本が読めるなら、ぜひとも読みたいところだけど。
「おう、どうだった?」
「ダメでした。ここにあるのは一般向けに公開されている本ではなく、貴重な資料としての本だそうです。持ち出しは基本的にできず、読むのも研究者だけだそうで」
「ま、そうだよな」
結果はわかっていたとばかりにやれやれと肩をすくめるシリウス。
研究者達が使う資料としての本ってことは、恐らく昔から残っている貴重な本ってことだろう。
これに三千年前の事件の詳細が書かれているかはわからないが、できることなら読みたいところではある。
「私が王様だって明かしたら読ませてくれないかな」
「どうだろうな。試してみるか?」
「まあ、やるだけやってみるの」
王様なら、もしかしたら優遇してくれる可能性はある。
ちゃんと、こういう時のために王様の印は持っているし、偽物だと疑われても何とかはできるだろう。
果たしてこれでうまく行ってくれたらいいけど。そんなことを考えながら、受付へと向かった。
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