第四百七十六話:ログレスに到着
それから約二か月。道中、適度に魔物を倒したりしながら進み、ようやくログレスの町へとやってきた。
学園都市と言われているだけあって、この町には学園があるらしい。
学べる分野は様々で、魔法はもちろん、歴史や錬金術、剣術や算術など、多種多様な分野があるようだ。
その立派な佇まいを見て、なんとなく懐かしい気分になってしまった。
思えば、俺達も昔はああやって学校に通っていたんだよなぁと。
この世界に来てからもうすぐ五年経つ。五年とさらっと言ったが、普通に考えて、五年って結構な時間だよね。
俺達は高校一年生だったが、五年経てばすでに卒業して成人を迎えていることだろう。
この姿はキャラの姿として定義されているからなのか、五年経っても姿形は全く変わっていないから体感しにくいが、普通だったら就職したり、あるいは大学にでも行ったりして過ごしているのが普通だったわけだ。
それが、何の因果かこの世界に連れてこられて、魔王退治をさせられている。そう考えると、俺は神様に対してもっと怒ってもいいのかもしれない。
まあ、怒ったところでどうにかなるわけでもないし、言われた通りに魔王を倒すしか元の世界に戻る術はないんだけどさ。
これ、時間はどうなっているんだろう。元の世界に戻っても、時間は進んだままなのだろうか。
物語のように、都合よく俺達がこの世界に降り立った日に戻る、なんてことになれば一番いいけど、もしそうでなかったら……。
なんか憂鬱になって来た。これ考えるのやめよう。
「ここがログレスの町ですか。結構大きいですね」
「そりゃ様々な研究分野の人達が集まる場所だし、専用の施設とかも必要になってくるだろうから、土地は必要になってくるの」
「でも首都じゃないんだろ?」
「まあ……そこらへんはよく知らないの」
マルデア王国の首都はこことはまた別の都市である。
発展具合だけを見ていると、ここが首都でも全く違和感はないけれど、やっぱり、研究畑の人達が集う場所だから分けたんだろうか?
理由はよくわからないけど、まあ別にここが王都だろうがそうでなかろうがどうでもいい。
俺達の目的は、図書館に行って過去の事件を調べることなのだから。
「図書館ってあれかな?」
「多分そうなの。わかりやすくていいの」
町を適当にぶらぶらしていると、すぐに目立つ建物を発見することができた。
建物の屋上に石像が建っており、その手に杖と本を持っている。
入り口にも図書館と書かれていたし、誰が見てもわかりやすいような感じだった。
研究者達にとって知識は最高の宝だろうし、その集積所である図書館はやっぱり自慢したいんだろうか? あるいは、あの建っている石像、どう見てもティラミスのものだし、彼が関係しているのか。
まあ、早々に目的を達成できそうで何よりである。
「いらっしゃいませ。ようこそログレスの図書館へ」
中に入ろうとすると、入り口にいた男性に声をかけられた。
どうやら、図書館に入るには入場料が必要らしい。
この世界、本を一冊作るだけでもかなりの手間がかかるらしいので、本は貴重だ。だから、それを閲覧できる場所である図書館は入場料が設定されていることが多い。
だから、それ自体に違和感はないのだけど、やたら高かった。
一人小金貨一枚。ライロは帰したから除くとしても、四人で小金貨四枚である。
これだけあれば、宿屋で数泊することも可能だと思うんだけど……それほど貴重な本が揃っているということなのかな。
仕方ないからちゃんと払い、中へと入る。
この大陸最大の図書館というだけあって、蔵書は相当数あった。それも、各分野の専門書レベルのものも多数あり、その道の人からしたらかなり楽しめるであろう空間である。
歴史についての本も結構な数あり、俺達は数冊を手に取って読むことにした。
「さて、何か手掛かりがあるといいのだけど」
傷つけないように丁寧にページをめくり、中身を紐解いていく。
読んでいて思ったのは、一口に歴史と言っても、様々な解釈があるのだなということだった。
基本的に、ある国の歴史書って言うのは、その国を基準に書かれている。
例えば、昔戦争があり、勝ったとしたら、この国は勇猛果敢に正々堂々戦った、みたいに、めちゃくちゃ美化されて書かれていることがある。
逆に、その国の戦争相手、つまり負けた側の国の歴史書を見てみると、相手は非人道的な罠を多数使い、卑怯な手を使って勝利した、という風に、相手のことをこき下ろしにしていることも多い。
中には、そもそも戦争なんてなかったとしていることもあるし、勝敗が逆転している場合もある。他の国で勝ったと言われているのに、その国でも勝ったと書かれているみたいにね。
結局、歴史なんて書く人の主観が入り混じるものだし、いくら正確に書こうとしても、何かしらの抜けがあったり、勘違いがあるのは仕方のないことだ。
だからこそ、いろんな国の歴史書を読んで、どれが正解かを導くのも、歴史研究家の務めなのかもしれない。
「なんか、普通に面白いの」
大陸中から本が集まってくるせいなのか、各国の歴史書もあったし、それらを紐解いて歴史研究家達が、これが真実だろうと論じた本もあった。
まあ、それもそれぞれによって解釈が異なる場合もあるので、同じ時代のことを言っているのに、全く違う解釈が書かれていることもあるけど、それぞれがどんな意図をもってこういう結論に至ったのかがよく書かれていて、普通に読み物として面白かった。
流石、研究者達が集う場所である。
「ただ、流石に三千年以上前となると一気に数が少なくなるの」
三千年前に時代の粛正が起こった。そう書かれている本はかなりの数あった。しかし、それ以前に何があったかまで書かれている本は少ない。
単純に、時代が終わってしまったから、資料が残っていないってことなのかもしれないけど、だとしてもここまで少なくなるものかと驚愕した。
いや、ゼロでないだけましなのかもしれない。この大陸最大の図書館というだけあって、それらしい記述もいくつか見つけることができた。
「三千年前の大災厄。粛正の魔王降臨、なの」
イメージ的に、時代が終わったと聞くと、一瞬にしてなくなったのかと思いがちだけど、実際にはそうではなかったらしい。
粛正の魔王という存在が現れた時、それに抗うために、冒険者を始め、様々な人物が粛正の魔王に挑んでいったということが書かれている。
これに関しては、よく考えればわかることだ。
魔王は他の魔物を出現させる効果も持っているけど、そうだとしても時代の粛正というのは、その時代を終わらせることである。
魔王なら、一瞬にして辺りを焦土に変えるとかもできそうではあるけど、一息に星全体を巻き込むことは不可能だろう。
当然、攻撃を受けていない場所も存在し、運が良ければそこには生き残りがいた。
そんな彼らが、必死に残した資料の欠片を繋ぎ合わせて、何とか当時の出来事を推測することができているというわけである。
まあ、あくまで推測なので、本当にこれが起こったという保証はないにしろ、可能性が高いものであるのは確かだろう。
これを読み解いていけば、何か手掛かりを掴めるかもしれない。
そう思い、俺はどんどん読み進めていった。
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