第四十九話:化け物
「ルミナスさん、私にもその化け物を倒すのを手伝わせてほしいの」
昔、化け物を封印するために犠牲になったという娘さん……ルナサさんの話。話を聞く限り、本当にルナサさんが共に封印されているかどうかはわからないし、仮にそうだったとしてもちゃんと生きているかどうかはわからない。
だけど、それを助けたいと思うルミナスさんの気持ちはよくわかるし、俺だって助けてあげたいと思った。
最悪封印を解いたら化け物だけが復活してルナサさんは戻ってこない可能性もある。だけど、少しでも可能性があるなら試してみるべきだ。
「気持ちは嬉しいけどね、でも正直足手纏いだよ。あの化け物は君が相手にできるような奴じゃない。無為に命を落とす必要はないさ」
「そんなに強いの?」
「ああ。私はレベル51だけどね、それでも歯が立たなかったよ」
レベル51ってことは、国の騎士よりも遥かに強いということになる。
ちょっとキャラシを拝見させていただくと、確かにレベル51だった。
スキルに関しては【水魔法】や【風魔法】と言った魔法系に【調合】や【栽培】などが目立つ。スキルレベルも魔法系は軒並み6~7となかなか高く、一人でもある程度は戦えそうに見える。
しかし、実際はかなり苦戦を強いられたらしい。仮にルミナスさん相当の強さを持った人ばかりだったとして、これが何十人と揃って勝てないとなると確かにかなり強いかもしれない。
『スターダストファンタジー』で言うなら、冒険者レベル10~12くらいで出てくるボスと言ったところか。レベルが低かったとはいえ、『序盤のちょっと強い敵』というイメージのシャドウウルフすら危険と言われる事を考えると、相当な強敵ということになる。
少なくとも、国が対処すべき案件なのは間違いないだろう。
疑問なのは、なんでいきなりそんな化け物が現れたってことか。魔女の評価が世間一般からして悪いとなると、住んでいた場所は恐らく辺境の森の中とかあまり人が来ない場所だろう。
人が滅多に立ち入らないような場所だからそういう強い魔物が成長する機会があったってことだろうか? あるいは、意図的に送り込まれたとか。
「化け物ってどんな姿なの?」
「見た目は巨大なカマキリさね。デスマンティスって言う魔物をそのまま大きくしたような感じで、鋭い鎌で何でもかんでも切り裂いちまうし、空だって飛べる。厄介な相手さ」
デスマンティスという名前は聞いたことがある。レベル10前後で相手にする魔物で、主に森に出現すると書いてあった。
フレーバーテキストでは出会ったが最後、逃げることはできないだとか、鋭い鎌は人間をいとも簡単に両断するとか書かれていた気がするけど、聞いた感じそのまんまこいつっぽいな。
でも、普通のデスマンティスが相手だとするなら強いとは言ってもせいぜいあって中ボスかその取り巻き程度、いくらこの世界の人達のステータスが低いとは言っても、レベル50もあればそこそこ強いし、数十人もいれば苦戦はしても負けはないと思うんだけど。
大きいって言っているし、普通のデスマンティスとは違う特異個体だったとか? 確かに、ゲームマスターは冒険者の強さに合わせて既存の魔物のデータに変更を加えて強化することもあるから、同じデスマンティスでも強さが異なるって場合はあるけど、そういうパターンてこと?
まあ、この世界は本物だからデータ変更とかじゃなくて普通に特異な進化をしたってことなのかもしれないけど、そう都合よくそんな奴が現れるかね。
まあ、たとえ特異個体だったとしても、ラスボスみたいなステータスでなければ俺でも十分に倒せるはず。ルミナスさんと比べてもステータス差はえぐいし。
「なるほど、それなら問題ないの」
「話を聞いてたのかい? デスマンティスだよ? しかもただのデスマンティスじゃない。10メートルはあろうかという巨大な奴だ。君なんて一瞬で真っ二つにされちまうよ」
おう、思ったよりもでかかった。
なるほど、それなら苦戦するのも仕方ないかもしれない。巨大化って言うのはそれだけで強くなることだから。
ただ、だとしても関係ない。巨大だろうが何だろうが攻撃が通るなら勝てるはず。
「こう見えても私は熟練の冒険者なの。少しは頼ってくれてもいいの」
「熟練、ねぇ……。ちなみにレベルはいくつだい?」
「んー、今は41なの」
経験値的には多分50くらいまではいけると思うけど今のところは後回しだ。
今回体よくマンドレイクを手に入れられたら転職するつもりだし、貯めておくに越したことはない。
というか、こんなに溜まってるなら【プリースト】のスキルもも少しとっておこうか。今でも回復に状態異常対策、病気対策、呪い対策と割と十分ではあるけど、【プリースト】はもしもの時の備えが充実してるからな。余裕があるなら取っておくに越したことはない。
まあ、デスマンティスを相手にするだけだったら多分いらないけど。
「案外高かったね……。でも、私よりは低い。足手纏いにはならないかもしれないが、それでも危険なことに変わりはないよ」
「危険なんて慣れっこなの。それに、私もルナサさんを助けたいの」
ルナサさんを助けたいという気持ちに嘘はない。元々、アリスはお人好し寄りの性格だからそのせいもあるかもしれないけど、誰かを助けたいという気持ちだけなら俺にだってある。
元のただの人間だった俺なら無理かもしれないけど、力があるアリスなら助けられるかもしれないのだ。だったら、その力を貸すのにためらいなんてない。
「見ず知らずの、それも魔女のために力を貸すなんて、随分なお人好しだね……」
ルミナスさんは笑っているような泣いているような微妙な表情でぽつりと呟いた。
手にした黒い箱をぎゅっと握りしめる。それに応えるように、僅かに箱がことりと揺れた気がした。
「……君、名前は?」
「アリスなの」
「アリス、か。いい名だね」
ルミナスさんが手を伸ばして俺の頭を撫でてくる。
兎耳の付け根に手が当たってくすぐったくてピクピクと動かしてしまうけど、悪い気はしなかった。
「わかった。アリス、力を貸してくれるかい?」
「もちろんなの。どーんと任せるの」
「はは、頼もしいね」
硬かったルミナスさんの表情がふわりと柔らかくなる。どうやら信用してもらえたようだ。
手伝うと決めた以上は絶対に助け出す。
「さて、それじゃあ早速やってみようかね。と言っても、すぐには無理だろうが」
「確か、封印を解くには魔力が必要って言ってたの」
「そう。だが、その量は尋常じゃなくてね、あれから毎日魔力を籠め続けているが、なかなか封印は解けない」
おや、てっきり魔力を流しさえすればすぐにでも封印が解けると思っていたけど、どうやら違うようだ。
一体どういう仕掛けなのか。鑑定してみるか?
「ルミナスさん、それ触ってみてもいいの?」
「構わないが、落とさないようにね」
そう言ってルミナスさんは黒い箱を手渡してくれた。
さて、鑑定のほどは……。
名称:デスマンティスの封印石
種別:召喚アイテム
レア度:5
デスマンティスの巨大種が封印された石。一定の魔力を流し込むことで封印が解かれ、デスマンティスの巨大種が姿を現す。
んー? これ、確かに封印しているっぽいけど召喚アイテム扱いになってるな。
召喚アイテムはMP、まあここでは魔力か、それを消費して召喚獣という味方になってくれる魔物を召喚するためのアイテムだ。
まあ、味方になってくれるとは言ってもそれはプレイヤーである冒険者サイドのみで、大抵の場合は敵役のNPCが悪用して、結局制御しきれずに大暴れ、みたいな展開を作る時によく使うある意味定番のアイテム。
話では封印するための魔道具らしいから召喚アイテムというのは少し違う気がするけど、魔力を流したら魔物が出てくるという点が一緒だからそういう判定になったってことかな?
まあ、召喚アイテムを同じ仕様なら封印を解くのは簡単だ。なぜなら、俺には【無限の魔力】があるからな。
となると、後は準備だな。ルミナスさんは戦うために色々用意をしているみたいだし、それを使うことにしよう。
感想ありがとうございます。
 




