第四百七十四話:ログレスに向けて出発
翌日。俺達は準備を整え、学園都市ログレスに向けて出発した。
ログレスの町があるマルデア王国は海に面しており、ヘスティア王国から行くと結構な距離がある。
まあ、それでもこの高速馬車があれば、二か月もあれば着けると思うけどね。
以前はクリング王国に行くだけでも一か月近くかかっていたことを考えると、かなり進歩したと思う。いや、それでも遠いんだけどさ。
最初から【ワープポータル】が使えたらどれだけ楽か。片道分の時間を消費するだけで後はいつでも自由に行き来できるだけましかもしれないけど。
「この馬車も結構乗ってるよな」
「そうですね、ライロにもいつもお世話になっています」
「いえ、これが私の役目ですので」
俺達は敏捷の関係で、馬車よりも早く走ることができる。しかし、いくら馬車より早く走れるとは言っても、直接走る以上はスタミナを消費する。
もちろん、体力もあるのでスタミナにも余裕があり、一時間近く全力疾走してはじめて疲れを感じる程度だけど、それでも楽をできるところは楽をしたい。
そういうわけで開発されたのがこの馬車である。
馬車というか、メインは馬の方かな。【ゴーレムクリエイト】で作られた特製の馬は疲れ知らずで、餌もいらず、普通の馬よりもよっぽど早く走れる。
そして、高速走行にも耐えるように作られた馬車本体。これに関しては、腕のいい職人がいて助かった。
この馬車のおかげで、無駄にスタミナを消費せず、普通の馬車よりも早い速度で移動することができるようになった。
御者として作ったホムンクルスのライロも、今ではすっかり馬の扱いに慣れ、以前よりも移動速度が上がっているような気さえする。
今ではもう、なくてはならない存在だ。
「馬車は量産したようですけど、ホムンクルスの方は量産する気はないんですか?」
「できないことはないけど、むやみに命を生み出すのもどうかと思ったの」
まあ、ホムンクルスは定義的には人形やゴーレムのようなものであり、厳密に言えば人ではない。言うなれば、ただの道具である。
実際、ホムンクルスを使う【セージ】は、ホムンクルスを代わりに戦闘させる目的で作るし、いざという時には壁にしたり、爆弾を仕込んで特攻させたりもする。
だから、いくら死なせようが問題はない。
ただ、だからと言って、一応は命あるものを作るわけだし、ぞんざいには扱いたくない。むやみやたらに作り出して、後は放っておくっていうのもしたくないしな。
だから、ライロは特別なのである。
「アリスさんはその辺を気にしますよね」
「カインは気にしないの?」
「気にしないわけではないですが、必要とあらば量産もしますし、いざとなれば切り捨てもするでしょう。最優先に守るべきものを見失ってはいけませんからね」
「まあ、そういう考えもあるの」
最優先に守るべきものは見失ってはいけない。とても正論である。
何でもかんでも守りたいからと手を伸ばしまくれば、本当に守りたいものを守ることができなくなってしまうかもしれない。
それを本当に守りたいなら、いざという時は他のものを利用することも考えるし、切り捨てることも考える。カインはそのあたりさばさばしていると思う。
まあ、俺の場合は、守れないものを作るくらいなら作らない、って言う意味もあると思うけどね。
それがないと守れないというならともかく、今の時点ではそれがなくても守るのに戦力が足りないというわけでもない。
もちろん、それは今が平和なだけで、いずれあるであろう魔王との決戦の時には足りなくなることもあるかもしれない。
でも、それこそ、作ったところで無駄死にするだけだとも思う。ホムンクルスは強く作ろうと思えば作れるけど、基本的には冒険者よりも劣るからね。
だから、作らないこと自体は間違っていないと思う。
「ま、命を守りたいって言うなら作らないのも選択の一つだよな。別に、どうしても必要なものってわけでもないし」
「戦力的には、今の私達だけでもかなり高いもんね」
「問題は、これでも魔王に太刀打ちできるかわからないという点ですが」
「それな。それがちょっと怖いよな」
カインの冷静な分析に、シリウスが同意する。
魔王の戦闘力は未知数だ。いや、データという意味では、俺はそのほとんどを知っている。ステータスはもちろん、持っているスキルやギミックなんかも。
ただ、それが戦うことを想定して作られていないというだけで。
基本的に、『スターダストファンタジー』において、戦うボスは格上のことが多い。
魔物のレベルと冒険者のレベルはちょっと意味合いが違うが、ボス級となると大抵は魔物の方が倍くらいレベルが高いことが多い。
逆に言えば、それくらいの差であれば、冒険者は逆転できるだけの力を持っているとも言えるが、魔王のレベルはいわゆるカンストレベルである。
実際には、レベルは上げようと思えば際限なく上げられるだろうから、カンストということはないだろうが、999レベルなんて普通の方法じゃ絶対に上げることはできないだろう。
そんな、ありえないくらいレベルが高いボスを相手に、果たしていくらレベルを上げたところで太刀打ちできるのかって話である。
仮に、魔物のレベルの半分くらいのレベルで対等と考えるなら、レベル500もあれば対等と言えるかもしれない。それでも現状は全然足りていないが。
しかも、それでようやく対等だとしても、まともに戦えるかどうかはわからない。対策しているとはいえ、即死攻撃とかもあるわけだし。
「そう考えると、もっと積極的にレベル上げした方がいいのか?」
「一応、上げようと思えば経験値はあるけど、これでも足りない?」
「レベル500とかを目指すなら足りないでしょうね」
馬車に乗るようになってから、道中で魔物に遭遇することは少なくなったが、それでもまったく会わないということはない。
それに、他のみんなのレベル上げのついでに自分達もレベル上げしているので、経験値に関してはみんなそれなりに持っている。
まあ、先日の幻獣の島の一件でだいぶ使ってしまったけど、その後のレベル上げで少しは盛り返してきている。
ただ、それでもレベル500を仮定すると足りない。そもそも、500で足りるかもわかっていないし、どこまで上げればいいのか不透明なのが辛い。
上げられるだけ上げてればいいじゃないと言えばそうなのだけど、目標が見えないのは精神的にきついのだ。
「レベル上げの時間をもっと増やした方がいいのかね」
「今でも十分とっているつもりではありますけどね。それに、スターコアや仲間の捜索もありますし、あんまり詰めすぎると精神的に参ってしまいそうです」
「何か、パーっと経験値稼げる場所があればいいんだけどね」
「経験値を稼げる場所ねぇ」
まあ、確かに、現状でもそれなりに時間は割いているつもりだ。
捜索のために各地を巡っている時はそこまで時間は取れないけど、帰って来て少し休憩している時間はそれなりに充てているつもりだし、これ以上は難しい。
いや、死ぬ気でやればできないことはないだろうけど、それじゃいらぬ事故が起きる可能性がある。
となると、同じ時間でもっと効率のいい経験値稼ぎができればいいわけだけど、そんな都合のいいものあるだろうか。
以前にやった、ゴーレム式経験値稼ぎは倒す効率はいいけれど、経験値自体はそこまで多いわけじゃないし、経験値が高い魔物は総じて強い奴が多いから、森の奥深くとかに行かないと出会えないし、数も少ない。
そんな都合よく、経験値の塊みたいな魔物がポンポンいるわけないし、一気にレベルを上げるのは難しそうだよな。
「以前、私がアリスさんと出会った時のように、戦争でもすれば一気に経験値が稼げるかもしれませんが」
「それは却下なの」
まあ、確かにあの時は制圧した兵士の分だけ経験値が入って、もはや使いきれないのではないかというくらいあったけど、だからと言って戦争するのは気が進まない。
相手が魔物であるなら、まあ、それでもいいけど、そんな都合よく魔物がたくさんいる場所なんてあるか?
俺は腕を組んで、しばし心当たりがないか思考を巡らせた。
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