第四百七十二話:カインの用事
それから数日後。カインは何事もなく帰ってきた。
どこへ行っていたのかを聞いたら、イグルンさんとデートしていたという。
なんか凄い意外な組み合わせだ。イグルンさんは、元々はクズハさんに助けられた体のない魂だったけれど、俺がホムンクルスの体を与えたことによって、実体を得た大昔の人物である。
そういえば、イグルンさんも三千年より前の人物なんだよね。あの人なら、もしかしたら何か知っているかもしれない。後で聞きに行くのもいいだろう。
……まあ、それはそれとして、なんでデート? カインはアリスのことが好きだと思っていたのだけど、心変わりしちゃった?
別にカインが誰を選ぼうが自由だけど、なんとなくもやもやする。
「学園都市ログレスですか。賢者の弟子が有名ですけど、その方に会いに?」
「いや、多分もうその人は死んでるの。今あるのは、ただログレスって名前なだけの町なの」
「ああ、確かにすでに三千年も経っているわけですしね。賢者ならばあるいはと思わなくもないですが、流石に存命はしていませんか」
「まあ、生きているならそれはそれで会って見たいけど」
カインにログレスの町のことを話すと、シリウスと同じような反応をしていた。
しかし、ティラミスが生きている可能性か。
仮に、三千年前の時代の粛正を生き残っていたとして、それから生きているなんてことあるんだろうか。
ホビットは別にそこまで長命種族というわけではないし、三千年も経ってたら普通は寿命で死んでいるとは思うけど、でも魔女のように不老の種族もいることだし、何らかの魔法で老いを止めていたりすれば、今でも生きている可能性はなくはないのかな。
もしそうなら、当時のことを知る数少ない人物だし、話が聞けるならぜひ聞きたいところだけど。
「まあ、行くというなら同行しますよ。いつ行きますか?」
「カインの準備ができてるならいつでもいいの」
「わかりました。では明日でよろしいですか?」
「わかったの。シリウス達には伝えておくの」
そう言って、カインは去っていった。
さて、明日なら、今のうちにイグルンさんに話を聞いておこうかな。
カインと何してたのかも聞きたいし。いや、別に何してようが構わないんだけどね? 念のためね?
そんなことを思いながら、イグルンさんの家に向かう。
家に行くと、クズハさんが出迎えてくれた。
クズハさんは一時期イグルンさんにめちゃくちゃ振り回されていて、イグルンさんに対して苦手意識を持っていたようだけど、最近は慣れてきたのか、そこまで嫌っているというわけではないらしい。
イグルンさんも、今までクズハさんに迷惑をかけたと思っているのか、甲斐甲斐しく世話を焼いているし、二人の仲はそれなりに良好だと思う。
あの時はどうなるかと思っていたけど、無事に仲良くなれたようで何よりだ。
「イグルンなら部屋でくつろいでますけど、何かやらかしたんですか?」
「いや、そういうわけじゃないの。ただちょっと、聞きたいことがあるだけなの」
「はぁ、まあそういうことでしたらどうぞ」
そう言って、中へと通される。
イグルンさんは、椅子に座って本を読んでいた。
今までは、人々を救わなければとそこらじゅうを歩き回って、手を差し伸べてきたようだけど、体を得て落ち着いたのか、今ではそこまでの暴走はしていないようだ。
それでも、時たま町に出ては人助けをしているようだけどね。
イグルンさんは俺が付与したわけでもなく、元からクラスを持っている本物だから、その実力はかなり高い。特に、治癒関係に関してはかなり理解も深いので、実際頼りになる人である。
消滅させるんじゃなくて、仲間になってくれて本当によかった。
「あら、アリス様、いらっしゃいませ。どうかなされましたか?」
「こんにちは、イグルンさん。ちょっと聞きたいことがあってきたの」
「聞きたいことですか? 私に答えられることでしたら何なりと」
とりあえず、カインと何をしていたのかを聞くくとにした。
元々、カインが俺やシリウス達以外と行動すること自体が珍しいことである。
別に他の人達を嫌っているというわけではないだろうが、カインにとってアリスは憧れの人だから、できるだけそばにいたいという気持ちがあるんだろう。
だから、それを押してまでイグルンさんの下に行ったのは普通に気になる。
「ああ、そのことですね。と言っても、言ってしまっていいものか」
「言えないようなことなの?」
「そういうわけではありませんが、カイン様もまだ確証が持てていないようでしたので、アリス様に話すのはまだ早いのではないかとおっしゃっておりましたし」
「うーん?」
確証が持てないから話したくないことってなんだ?
カインが俺に隠し事をするとは思えないから、聞けば話してくれるような気がしないでもないけど、あんまり話したがらないことを話せと言うのも何となく気が引ける。
でも、気になるのは確かだ。何か大事なことを抱え込んでしまっているのではないかとも思うし、ここは聞いておくべきだろうか。
「少しだけでいいから聞かせてほしいの」
「そうですか。では、軽く概要だけ」
そう言って、イグルンさんは話し始めた。
どうやら、カインがイグルンさんに確認したかったことは、神様についてらしい。
『スターダストファンタジー』において、神様はたくさん登場するが、そうした知識によって知っている神様と、この世界の神様に齟齬がないかの確認をしたかったらしい。
そのために、わざわざイグルンさんの力を借りて、教会に赴き、色々と資料を探っていたようである。
行先は教会だったのか。俺は力がばれるのが嫌であまり近づかないけど、確かに神様のことを調べるなら教会が適当なのかな。
でもなんでわざわざそんなことを? ここまで類似点が多い世界なのだから、普通に考えれば神様も『スターダストファンタジー』のものと同じと考えるのが妥当だろう。実際、俺が交信したアルメダ様も、『スターダストファンタジー』に存在する神様だし。
「それで、どうだったの?」
「詳しくはわからなかったようです。カイン様の知る神様と、私が知る神様。名前は同じようですが、現在の教会はどうやら一神教になっているようですので」
「まあ、それはそうなの」
大体の資料は三千年前の時代の粛正でなくなっているだろうしね。今残っている資料は、三千年の間に作り上げられた別の神様像だろうし、それを信じられるかと言われたら微妙なところ。
「ただ、主観ではありますが、若干異なっているのではないかなと思いました」
「そうなの?」
「はい。と言っても、なんとなく、というレベルのものですが」
『スターダストファンタジー』に存在する神様と、この世界に実際に存在している神様は違うものってこと?
そんなのあり得るんだろうか。いや、ありえないことはないだろうけど、少なくとも名前は一緒だし、性格もそう大差ないように思えたけど。
イグルンさんとカインが感じただけだから、勘違いという可能性もあるけど、カインが勘違いなんてするだろうか。イグルンさんも鋭い方だし、ちょっと気になるところ。
この差異は何か意味があるんだろうか。俺はそんなことを思いながら、首を傾げていた。
感想ありがとうございます。




