第四百七十一話:賢者の弟子がいる町
ナボリスさんはすぐに見つかった。
いつも忙しく動き回っていると思うのだけど、俺が探している時は自然と見つかっている気がする。
もしかして、案外暇なのか? いや、それはない。俺がほとんど仕事してないんだから忙しいに決まってる。
となると、毎回俺が探している時は偶然を装って会いに来てくれているんだろうか。だとしたら、凄い空気の読める人だけど。
ナボリスさんならそれもあり得るけど、実際はどうなんだろうね。
「なるほど、三千年前の事件についてですか」
「そうなの。何か調べる手はないの?」
まあ、それはともかく、とりあえず聞いてみる。
この城の蔵書はそれなりに揃っている方だと思うけど、これ以上の場所はあるんだろうか。
歴史博物館とか、そういうものがあるならワンチャンありそうな気はするけど、今までそんなものは見たことない。
あるとしたら、歴史研究家達が個人で所有してるとかかなぁ。
「三千年前に起こった時代の粛正は、文字通りすべてを葬り去りました。ですので、それ以前のことを調べるには、専門の場所に行かなければ無理かと思います」
「まあ、そんな気はしてたの」
時代の粛正と言われても、具体的にどういうことが起こったのかはよくわからない。
『スターダストファンタジー』にも、粛正の魔王は存在するし、設定上も何度か時代の粛正は行われているのだけど、それがどういう方法で行われたかまでは書かれていなかった。
まあ、想像するに、粛正の魔王が大地を焦土に変えたとかそんな感じはするけど。
「専門の場所ってどこにあるの?」
「過去の歴史を調べている研究者達は数多くいますが、その中でも最も彼らが集まるのは、学園都市ログレスでしょうな」
学園都市ログレス。この大陸の西の方にあるマルデア王国という国にある都市で、多くの研究機関が密集する場所らしい。
そこでは、様々な分野の研究者達が揃っており、その分野に置いて知らないものはないと言われているようだ。
特に、大陸最大とも言われている図書館が有名であり、そこに行けば大抵のことはわかるらしい。
三千年前の時代の粛正によって多くの資料は失われてしまっているが、もし残っているとしたら、そこだろうとのこと。
「じゃあ、そのログレスに行けば、三千年前のこともわかるの?」
「恐らくは」
「なら、ちょっと行ってみるの」
詳しくわかるかもしれないというのなら、行かない手はない。
それに、各分野の専門家達が集まる場所なんて、ちょっと興味あるしな。
「今度はあまり遅くならないようにお気をつけて」
「ぜ、善処はするの」
いや、別に好きで帰ってこなかったわけじゃないから。緊急事態だったんだから仕方ない。
まあ、連絡はできたんだから悪いのはこっちなんだけど……、
何となく気まずくなり、俺は逃げるようにして部屋へと戻った。
「というわけだから、ログレスの町に行くことにしたの」
「へぇ、ログレスねぇ」
部屋に戻ると、シリウスとサクラがくつろいでいた。
カインの姿が見えないけど、どこか出かけてるのかな? まあ、特に問題はないからこのまま話すけど。
「ログレスって言うと、あれがいたよな。賢者の弟子って言う」
「幼賢者ティラミスなの」
「誰それ?」
サクラが不思議そうな顔をしているが、『スターダストファンタジー』をやっている人なら、この人物のことは割と知っている人も多いだろう。
元々、ログレスの町は何のとりえもない町だった。むしろ、魔物の襲撃が多く、住みにくい町だったと言えるだろう。
そこに賢者がやってきた。賢者は町の状況を憂い、魔物を討伐し、町に結界を張って魔物の脅威から町を守った。
その他にも、賢者は町の人々に知恵を与え、生活の質を高めていった。いつしか賢者は英雄ともてはやされ、町のシンボルとなった。
しかし、賢者はある程度町が発展すると、その町を去ると言った。町の人々はそれを悲しみ、どうにかして引き留めようとした。
そうして説得を続けること一週間ほど、賢者は代案を提示した。
それは弟子を一人残していくというもの。この弟子を自分だと思い、困った時は相談するといいと言って、町の人々を納得させた。
そうして残された賢者の弟子は、それ以来町の発展に尽力し、賢者と同じように英雄と呼ばれるようになった。というお話。
で、この賢者の弟子の名がティラミスというのだ。
種族がホビットであり、幼い見た目をしていることから幼賢者なんて呼ばれている。
『スターダストファンタジー』内では割と使いやすいネームドNPCであり、ティラミスの依頼で研究素材を探しに行くとか、そういう設定でスタートする冒険者も少なくない。
「へぇ、そんな凄い人なんだ」
「まあ、本当にそのティラミスがいるかどうかはわからないの」
「どうして?」
「だって、ログレスの町の位置が違うもの」
ナボリスさんに聞いたログレスの町の場所だが、『スターダストファンタジー』にあったログレスの町と比べるとかなりずれた位置にあるように思えた。
元々、今のこの世界の地名は『スターダストファンタジー』の地名とはほとんど違うものが多いし、地名だけ見れば全く別の世界と言ってもいい。
そんな中で、ログレスという町が存在すること自体に違和感があったが、この町は恐らく『スターダストファンタジー』に存在するログレスの町ではない可能性が高いのだ。
「ってことは、たまたま町の名前が同じだったってことか?」
「あるいは、研究者達が昔の地名になぞらえて町の名前を決めたかなの」
「ああ、その可能性もあるか」
どうやらその町は歴史研究家達も多くいるようだし、かつて賢者がいた町にあやかって、同じ名前を付けたとしても不思議はない。
まあ、そもそもログレスの町なんて言う地名があったことを知っている人がいたかって言われたらちょっとわからないけど、それくらいは頑張れば知ることはできるだろう。
幼賢者ティラミスはいないだろうけど、一体誰が治めているんだろうね。
「まあ、何にしても調べるにはいい場所なのは間違いないだろう。すぐに行くのか?」
「そのつもりだけど、その前にカインはどこ行ったの?」
「さあ? なんか何日か前に出かけてくるとは聞いたけど」
ああ、確かにそんなことを言っていたような?
カインは基本的にパーティのリーダーとして、単独行動を取ることはあまりない。
まあ、その理由はパーティで対処しなければならないことが多いからってだけなので、レベルが上がった今、一人で行動しても大抵のことは何とかなるし、いざとなれば【テレパシー】も【ワープポータル】もあるから、よほど窮地に陥っていない限りは何の問題もない。
そもそも、カインが明確な場所を告げずにどこかに行くってこと自体が珍しすぎることだけど、一体何をしているのやら。
「とりあえず、カインもそのうち帰ってくるだろうし、帰ってきたらみんなで行くの」
「はいよ。他の奴らは?」
「みんなには引き続きスターコアの捜索をしてもらおうと思っているの」
「まあ、それが妥当だよな」
何か理由があれば一緒に連れて行ってもいいけど、別に今のところ特別な理由はないしな。
捜索も大事だし、そちらは役割分担していきたいところ。
まあ、シュエの時みたいなことが起こったら怖いけど、あんなことはそうそうないと信じたい。
そんなことを思いながら、とりあえずカインが戻ってくるのを待つことにした。
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