幕間:希望の光
謎の人物、オールドの視点です。
久しぶりに来た通信に、思わずテンションが上がってしまった。
昔、各地に残してきた拠点には、俺の下に繋がる通信手段を残していた。
もちろん、それが普通に使われることはない。そもそも、そんな簡単に辿り着ける場所には残していないし、辿り着けたとしても、あれで通信しようなんて考えるのはプレイヤーくらいなものだろう。
この世界の人々なら、莫大なリソースとしてそれをレベルアップに使いきってしまうだろうからね。
だから、通信が来るということはすなわち、俺と同じような境遇に陥った人が他にも存在したということである。
ここまで長かった。場を整えるだけでも、世界中の敵というのは条件が悪すぎる。
誰もいない場所で、侵入される心配もなく、さらに居心地のいい場所なんて条件としては厳しすぎる。
いくら俺のスキルが膨大だとは言っても、場を整えるのは容易ではなかった。
まあでも、運が全くなかったわけでもない。協力者はいたし、運よくちょうどいい場所も発見することはできたのだから。
ただ生きるだけだったら、今のままでも十分すぎる場所である。まあ、ただ生きるだけに何の意味があるのかと言われたら答えられないが。
「異世界から来たプレイヤー達。ほとんどは俺と相いれることはないだろうけど、アリスはもしかしたらがあるかもしれないね」
思わず顔がにやつく。
この世界は、言うなればTRPGの世界を模した箱庭である。モブなどは自分の意思を持ち動いているけれど、ゲームマスターはそれを意のままに操ることができる。
俺が世界の敵にならされたように、その人の意思など関係なく設定を変更することなど造作もない。だから、この世界に来てしまった時点で、プレイヤー達はゲームマスターの駒と言ってもいい。
だけど、アリスはその駒の中でも、ゲームマスターの力を持った駒である。
アリスならばあるいは、この膠着した状況を覆してくれるかもしれない。
「素質は十分にある。問題は、性格の方かな」
友人に話を聞く限り、アリスはとても慈悲深い性格をしていると思う。
一応、魔王討伐に向けての仲間集め、という名目で助けてはいるようだけど、そんなの関係なく助けている人もちらほらいる。
今や一国の王ではあるけど、それを感じさせないフットワークの軽さで、今も各地で仲間とスターコア探しに明け暮れているようだ。
その行動が間違いとは言わない。どのみち、他のプレイヤー達をまとめ上げる人材は必要だったし、アリスがそれを担ってくれるというなら俺も文句はない。
けれど、優しすぎるがあまりに切り捨てる選択を取れない。本人はいざとなれば切り捨てることもできると思っていそうだけど、あれはいざそんな時が来れば迷ってしまうだろう。
まあ、だからこそああやって人が集まってくるのかもしれないけど、あまりに感情で動きすぎると何も救えなくなってしまう。
果たして、あんな調子で魔王と戦えるのかな?
「まあ、積極的に介入するわけにもいかないし、成り行きを見守ることくらいしかできないけれど、うまく気づいてくれるといいのだけどね」
一応、友人が今もアリスの動向はチェックしているはずである。
話を聞く限り、現在スターコアを三つ見つけているようだ。
幻獣の島に残していたスターコアもどきは厳密にはスターコアではないけれど、俺の力の一部を使っているから、代わりにはなる。それを含めれば四つと言ったところか。
後三つ集めれば七つ揃う。揃えてくれさえすれば、多少は力も戻るだろう。そうすれば、こうして隠れている必要もなくなる。
「三千年経っても変わらないか。なんで俺がこんなに苦労しなくちゃならないのか」
実際には、色々情報を集めてくれている友人の方が苦労している気もするけど、俺は俺で色々苦労してきた。
俺だって頑張ったんだよ? そのおかげで色々力を使い果たして自由に動けなくなったけど、あれで考えを改めてくれるならそれでもいいと思った。これ以上、俺のような犠牲者が出なければと思っていた。
けれど、実際はまたプレイヤー達が現れ始めたし、何も反省していないんだろう。
できることならお仕置きしてあげたいけど、正直もう疲れた。
せっかく、アリスという新戦力が出てきたのだから、そちらに任せるのでもいいかもしれない。
いや、それだと流石に負担がでかすぎるかな? レベルはかなり高いようだけど、俺には及ばないだろうし、あれを相手にするにはレベルはともかく性格が良すぎる。
やっぱり、俺もフォローしてあげないといけないか。果たして、うまくできるかはわからないけど。
「さて、ちょっと休むか……っと、来たんだ?」
「邪魔だったかな?」
と、そこに友人がやってきた。
俺に友人と呼べる人は少ないけれど、あいつはもっとも付き合いが長い。
俺なんかのために色々と動いてくれるお人好しであり、俺の回復を願ってくれる優しい奴でもある。
「いや、大丈夫。どうかした?」
「近くに寄ったついでにな。そしたら、やたら機嫌がよさそうだったから声をかけてみた」
「なるほどね。こんなところの近くってどこだって言いたいけど、それには目をつむって上げるよ」
「それで? なんでそんな機嫌がよさそうなんだ?」
「ああ、うん。アリスから連絡が来たんだよ」
「ほぅ」
アリスに関しては、友人もよく観察していた。
最初はアリスだけでなく、他のプレイヤーのこともよく見てくれていてたようなんだけど、あまりに見込みがなさそうだと感じた人は切り捨てて行ったみたい。
まあ、それでも相応の手助けはしていたようだけど、素直じゃないからね。わかるような形では手助けはしてないだろう。
で、そんな中でひときわ突出していたのがアリスだったから、今ではアリスのことを重点的に調べているという感じ。
報告の時も、話題はアリスのことが大半だしね。
「どこからだ?」
「幻獣の島だね。あそこの結界を破ったみたい」
「流石アリスだな」
まあ、結界と言っても大昔のものだから、綻びも多かっただろう。
最低限、幻獣の島を稼働させるのに必要なエネルギーしか回していなかったし、後はエキドナ任せだったしね。
それでも、あの結界を超えたのは凄いと思うけど。
「あちらから連絡してきたってことは、お前の正体に気がついて?」
「どうだろう、詳しいことは話せなかったから、気づいているかどうかは五分五分かな」
「協力はしてくれそうか?」
「それもわからない。俺が言えることは、ただ信じた道を進めということくらいだし」
「それはそうか」
本当なら、もっと積極的にスターコアを集めてほしいと言いたかったけど、それを言うわけにはいかなかった。
言うわけにはいかないというか、言えなかったという方が正しいけど。
まあでも、今のところアリスはスターコアを集めることを一つの目標にしているし、そのついでに仲間のプレイヤー達も集めてくれているから大きく間違っているというわけでもない。
まあ、その先が問題なんだけど、そこでどこまで介入できるかどうかってところかな。
「まあ、一歩前進したのは間違いないね」
「そうだな。こちらも、これからも監視は続けていく」
「お願いね」
果たして、この先どうなるのか。まだ読めないけど、今までの退屈な時間よりはいいものになると確信できる。
さて、アリスはどんなものを見せてくれるのかな?
感想ありがとうございます。




