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第四百六十九話:帰還して

 俺は何とか意識を保っていられたが、カイン達はそうはいかなかったようで、完全に気絶していた。

 キャラシを覗いてみると、HPが半分くらい減っている。

 いくらなんでも減りすぎでは? 確かに存在を揺るがすような激痛だったことは間違いないけども。

 一応、怪我ではないため、元に戻った体の治癒能力が働いているのか、急速にHPは回復していっているけど、下手にダメージを受けた状態で戻ろうとしていたら死んでいたかもしれないね。


〈これでいいかしら?〉


〈まあ、問題はなさそうなの〉


〈そう、それは良かった。さっきの姿の方が可愛かったけれど、戻りたければいつでも言ってくれていいのよ?〉


〈二度とごめんなの〉


 なんで好き好んで幻獣の姿にならなければいかんのだ。

 結局、幻獣の姿に変えたのは島の特性ということで納得はしたけど、エキドナが関わっていることは間違いないと思う。

 あわよくば、島の住人として迎えようとしてたんじゃないかねぇ。いや、そもそもそんな侵入者がいないとは思うけど。


〈もう行くの?〉


〈早く出ないとまた変えられちゃうかもしれないし、さっさと出るの。まあ、一応世話になったし、それについては礼を言っておくの〉


〈ふふ、またいつでも来ていいからね。子供の様子も見たいでしょう?〉


〈シュエ達をそそのかさないでほしいの〉


 まあ、成り行きとはいえ、自分で産んだ子供なのだから気にはなるかもしれないけど、来たがるのだろうか。

 一応、シュエは記憶を取り戻したし、エキドナに対する警戒心は復活したとは思うけど、それでもエキドナにはすべての幻獣から尊敬されるという設定がある。

 この島に来た途端、それに当てられて何かしでかすかもしれないと考えると、もう来ない方が身のためな気はする。

 そもそも、この島って普段は目に見えないらしいしね。幻獣が必要とした時だけ開かれるって話だから、シュエやノクトさんがまた来たいと思わない限り、そもそも立ち寄ることすらできないだろう。

 このまま、この島のことは忘れた方がいいのかもしれない。


「ノクト、カイン達を乗せてほしいの」


〈わかった〉


 カイン達が起きるのを待ってもいいが、それのせいでまた変えられては困る。

 一応、あの時は一日くらい滞在してから変わっていたから、もしかしたらそれくらいじゃ問題ないかもしれないけど、念には念を入れておかなくてはならない。

 またあの激痛を味わうのはごめんだ。


〈あ、えっと、その、お母さん?〉


〈ふふ、元気な子を産んでくれてありがとうね。あなたは私の大事な子よ〉


〈は、はい……〉


 シュエはエキドナのことをぎこちなくお母さんと呼んだ。

 記憶がない時は、甘えるように何度も呼んでいたが、記憶が戻った今では気恥ずかしさの方が勝つのかもしれない。

 まあ、そもそもシュエは設定上はリヴァイアサンだけど、本来は人間だしね。お母さんと呼ぶ方が間違っているのかもしれない。

 けれど、それでも何か感じるものがあったのか、その呼び名を改めることはなかった。

 案外、シュエはまたここに来そうな気がする。子供とか関係なく、エキドナのために。


〈それじゃあ、私達は行くの〉


〈ええ、行ってらっしゃい。またいつでもおいでね〉


〈……ふん〉


 ノクトさんにカイン達を乗せ、俺は自前の【ドラゴンウィング】で空を飛ぶ。

 島の周囲には結界が張り巡らされているが、出る時もシュエかノクトさんに触れていれば問題なく通り抜けることはできた。

 島から出さえすれば、後はポータルですぐに帰ることができる。

 結局、三週間ほど空けてしまったわけだけど、城は大丈夫だろうか。

 そう思いながら、見つからないように港町まで戻り、適当な場所にポータルを設置して城へと戻る。

 カイン達を部屋まで運び、俺はひとまずナボリスさんの下へと向かった。

 この三週間で何が変わったのか、確認しておきたかったから。

 まあ、そんな軽い気持ちだったけど、会った瞬間怒られたのはご愛敬。

 そりゃ、連絡もなしに三週間も空けたら怒られるわな。

 もちろん、こういう風に唐突にいなくなることもあるとは言ってあったけど、今回はその気になれば連絡できる状況ではあったんだよね。

 幻獣になってしまったことで動転して忘れていたけど、【テレパシー】は島の中でも普通に使えていた。だから、やろうと思えば、連絡はできたのだ。

 まあ、言葉が幻獣の言葉になっていたから、伝わったかどうかはわからないけど、それでも何かあったんじゃないかと察することはできただろう。

 だから、今回の件は完全に俺のミスである。怒られるのもやむなしと言ったところだ。


「今度からは気を付けてくださいね」


「はーいなの」


 お説教を受けつつ、ここ最近のことを聞くと、俺が集めた仲間達、つまりはプレイヤー達が慌ただしく動いていたらしい。

 というのも、俺は島に入る前に【テレパシー】で、もしかしたら魔王がいるかもしれないということを伝えていた。

 もちろん、とても薄い可能性で、いない可能性の方が高いという話はしていたけど、それから三週間、俺からの応答はなかった。

 だから、もしかしたら本当に魔王がいたのかもしれないと考えて、色々と動いてくれていたようだ。

 プレイヤー達にはいずれ魔王を倒さなければならないとは伝えてある。そのためのレベル上げもしていたし、だからこそここが決戦の時だと考えたようだ。

 ただ、魔王のことを知っているのはプレイヤーや一部の人達だけで、他の兵士とかは知らない。だから、それらを動かすのにかなり手間取ったようだ。

 もちろん、兵士達を魔王との直接対決の場に呼ぶことはないが、魔王と戦う際に出てくるであろう魔物の対処をお願いしたかったのだとか。

 しかし、いきなりそんなこと言っても信じてもらえず、結果的にこれほど時間がかかったということらしい。

 そして、そうやって時間をかけている間に俺達が戻ってきたので、これはどうしようかという状況のようだ。

 一応、今もまだ動いているようだけど、俺達が帰ってきたことはすぐに伝わるだろうし、今までの苦労は、とか思いそうである。

 これは俺が変な話をしたのが悪いし、後で謝罪をしておかないと。

 それ以外は、来客の処理が滞っているくらいで、大きな問題は起こっていないようだ。

 本来なら、王様がいなくなったら色々な事業が停滞しそうだけど、そこらへんはナボリスさんがうまく処理してくれているから助かる。

 本当に、ナボリスさんがいなくなったらこの国回らないだろうな。

 今のうちに後継を育成しておくべき? いずれ俺達はこの世界から去ることになるだろうし、王様とかも決めておかないとか。

 なんか大変そうだなぁ……。


「アリスさん、あの……」


 話を聞き終え、部屋に戻ると、シュエが人の姿になって申し訳なさそうに話しかけてきた。

 今回の件、元はと言えばシュエがあの島に行ってしまったことが原因だと考えたようである。それで、そのことを謝りたかったのだとか。

 確かに、シュエがあの島に行かなければ、こんな騒動にはならなかったと言えるけど、元はと言えば調査を命じたのは俺である。

 シュエはそれに応えようとしてくれていただけで、何も悪いことはしていない。

 強いて言うなら悪いのは俺、あるいは他人に擦り付けるならエキドナってことになるだろうけど、どちらにしてもシュエは悪くない。

 だから、シュエがそこまで気に病む必要はないのだ。


「シュエはよくやってくれているの。むしろ、あんな形になって申し訳なかったの」


「い、いや、あれは仕方なかったと思うから……」


 あんな結果になったことは俺も申し訳なく思うが、あれくらいしか選択肢がなかったとも言える。

 せめて、シュエやノクトさんが気に病まないように精一杯フォローしてあげないといけないね。


「これからも、よろしく頼むの」


「は、はい!」


 幻獣の島、また行くことになるかはわからないけど、一応重要そうな手掛かりは得た。

 何も成果が得られなかったというわけでもないのだし、そこまで気に病む必要はないだろう。

 後は、手に入れた情報をどう活用するかだね。

 俺はオールドさんのことについて考えながら、とりあえず資料を調べる算段をつけた。

 感想ありがとうございます。


 今回で第十五章は終了です。数話の幕間を挟んだ後、第十六章に続きます。

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― 新着の感想 ―
[一言] ひとまず一件落着
[一言] 今回の章はイナバさんと体が入れ替わった時並みに散々な目に遭っていたいたような 設定に引っ張られる事のデメリットな所やオールドさん関連の伏線等、とても面白かったです
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