第四百六十三話:エキドナの魔の手
一応、しばらく待って見たけど、それから反応はなかった。
話すのもつらくなってきたと言っていたし、何かしら制約があるのかもしれない。
とりあえず、言われた通りに岩の一部を削り取り、【収納】にしまって持ち帰る。
いつ話せるかはわからないけど、新たにスターコアを見つけないと話せないアルメダ様よりはましだろう。
できることなら、聞ける範囲で情報を探り出していきたいところだ。
〈なんか、遅くなっちゃったの〉
気が付けば、辺りは暗くなってきていた。
そんなに話しているつもりはなかったんだけど、意外にも時間が経っていたらしい。
俺は急いで住処の方へと戻っていく。その途中で、頭の中に声が聞こえてきた。
『おい、アリス、返事しろ!』
『わっ、びっくりした。どうしたの?』
『お、やっと繋がったか。全然応答ないから心配したんだぞ』
『え、そんなに話しかけてた?』
『ああ。気づかなかったのか?』
【テレパシー】は、どれだけ距離が離れていても通じるはずだけど、オールドさんと話している間、そんな気配は全くなかった。
もしかしてだけど、あの場所だと【テレパシー】も届かないのだろうか?
明らかにこの島にあっちゃいけないような場所だったし、そもそも普通にはいけない場所だったし、そういうことがあっても不思議はない。
気が付けば暗くなっていたのもあるし、心配かけてしまったかもしれないね。
『ちょっとごたついてて反応できなかったの。ごめんなの』
『いや、無事ならそれでいい。それより、カインを知らないか? まだ戻ってきてないんだが』
『こちらにはいないの。連絡はしたの?』
『したけど、応答がない。今日は一体どうしちまったんだ』
今日は各自で島を回っていたはずだけど、俺はともかく、カインまでいなくなるのは珍しい。
カインなら、もし何かトラブルがあればすぐに連絡してきそうなものだけど……。
『探しては見たの?』
『一応、近場を探してはいるが、見つからん。まあ、この島には魔物はいないし、襲われるってことはなさそうだが……』
『ふむ……』
確かにそれなりに大きな島ではあるが、そんな見つからないことあるだろうか。
【テレパシー】が繋がらないところを見ると、俺と同じように島の中心に行ったとか? いや、それなら【ライフサーチ】した時に気づいているはずである。
それ以外で【テレパシー】が使えなくなる状況なんてあるだろうか。
他のことで手いっぱいで、そんな暇がないとか?
……まさかね。
『シリウス、エキドナのところには行ったの?』
『いや、行ってないが? というか、あそこはできるだけ近づくなって言ってなかったか?』
『それはそうだけど、もしかしたらそこにいるかもしれないの』
元々警戒はしていた話だった。
俺達を幻獣の姿に変えたのがエキドナにしろそうでないにしろ、エキドナにとってチャンスであることに変わりはない。
なぜなら、エキドナは種の復活を願っていて、恐らく俺達の種族もその対象に入っている。
まあ、アルミラージやケットシーなんかは戦闘要員ではないし、もしかしたら幻獣界にまだ現存しているかもしれないけど、フェンリルやらバイコーンやらは絶滅している可能性もある。
そんな種族となっているカインに対し、シュエの時と同じように子作りを強制してきてもなんら不思議はない。むしろ、今まで言ってこなかったのが不思議なくらいだった。
もし、カインがエキドナの手にかかっているのなら、【テレパシー】に応答しない理由もわかる。
いくら自分から近づかなくても、エキドナ自身動けるし、何なら他の幻獣に連れてこさせてもいいわけだからな。
『……それ、やばくねぇか?』
『やばいの。カインの貞操のピンチなの』
カインって設定的にはどうなんだろう。やったことあるのかな。
現実では……ってそんな話は今はどうでもいい。
間違いならそれで構わないけど、もし合ってたら大問題だ。
なんとしても、事が済む前にカインを救出しなければならない。
『私もすぐに向かうの。シリウスもサクラに連絡してきてほしいの』
『わかった。すぐに行く』
俺は【テレパシー】が終わった後、すぐさまエキドナの住む洞窟へと向かう。
すでに日は暮れかけているが、暗さは問題にはならない。持っていたスキルがすべて使えなくなったわけではないし、【暗視】は有効だ。
まあ、幻獣自体が元々夜目が利く者が多いから、そんなに関係ないかもしれないが。
それはともかく、なるべく急いで洞窟へと向かう。入り口まで辿り着くと、ちょうどシリウスとサクラが来たところだった。
〈シリウス、サクラ、よく来てくれたの〉
〈当然だろ。それより、カインの気配は感じるか?〉
〈さっきから気を張ってたけど、この先にいるみたいだよ。エキドナも一緒みたい〉
〈やっぱそうなるのか……〉
一応、【ライフサーチ】で見てみても、この先に二つの気配を感じる。サクラの言う通り、カインとエキドナのことだろう。
できればこの予想は間違っていてほしかったが、そういうわけにはいかないか。
〈とにかく急ぐの〉
〈おう!〉
俺達は急いで洞窟を進んでいく。しばらくして、二人の姿が見えてきた。
エキドナはいつもと同じように微笑みを絶やさずにいるが、対するカインは地面にぐったりと横たわって目が虚ろである。
遅かったか……!
〈あら、あなた達、どうしたの?〉
〈どうしたもこうしたも、カインに何したの!〉
〈ふふ、そんな怖い顔しないで。ちょっと、遊んでいただけよ〉
〈こいつ……!〉
全く悪びれる様子もなく言いきるエキドナに怒りが湧いてくる。
そりゃ、確かに種の復活を願うのは何も間違っていないし、するなら勝手にすればいいと思うけど、それをこちらに強制してくるのは許せない。
シュエの時だって、わざわざ記憶をなくさせて、その上で子作りしようとしていたのだ。
元々人間の俺達からすれば許容できることではないし、今回のノクトさんとするって言うのも納得いっているわけじゃない。
シュエがきちんと記憶を取り戻せるとわかったからこそ、妥協しただけの話である。
それを、事もあろうにさらにカインまで襲うとは!
こちらが逆らえないことをいいことに調子に乗りやがって! 許せない!
〈カインを帰すの!〉
〈ええ、もちろん。というか、疲れたから休ませてほしいと言ったのはフェンリルの方だし、私としてはいつでも住処に帰ってもらっていいのだけど〉
エキドナは笑顔を絶やさない。
とにかく、この場に長居するのは危険だ。下手をすれば、シリウスや俺にも魔の手が伸びてくるかもしれない。
ここはカインの救出を最優先にして、退くのが一番いいだろう。
〈カイン、起きるの!〉
〈うぁ……〉
カインはぴくぴくと痙攣しているように体を震わせている。
若干嬉しそうな顔してるのが気になるけど、まあ、カインも男だし、そういうこともあるだろう。
起きる様子がないので引きずっていこうとも思ったが、この中でカインは一番大きな幻獣である。シリウスが引っ張ろうにも、縄もないし、難しい状態だ。
ぐいぐいと押してみるが、俺の力ではほとんど動かない。
こんなことしてる場合じゃないのに!
しばらくの間、カインを運ぶのに四苦八苦していた。
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