第四百五十八話:島の探索
寝床はすぐに完成した。
まあ、ただ草を集めるだけだったから当たり前ではあるんだけど、
冷静に考えるとこんなのでいいんだろうかと思わなくもない。
そりゃ、地面にそのまま寝るよりはましだとは思うけど、その辺で取った草だしねぇ。
きちんとした寝床にするんだったら、布や革が必要になってくるとは思うけど、そう言うのはないんだろうか。
草を集めている間、魔物や動物は一人も見なかったし、出すとしたら作るしかなさそうかな。
〈さて、これからどうしますか?〉
寝床を用意した後、俺達は集まって話し合う。
寝床を用意した影響か、頭の中にあった使命感のような感覚はなくなっていた。
別に、意識すれば忘れられるとは言っても、やはり無意識のうちに急いてしまうので、ない方がいいのは確かだ。
また何かお願いされないうちに、できることをやっておくべきだと思う。
ただ、それが何か思いつかないわけだが。
〈あるとしたら、この島を調べるくらいか?〉
〈島の影響でこの姿に変えられたのなら、島に何か隠されているかもしれないしね〉
〈まあ、無難なところなの〉
まだ、この島については一部しか探索していない。
元々、スターコアを探すために来たというのもあるし、もしかしたら元に戻るための何かが見つかるかもしれない。
俺達が今どういう状況に置かれているのかを判断するためにも、島の探索は必要だろう。
〈では、手分けして島を回って見ましょうか〉
〈手分けして大丈夫か? 今の俺達はそこまで戦えないと思うが〉
〈大丈夫でしょう。シリウスも、この島は安全だと感じているのではないですか?〉
〈まあ……〉
カインの発言に渋い顔を作るシリウス。
確かに、俺もそんな感覚を感じていた。
ここでなら、外敵に脅かされることもなく、空腹に飢えることもなく、平穏に暮らしていけるであろうという予感がしていた。
実際、この島はエキドナによる結界が張られているし、敵が入り込んでくることはほとんどないだろう。
それに、食事に関しても、寝床作成のおかげですっかり食べ損ねていたが、特に空腹になることはなかった。
全くお腹が減らないってことはないと思うが、極端にお腹の減りが遅くなっているのは確かだろう。これなら、果物だけで生活することも確かにできそうだ。
幻獣が人の世界に出るための拠点という意味があるらしいこの島は、幻獣にとって楽園のような場所なのかもしれない。
〈他の幻獣に遭遇する可能性もありますが、少なくとも殺されることはないかと〉
〈まあ、そう言うことなら手分けするか。あんまり時間かけてもいられないだろうし〉
シュエが卵を産み、それが孵るまで見守る期間が約三週間ほど。
できることなら、孵化すると同時にこの島から脱出したい。
だから、少なくともそれまでに元の姿に戻る必要がある。
エキドナに元に戻してもらうにしろ、それは運ゲーになる可能性が高いし、もしあるなら、確実に戻れる方法を探しておいた方がいい。
〈それなら、私はここに残ってノクト達の様子を見ておくね。エキドナに咎められても困るし〉
〈そうですね。私達三人で探索しましょうか〉
〈何かあったら【テレパシー】で連絡するってことで〉
〈それで行くの〉
方針が決まり、俺達はそれぞれ別方向に向かって島を探索することにした。
俺が向かったのは山の方。ちょうど、忘却の滝があった方向だ。
特に理由があったわけではないが、島の中心に近かったし、もしかしたら何かあるかもと思ってそちらを選んだ。
まあ、小さくなった影響で、ちょっとばかし進むのが遅くなっていたが、そう言えば、この姿って耳が翼みたいになってるし、飛べるのでは? と思い、試してみたら案外簡単に飛べたので、どうにか移動速度を確保することができた。
初めからこうしておけばよかった。兎の姿に慣れていたから、飛べると思いつかなかった。
〈それにしても、この島の地形、どうなってるの?〉
飛べると言っても、そこまで高く飛べるわけではない。頑張れば高く飛ぶこともできるかもしれないが、普通に飛ぶ分にはせいぜい成人男性の目線くらいの高さだ。
しかし、山に登れば島が一望できるのは当然のことで、必然的に島の様子がよくわかった。
自然豊かな、緑の多い島だということに変わりはない。ただ、その中にはどうやっても共存できないだろという地形も混ざっていた。
例えば、雪原。隣は青々とした森が広がっているのに、急に雪が降り積もった平原が広がっていることがある。
確かに季節は関係ないかもしれないとは言ったけど、夏と冬の地形が同時に存在するのはおかしいだろう。
それに、今登っているこの山はどうやら火山のようだ。時折、赤々と煮えたぎった溶岩が流れているのが見える。
普通に考えれば、この溶岩は山のすそ野に流れていき、そこにある森を焼き尽くしてしまうと思うんだけど、そう言ったこともないようである。
一体どういう原理なんだ。
〈確かに、幻獣の中には暑い場所や寒い場所を好むのもいるけど、そういう幻獣に対する配慮なの?〉
特定の地域にしか存在できない幻獣というのも存在はする。だから、そう言った幻獣が暮らすために、こうして場所を用意しているのだろうか。
でも、この島は人の世界に出ていくための拠点のようなものだと言っていたし、そんな特定の場所しか存在できないような幻獣が外の世界に行くかと言われたら微妙なところ。
単純に、幻獣界もこんなような地形で、それを真似ただけということなのかな? あるいは、帰ってきた仲間を迎えるためにこの島に出て来たい幻獣がいるとか。
いずれにしても、この島はただの自然にできた島というわけではなさそうだ。
〈幻獣のために作られた島。普通に考えるなら、やっぱりエキドナが作ったと考えるべきだけど……〉
島に結界を張ったり、島を見えなくしたりする程度だったらエキドナでもできるだろう。
ただ、こんな風に地形をいじれるかと言われたらうーんと言わざるを得ない。
エキドナは確かに強力な幻獣だ。主に幻獣相手だが、できることもかなり多い。でも、できないこともある。
それを考えると、この島を作り上げた人物は別にいるはずだ。でも、それは誰だ?
〈……っと、火口に着いたの〉
しばらく考えながら進んでいると、頂上へと辿り着いた。
火口には、赤々とした溶岩が溜まっており、今にも噴き出してきそうである。
あんまりここに長居するのは危険かもしれないね。
〈んー、見た感じ、特に何もなさそうなの〉
強いて言うなら、鉱石類がちらほら見えるので、そう言う素材を集めるにはもってこいな場所に見えるけど、今鉱石が必要かと言われたら別にいらないという。
〈当てが外れたの?〉
何かしら、元に戻るためのヒントでもないかと思ったけど、そんなものはなさそうである。
せめて、もう一つの目的であるスターコアが見つかればとも思ったけど、その気配もなし。
こちら側は外れと見た方がいいだろうか。
【テレパシー】による連絡がないところを見ると、カイン達も何も見つけられなかったように思えるし、そう簡単に元に戻る手段は見つからないってことか。
まあ、たった一日で見つけられるものでもないだろうし、地道に探していくしかないだろう。
そろそろ日も暮れる。今日のところは戻るとしよう。
そう考えて、俺は火山を後にした。
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