第四百五十五話:幻獣となっても
その後、とりあえずの住処として洞窟を紹介された。
シュエ達が済む洞窟と比べると狭いが、それでも俺達四人が入っても十分広いと感じるほどのものである。
まあ、あちらはリヴァイアサンという巨大な幻獣がいるから仕方ないっちゃ仕方ないけどね。
寝床に関しては、とりあえずそこら辺の草をかき集めてそれっぽいのを作り、最低限の場所は用意できた。
後は、これからどうするかを考えるべきだろう。
〈幻獣になっちゃったけど、基本的な方針は変わりないの〉
俺達の目的は、シュエの回収である。
シュエが卵を産み、その子供が孵るまでの間、見守り続けることができれば、みんなを連れて帰ることができるだろう。
本当なら、ポータルで物資とかを持ってきてサポートするつもりだったけど、それができない以上はこの島でできる範囲のことで手伝う必要がある。
この島って魔物とか動物とかいるのかな。
シュエは身重だから動けないだろうし、そうなるとノクトさんが中心になって食料を集めることになりそうだけど、今のところ魔物とかの姿を見た覚えがない。
幻獣達は俺達を警戒して隠れているとは言っていたけど、魔物達まで隠れるとは考えにくいし、いるならとっくに会っていてもおかしくはないと思うんだけど。
いないとするなら、食料は何なのか気になるところ。まあ、果物が生っている木はいくつか見かけたけど、あれが主食なのか?
〈見守るのはいいのですが、私達も私達で生活の基盤を整える必要はありそうですね〉
〈そうだな。まあ、【収納】には食料もあるし、それを使って行けば一か月くらい持つとは思うが、今は俺じゃ使えないし〉
〈手が使えないと【収納】開けないもんね〉
俺達の姿だが、それぞれの幻獣の姿なのは当然として、服すら何もない。
俺達の名残が垣間見えるのは、腕に付けられた収納ブレスレットのみだ。
体が変化してこうなったのなら、装備は辺りに転がっていると思うのだけど、どうやら装備ごと変化させられたらしい。
その証拠に、体の模様や毛の色なんかが装備の色と似ている気がする。
キャラシを見てみても、装備をつけている時と同じ分だけ防御力が加算されていたし、恐らくこれは装備が着脱不可になった状態とでも思えばいいんだろう。
しかし、収納ブレスレットだけは例外なのか、そのまま腕に残っていた。
まあ、これまでなくなっちゃったら持ち物がすべてなくなるのと同義だしな。ルール的に、そこまで鬼畜にはならなかったということなんだろう。
ただ、【収納】を開くためにはブレスレットのボタンを操作し、さらに表示されるリストからタッチして選択する必要がある。
ケットシーであるサクラは二足歩行だし、猫のものとはいえ、手も自由に動かせるから何とかなるだろうけど、俺達は四足歩行でいじるのが難しい。
特に、手が蹄になってしまっているシリウスは細かい操作なんてできないだろう。下手したら、ボタンを押そうとしてブレスレットを破壊しそうだ。
そう言うわけで、【収納】の食料に頼るのはちょっと難しいのである。
まあ、俺とカインは頑張れば開けるかもしれないけどね。だから、最終手段として使うのはありだと思う。
〈そうなると、食料集めをする必要がありますか。この島の食料って何でしょう?〉
〈恐らくは果物を中心にした木の実だと思うの。後は野草とか?〉
〈動物がいれば狩れるだろうが、そっちは期待できなさそうか〉
〈もしかしたら探せばいるかもしれないけど、エキドナが結界を張っている以上はいない可能性が高いの〉
まあ、今は魔物との戦闘はあまりしたくないし、そっちの方が好都合ではあるのかもしれない。
というのも、装備が変化してしまった影響なのか、武器の類もすべてなくなってしまっている。
武器を装備している時の効果は発揮されているが、武器自体がないので、その武器を使ったスキルを使うことができない。
俺の【アローレイン】とかね。
だから、魔法が使えるサクラ以外は、戦うには肉弾戦を仕掛ける必要がある。
種族が変化した影響か、ステータスも微妙に変わっているので、人間が素手で攻撃するよりはよっぽど強いと思うけど、慣れない攻撃になるだろうし、命中率はがた落ちしてそうだ。
そんな状況で戦いたくないし、食料集めのために狩りをしなくていいならそっちの方が都合がいい。
まあ、最低限は使えるようになっていた方がいいとは思うけど。
〈それにしても、なんで俺がバイコーンなんだ? もっと他にもあると思うんだが〉
〈アリスのアルミラージはしっくりくるけどねぇ〉
〈うるさいの〉
確かに、謎の基準ではあるよな。
俺は兎獣人だったから、兎に近いアルミラージが選ばれたのはわかるけど、他の三人は全く共通点はなさそうに見える。
幻獣にはそれぞれに偉業があったりするけれど、それを考えても特にみんなに当てはまっているようには見えない。
強いて言うなら雰囲気だろうか? かっこいいカインがかっこいいフェンリルに、可愛いサクラが可愛いケットシーに、みたいな。
変えているのは島なのだから、基準など何もなく、ただ適当に変えただけかもしれないけど、そう考えるとちょっと気になる。
あんまり気にしない方がいいかな? どうせ、わかったところで状況は変わらないし。
〈とにかく、今日はもう遅いし、明日から頑張るの〉
〈そうですね。不思議とお腹もすいていませんし〉
すでに時刻は夜である。
まだ夕食は食べていなかったが、そこまでお腹がすいていないのは不思議だ。
まあ、今から食料集めしに行くのも難しいし、食べるとしても【収納】から出したものになりそうだが。
俺達は、適当に集めた草のベッドに横たわり、目を閉じる。
あんまり時間がなかったので、寝床に寝るのはカインとシリウスで、俺とサクラ、そしてイナバさんはその傍らで寝させてもらう感じになった。
なんだか逆のような気がするが、こちらは体が小さいし、カインの体毛に包まれてればそこまで寒くもないだろう。
〈……〉
しかし、俺達の姿を変えたのは本当に島の性質なんだろうか?
確かに、幻の島はほとんどが謎に包まれていて、その全容は知れない。幻獣の島だったということも驚きだし、それに侵入者を幻獣に変える能力があったとしても不思議はない。
でも、そもそもそんなことが起こる可能性はとても低いわけで、わざわざ結界まで張っているのに、そんなギミックを仕込む必要があるんだろうか?
島の性質というよりは、エキドナが面白半分に幻獣へと変えてきたって考えた方がしっくりくる気がする。
もし仮に、この現象が島ではなく、エキドナが起こしたことなら、その目的は何か。
エキドナは幻獣種の復活を願っている。幻獣界に残っておらず、粛正の魔王によって消されてしまった数々の種族を。
であれば、俺達が変えられた幻獣の卵を欲しているんだろうか。
まさかとは思うけど、俺達にも子作りさせようとしてる? そうだとしたらぞっとしない話だ。
まあ、言われたからと言って子作りする気なんて毛頭ないが、少し気を付けておいた方がいいかもしれない。
身も心も幻獣にされたんじゃ堪ったものではないしね。
そんなことを考えながら、眠りについた。
感想、誤字報告ありがとうございます。




