第四百四十三話:島の結界
島はそれなりに沖にある。海岸から見えないことはないが、本当にうっすらと見えるって感じだ。
だから、島に行くためには船を用意するなりの手段が必要になってくる。
まあ、俺達ははみんな飛べるから必要ないけどな。
念のため、姿を隠しながら空を飛び、島の近くまでやってくる。
遠くから見ると小さな孤島にしか見えなかったが、近づいてみると結構大きい。
森や山、草原が各地にあり、自然豊かないい島に見える。
空から見た限り、シュエの姿は見当たらない。というか、生き物の姿が見当たらなかった。
いつの間にか出現し、いつの間にか消えているような島だから、生き物がいないのはわからないでもないけど、だったらこの島の存在意義は何だろうかと思わなくもない。
一応、『スターダストファンタジー』にもこの島は存在した。幻の島と呼ばれ、そのほとんどは不明だったが。
あれは多分、シナリオフックにしてくださいってことなんだと思う。
シナリオフックっていうのは、シナリオを作る際に、ヒントになるものってところだろうか。
例えば、朝遅刻した少女がパンを咥えながら走っていると、曲がり角で見知らぬ少年と衝突し、なんていう導入なら、何かしらの物語が始まりそうな予感がするだろう。
そのシチュエーションや世界観、登場人物の設定など、そのシナリオを作るにおいてヒントになりそうなもののことをシナリオフックと呼ぶのである。
いつの間にか出現する幻の島、その一切は不明で、近づくことも容易ではない。
それはつまり、島の内容はゲームマスターが自由に設定していいってことでもある。誰にも知られてないんだからね。
なので、あの島に何があるのかは俺にもさっぱり見当がつかない。
ボスラッシュでもあるのか、それともダンジョンでもあるのか、少なくとも、シュエが苦戦するような何かがあるのは間違いなさそうだけど、果たして。
「なあ、これって結界か?」
「そうみたいなの。やっぱり、特別な場所なの?」
島の上空から見る限り、生き物の姿は見当たらないとは言ったが、恐らくそれはこの結界のせいだろう。
島を覆うように存在している結界。多分、エルフの里にも使われている不可視の結界と似たようなものなんだと思う。
そんなものがわざわざあるってことは、重要な何かがあるってことなんだろうけど、それだったら島そのものを見せないようにすればいいのではと思うのは無粋だろうか。
まあ、色々事情は考えられるけどね。数年に一度はこうして島が見えるように効力を弱めないと持続しないとか、そう言うのがあるかもしれない。
今問題なのはそこではなくて、この結界が通れるのかということだ。
「通れそうか?」
「触れようとして見るけど、触れないの。侵入を拒むような結界みたいなの」
結界にも色々あるが、これはそもそも侵入させないようにするための結界のようだ。
まあ、大抵の結界は耐久値があって、攻撃を加え続ければいずれ壊れるから強引に突破できないことはないけど、下手に刺激して中にいる何者かに敵対されるのも困る。
それに、シュエがこの島にいるとするなら、シュエはこの結界を通ることができたということだ。
なにかしら、通るための条件があるのかもしれない。まずはそれを探るのが先決だろうな。
「見たところ、結界発生装置のようなものはありませんね」
「何者かが手動でやってるってことか。なら、シュエが行った時は結界が張られてなかったって可能性もあるか?」
「もしかしたら海の中までは結界がないとかは? シュエなら、海の中から移動した可能性が高そうだし」
色々案が出てくる。
ひとまず、一番可能性が高そうな、海の中を探すことにした。
海に入ると、本来は遊泳状態という状態になる。周りが水だらけで、泳いでいる状態ってことだね。
その場合、動きにくいということもあって移動力が下がるというデメリットが発生する。
まあ、これだけだったら何の問題もないのだけど、さらに深く、海の中まで潜っていくと、今度は潜水状態という状態になる。
潜水状態は、水の中にいて息ができない状態である。
遊泳状態と比べて移動力の減少がさらに顕著になり、さらに一ラウンドごとに体力を参照した抵抗判定を行うことになる。
これは、息がどれくらい続くかという指標であり、失敗しない限りは息が続くということだ。
もちろん、抵抗判定の難易度は回数を重ねるごとに上昇していくので、無限に息を止めてられるなんてことはない。
抵抗判定に失敗した場合、窒息によってダメージを受けていく。これは、潜水状態から解放されるまで続くので、下手をしたらそのままHPがゼロになる可能性もある。
海の中というのは、存外危険な領域ということだ。
まあ、対策法は色々あるんだけどね。
今回利用するのは、リヴァイアサンの鱗である。
以前、シュエから何かに使えるかもしれないと貰っておいたものだが、これの効果は遊泳状態、および潜水状態によるデメリットの無効化である。
要は、水の中でもすいすい移動できるし、息もできますよってことだ。
こんなところで使うことになるとは思っていなかったが、やはりなんでも集めておいて損はないな。場所を圧迫しない程度にっていう条件はあるけど。
ただ、そんなに使うと思っていなかったので、一個しかない。なので、とりあえず結界があるかどうかを確認するために、俺一人で潜ることになった。
「さて、どうなってるかな……」
リヴァイアサンの鱗を握り締め、海へと潜っていく。
ちょっと潜った程度では、流石に結界はまだあるようだ。流石にそんな緩くはないらしい。
より深く、潜っていく。
潜っていくにつれて日の光が届かなくなり、辺りが暗くなっていく。
一応、【暗視】があるから視界には困らないけど、なんかどんどん沈んでいくの怖いな。
早いところ調べて上がってしまおうと思いつつ、島の周りを調べていく。
そうして、あらかた調べ終わると、浮上した。
「お帰りなさい。どうでしたか?」
「ダメそうなの。結界の切れ目がないの」
潜って調査した結果わかったことは、海の中もしっかりと結界で覆われているってことだ。
ただ、球体状に覆っているというよりは、円筒状に覆っている感じだろうか。
勝手に、浮島のような感じかと思っていたのだけど、そんなことはなく、しっかりと海底まで大地が続いていたのである。
海底に山があり、そのてっぺん部分だけが海上に出ているって感じだろうか。
いきなり出現したりする割りには、しっかりとした大地があるようである。
海の中までしっかりと結界が張ってある以上、ここから通ったと考えるのは難しい。
まあ、結界外から穴を掘って繋げるとか、あるいは円筒状の結界なら、空高くからなら入れるのではないかとか、色々考えたけど、多分それらは無駄に終わるだろう。
言うなれば、ゲームで言うところのイベント結界だ。何かしらのフラグを回収しないと通れないって奴なんじゃないかと思う。
シュエが通った時には結界はなかったという可能性もあるが、普通に考えれば初めから結界はあったと見るべきだろう。それなのに、シュエは普通に通れたというのは少し妙な話だ。
いったい、シュエはどうやってここを突破したのか、しばらくの間、空に浮かびながら考えを巡らせていた。
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