第四百四十二話:謎の島
シュエが探索に出かけたのは約二週間前。
シュエの機動力を生かすため、一度南に向かい、港町に出てから東に向かって進んでもらったはずだ。
連絡が取れないと言っているのはこの数日。それまでは順調に進めていたと仮定して、ちょっと探索もするなら……大体この辺だろうか?
まあ、途中で道を外れた可能性もあるし、探索に時間をかけた可能性もあるから、本当にそこかはわからないけど、とりあえずはそこにいると仮定して進むとしよう。
「ノクト、一緒に来るの」
「いいのか?」
「仲間が行方不明じゃ心配でしょ?」
今回はノクトさんも一緒に連れていくことにした。
レベルはまだ低いとは言っても、フェニックスである。
単独でネームドボスを倒せる実力もあるのだし、俺達が一緒にいればお荷物になるってことはないだろう。
それに、ノクトさんなら空から探すこともできるだろうし、もしかしたら幻獣特有の勘が働くかもしれない。
そう言うわけで、いつものメンバーに加えて、ノクトさんも一緒である。
「軌跡を辿るように移動するとしましょうか。もしかしたら、予想よりも早く道を外れているかも」
「見逃さないためにもそうするの。あの姿なら、目撃していたら覚えていそうだし」
基本的に、シュエは人間姿を維持してもらっている。
人目につかない場所でならリヴァイアサンの姿になってもいいとは言っているけど、そもそもそんなにあの姿が好きというわけでもなさそうだし、よほどのことがなければ人間姿でいることだろう。
俺より幼い容姿の子供が一人旅なんてしていたら、見る人によっては目立つだろうし、多分話を聞けば目撃情報も得られるはず。
大丈夫、きっと見つかるはずだ。
「それじゃ、さっそく出発するの」
そう言って、俺は港町へのポータルを開く。
ここからは馬車で移動しつつ、シュエの痕跡を探す。
どちらの姿でも目撃されれば目立つだろうから、うまく見つかってくれるといいのだけど。
「ノクト、そう不安にならなくてもいいの。シュエは絶対に助けるの」
「べ、別にそこまで不安なわけじゃ……ただ、迷子にでもなってたらどうしようかなって思ってただけで」
「まあ、迷子になってるならそれこそ助けてあげなきゃなの。もしかしたら、ノクトの手を借りることになるかもしれないの」
「俺の?」
「うん。期待してるの」
「あ、ああ」
御者をライロに任せ、進んでいく。
そこから、捜索の旅が始まった。
シュエの軌跡を辿るように進んでいく。
道中、街行く人々にシュエのことを聞いて回ってみたが、確かにここを通っていったようだった。
子供の一人旅ということで、結構心配に思っている人もいるようで、早く見つけてあげてとか、時にはなんであんな小さな子を一人で行かせたんだとお叱りを受けることもあった。
なんだかんだ、シュエはみんなに愛されているようである。
それはそれで喜ばしいが、目撃情報はあれど、本人は見つからない。
順調に進んでいるようで、すでに三日は経過しているだろうか。
もし、何かトラブルがあって留まっているなら追いつけるかもしれないが、何者かに連れ去られていたらどうしようか。
そうなってくると、追うのは難しいけど……。
「どうやら、この辺りで行方がわからなくなっているようですね」
しばらく足取りを辿っていると、おそらく最後に目撃されたであろう町までやってきた。
町の人達に確認を取ったが、大体一週間くらい前にこの町にやってきたらしい。そして、しばらくの間は滞在していたが、ある日を境にいなくなってしまったのだとか。
どこへ行ってしまったんだろうと心配する人も多く、ぜひ見つけてほしいと頼まれてしまった。
どうやら、この町で何かあったのは確かなようである。
「いったいここで何が?」
「ひとまず、何か噂がないか聞き込みしてみるの」
シュエの性格なら、例えば誰か困っている人がいたなら、助けに入るだろう。
人攫いに遭遇したとか、違法な奴隷を発見したとか、パターンは色々ありそうだ。
であれば、聞けばそう言う噂の一つや二つ出てきてもおかしくはない。
きっかけがわからなければ探しようがないし、まずはそう言った情報を集めるのが先決だろう。
手分けをし、それらしい情報を探す。そうして探した結果、ある結論が出た。
「十中八九、謎の島が関係していそうなの」
謎の島。ここ最近、沖の方に、謎の島が出現したらしい。
当然ながら、以前はそんなものはなく、ただの海だった。それが、小さな孤島がいつの間にか出現しており、町の人達はなんだなんだとざわついていたようである。
ただ、この島、どうやら現れるのは初めてではないようで、ご老人達に話を聞くと、以前にも出現したことがあったらしく、幻の島とも言われているようだ。
島が現れた際には、周囲には巨大な渦潮が発生し、近づくことは困難らしい。だから、島に何があるのかは全くの未知数なのだとか。
かつては宝を求めて島に挑む者もいたらしいが、今ではどうあがいても渦潮を突破できないと気づき、島を拝めたらラッキー、くらいの事象に収まっているようである。
「いつの間にか現れた未知の島、スターコアを求めて秘境を探している身としては、調べないわけにはいきませんよね」
「多分、センサーも発動してただろうしな。行かない手はないだろう」
「シュエなら渦潮くらい突破できるだろうしね」
海の王者であるリヴァイアサンに渦潮など通用しない。
ちょうどシュエが来た時にその島が出現したのなら、シュエは間違いなくその島を調べに行ったことだろう。
その日付を逆算すると、おおよそノクトさんが連絡が取れなくなった日付と一致する。
となると、あの島に行き、そこで何かがあり、連絡が取れない状況に陥った、ということなんだろうな。つまり、シュエはあの島にいるということである。
「ちなみに、アリスはあの島について何か知ってる?」
「幻の島については一応聞いたことあるの。出現条件はわかっておらず、何があるかはわからない。ただ、その島を見られれば、幸運に見舞われる、とかなんとか書かれてた気がするの」
気が付けば現れ、気が付けば消えている、そんな島。
一度出現すれば数日は出現したままになるようだが、俺達が着いた時間を考えると、いつ消えてもおかしくない状態なのかもしれない。
そう考えると、さっさと行かないと取り返しがつかなくなるかもしれない。
もし島にシュエがいて、その状態で島が消えてしまったら、シュエの存在ごと消えてしまう可能性もあるわけだし。
「とにかく、早めに行くの。何があるかはわからないけど、とにかくシュエを探し出すのが先決なの」
「だな。早い所見つけて帰ろうぜ」
そうして、俺達は幻の島を目指すことになった。
さて、島にはいったい何があるのか。シュエが連絡不能になるような何かがあるのは間違いないが、俺達で対処できることならいいんだけど。
わずかな不安を抱えながら、ひとまず島に向かうことにした。
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