幕間:幻獣の再会
フェニックスのノクトの視点です。
『スターダストファンタジー』というTRPGには、様々な幻獣が存在する。
リヴァイアサンやドラゴンなど、大抵はめちゃくちゃ強く、一部の人達の間では崇められるような、そんな存在だ。
そんな中でも、俺が一番好きなのはフェニックスである。
不死鳥として崇められ、その炎は邪悪を浄化し、何度死に至っても再び転生する再生力の象徴のような存在。
俺は一目見た時から、フェニックスのことが好きになっていた。
元々、鳥系が好きだったというのもあるけど、その雄々しい姿は俺の心を魅了していた。
だから、幻獣を使って冒険してみないかと誘われた時、もちろんやると飛び付いたものだ。
『スターダストファンタジー』には、魔物冒険者ルールというものがある。
人型の魔物に限り、普通の冒険者と同じように冒険することができるというルールだ。
もちろん、フェニックスは人型ではない。しかし、そこらへんは何とかすると、キーパーから言質を貰った。
その結果出来上がったのが、フェニックスのノクトである。
シナリオのコンセプトとしては、人の世界に興味を持った幻獣が、その好奇心を満たすために冒険者の真似事をしている、という感じらしい。
元より、キーパーは奇抜なものが好きだった。
他のTRPGでも、人外探索者やらをよく使っていたし、そう言うシナリオをよく作っていたように思える。
まあ、本来なら人間など軽く屠れるような存在が、同じ土俵にわざわざ立って四苦八苦したり、時には真の力を解放して無双したり、そう言うのが好きなようだから、そう言うシナリオが増えるのは必然とも言えるけど。
俺も別に、その趣味を否定したりはしない。というか、俺も人外キャラが作れるならそっちを選ぶ傾向が強いからな。むしろ理解の方が勝る。
そうしてシナリオを始めて、気が付いたら自分がノクトになっていたのは驚きだったがな。
異世界転生? 転移? どちらかはわからないけど、どちらにしても、ノクトの体になれたことは、俺にとってとてつもない幸運だった。
常々、ああ、こいつかっこいいなと思っていたのだ。その理想とも言える姿になれたのだから、嬉しくないはずがない。
しかも、今までは紙の上でしかわからなかったものが、その質感とか、感じ方とか、そういうものがダイレクトに伝わって来て、めちゃくちゃテンション上がっていたような気がする。
この姿であれば、この世界も楽しむことができるだろう、そう思って各地を飛び回っていた。
でも、すぐにこの姿なりの不便さに気が付くことになる。
幻獣は、基本的には強くて、一部の人達には崇められるような存在とは言ったが、フェニックスに限っては、別の意味で注目を集めていた。
それが、フェニックスの羽である。
フェニックスの羽は、『スターダストファンタジー』においては復活アイテムの一つで、割と貴重なものになる。
この世界が『スターダストファンタジー』の世界かどうかはぱっと見ではわからなかったが、少なくとも、フェニックスが貴重な存在として扱われているのは確かなようだった。
その結果、俺は追われることになった。
どこへ行こうと、命を狙われる。何もしてないのに。
もちろん、フェニックスだから死んでも生き返れるとは思っているけど、リアルとなって、生き返れる保証があるとしても死にたいとは思えない。痛いのは確かだろうし。
来る日も来る日も追われ続ける毎日に、俺は嫌気がさしていた。
そうして安全な拠点を探し、迷い込んだのが霊峰スタルである。
その後のことはよく覚えていないが、ボスであるフェラトゥスが俺を守ってくれていたらしく、そのフェラトゥスを仲間にしたアリスという兎獣人に誘われ、仲間になることになったという経緯である。
いや、別に仲間になる必要はなかったかもしれないが、アリスは俺が探していた人物をすでに見つけていたようだったから、お礼という意味でも仲間になるべきだと思った。
その一人が、一緒に遊んでいたシュエである。
「ノクト、久しぶり!」
「ああ、元気そうだな、シュエ」
「うん!」
シュエはリヴァイアサンだったはずだが、今は少女の姿になっている。
かくいう俺も、今は少年の姿になっているが、この機能を追加してくれたキーパーには礼を言っておかなくてはならないかもしれない。
というか、もっと早く思い出せばよかった。フェニックスになったことに浮かれていて、人間の姿になれることをすっかり忘れていたせいで、追われる日々になったのだから。
そう言う意味でも、アリスには礼を言わなくてはならないかもしれない。
「わかってたけど、ちっちゃいね」
「お前がそれを言うか?」
「仕方ないじゃん、今のシュエはシュエなんだもん」
「何を当たり前のことを言ってるんだ」
いや、まあ、言いたいことはわかる。
キーパーの提案によって、俺達の年齢は10歳程度になっている。
これは幻獣としては赤ちゃんのようなレベルであり、本来なら親元で暮らしているような年齢だ。
というのも、冒険者となるにあたって、レベルは5からスタートということになったのだが、幻獣のレベルが5なんてことはありえない。
下手をすればネームドボスより強いのだから、少なくともレベルは30とかあってもおかしくないのだ。
しかし、それだと冒険者としては強過ぎである。それなりにやり込んではいるが、レベルアップの楽しみを奪うのもなんだし、それは避けたかった。
では、幻獣がレベル5にまで落ち込む理由は何かと考えた時に、子供だからでは? となったのである。
そう言うわけで、俺達は等しく10歳となり、人間姿の時はそれに準じた姿になるということになったわけだ。
ついでに言うなら、口調もそれに合わせてある。シュエなんかはちょっと幼すぎる気もするが、中の人の年齢を考えるとちょっと笑えてくるな。
「それより、今までどこ行ってたの?」
「ちょっと、霊峰の方にな」
「むぅ、そっちはいいよね。空飛べるからどこにだって行けるし」
「お前だって水辺ならどこだって行けるだろ?」
「海には何もないもん。気持ち悪い魔物がいるだけで」
そう言って、シュエは頬を膨らませる。
まあ、確かに海を自由に移動できるのと空を自由に移動できるのでは、後者の方が行動範囲は広くなるか。
聞いた話だと、こいつは貿易ルート上に陣取っていたようで、船乗りからは災害扱いされていたようだ。
俺と違って追いかけられることもなかったみたいだし、俺としてはそっちの方が羨ましいんだが。
「そうかい。まあ、せっかく人外になれたんだから、楽しんだらいいんじゃないか?」
「ノクトと一緒にしないで。シュエは早く帰りたい」
「ええ、もったいないだろ?」
「どこが」
どうやらシュエには同意は得られないらしい。
いいと思うんだけどな、人外。俺はフェニックスの姿に満足しているが、リヴァイアサンだって結構かっこいいと思うんだけど。
いや、かっこいいからか? シュエは一応女性だし、どちらかといえば可愛いのがよかったのかもしれない。
フェアリーとかだったら喜ぶかもな。今更無理だと思うが。
まあ、無事に出会えてよかった。そう考えて、俺はシュエの言葉を飲み込むことにした。
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