第四百三十八話:山頂にあったもの
山頂前に聳え立つ氷の崖。実際に手をかけてみた感想としては、思ったよりは登りやすい、だった。
確かに、壁はほとんど垂直に近いし、凍っているから足をかけても滑りやすく、少し気を抜くと落ちてしまいそうになる時もある。
ただ、作ったピッケルやアイゼンが優秀なのか、気を付けていればそこまでずり落ちるという場面は少なかった。
まあ、みんなは、特にサクラやシリウスは筋力が低いこともあって落ちそうになる時もあったが、低いと言ってもレベルが高いからごり押しできる範囲だし、落ちたとしてもみんなでロープを繋いでいるから下まで落ちる心配はない。
時間はかかるかもしれないが、失敗するってことはなさそうだと感じた。
「これは、多分レベルの上げすぎなの」
本来、シナリオには推奨レベルというものが存在する。
冒険者のレベルが1なのに、いきなり終盤レベルのボスを出したら勝てるわけないからな。序盤は序盤の、中盤は中盤の敵を徐々に強くしながら出すのが基本である。
俺のように、自分でシナリオをキャンペーンするならともかく、他の人が書いた、いわゆるフリーシナリオを回す場合、適正レベルで回らないと、簡単すぎたり苦戦しすぎたりする場合がある。
だから、ゲームマスターは冒険者のレベルにシナリオの推奨レベルを合わせる必要があるのだ。
今は、リアルとなった影響でシナリオというくくりはないかもしれないが、それでも場所ごとの難易度というものはある程度は存在するだろう。
フェラトゥスがいたことや、スキル封印の瘴気が充満していたことを考えると、この山の推奨レベルはそれなりに高いはず。
正攻法で突破するには、スキルなしでフェラトゥスを倒さなくてはならなかったはずだから、いくら弱っていたとしてもかなり厳しかったことだろう。
でも、それでもせいぜい推奨レベル50とかではないだろうか? もっと高かったとしても、100はいかない気がする。
それに対して、俺達のレベルは100を超えている。最後の試練が、筋力を参照する登攀判定だとするなら、推奨レベルよりもよっぽど高い能力値で挑めているわけだ。
それに加えて、俺が作ったピッケルやらは登攀に特化した特注品である。
普通、登攀に特化した武器なんてない。普通に考えて、そう言う装備補正はないと考えるのが妥当だろう。
それをある状態にしたのだから、余計に簡単になってしまっている。
結果的に、崖などあってないような状態になってしまったわけだ。
「これは、ずるに入るの……?」
もしかしたら、本来はスキル封印の瘴気は、フェラトゥスを倒しても収まらないのかもしれない。
スキルが封じられた状態でこの崖に挑むとなれば、飛行系のスキルは使えないだろうし、パッシブスキルである【ハイジャンプ】も、もしかしたらこの吹雪によって使えない設定だったのかもしれない。
それらが初めから使えなかったと考えれば、正攻法で登っているのだからずるではないと思いたいけど、明らかにヌルゲー化してるんだよな。
いや、レベルなんてどうしようもないものだし、仮に『リビルド』とかでわざわざレベルを下げて挑むなんてする必要はないんだから間違っちゃいないんだろうけど、なんかもやもやする。
この場合は、プレイヤーが悪いというよりは、プレイヤーの強さを予見できなかったゲームマスターが悪いという風になりそうだけど、どうなんだろうか。
「……まあ、気にしないでおくの」
やっちまったもんは仕方ない。
ゲームでバグが起こった時、例えばそれが素材を無限に入手出来るだとか、お金がたくさん手に入るだとか、そう言うものだったらもしかしたら利用するかもしれないけど、ボスを一撃で倒せるとか、ルートを無視してラスボスまでいけちゃうだとか、そういうものだったら利用したくないだろう。
いや、RTAとかする人だったら歓喜なバグかもしれないけど、純粋にゲームを楽しみたい人からしたら、そう言うバグはわかってても利用しないのが普通だと思う。
今回のはバグというわけではないけど、別にシナリオブレイクしたわけではないと思うし、あんまり気にしない方がいいのかもしれない。
「さて、到着なの?」
何となくもやもやを感じながら登ること数十分。俺達は無事に崖を登り切り、山頂へと到達することができた。
山頂では、あれだけ激しかった吹雪は止んでいた。
眼下には美しい景色が広がっており、ここまで辿り着いたことに対するご褒美を貰えたような気がする。
ただ、景色もいいが、それよりも気になるものがあった。それが、この山頂に広がる不思議な空間である。
山頂の一角は綺麗に整地されていた。石畳が円状に敷かれ、中心には台座のようなものが設置されている。
周囲には柱が立ち並び、なんとなく、この空間だけは清涼な空気が流れているように感じた。
明らかな人工物を前に、しばらく呆然と立ちすくむしかなくなる。
いや、なんでこんなものがここにあるんだ?
「祭壇? のようなものでしょうか」
「台座に何か置いたら何か起こるって感じだよな」
「これがこの山の秘密なのかな?」
言い伝えでは、入った者はその身を焼かれ、骸骨となって永遠にさまようことになる、みたいな感じだったと思う。その理由は、この山が神様の住まう場所であり、山に立ち入ることは不敬とされているから、ということだった。
とすると、この場所は神様に関連した場所なのだろうか?
確かに、先ほどまでずっと吹いていた吹雪が止んでいるのは不思議だし、なんとなく、神聖な感じがするっちゃするけど。
「台座に何か書かれてるの」
台座に近寄ってみると、なにやら文字が書かれていた。
その文字は、俺達が知っているような文字ではなかったけど、見た瞬間、何と書いてあるかは理解することができた。
曰く、この台座に七つの星を嵌めよ、さすれば無限の力を得られん、らしい。
七つの星って、スターコアのことだろうか? 『スターダストファンタジー』で星といえば、それのことだし。
見てみれば、確かに台座には七つのくぼみがあった。ここに嵌めれば、何かが起こるというのは間違いなさそうである。
「スターコアの説明に、七つ集めろって書いてあったのはこのことなの?」
無限の力が何かはわからないが、元々スターコアは上限解放アイテムである。
能力値を上げたり、レベルを上げたり、滅多に手に入らない強化アイテムというくくりだった。
フレーバーテキスト的には、何でも願いを叶えることができる、というようなことが書かれていて、実際この世界でもそう言う風に捉えられているようだ。
だから、そんな一つでも十分すぎる効果を持ったアイテムを、七つも集めろというのだからそれ相応の効果が期待できる。
わかりやすく強くなるなら、それこそ能力値の限界突破とか、レベルを999まで上げるとか、そんな感じなんだろうか?
今までは、何のために七つ集めなければならないのかわからなかったが、これで一応理由はできたのかもしれない。
「神様の住まう場所っていうのも、あながち間違いではなかったということなの?」
どう考えても、こんなの神様が設置したとしか思えない。
ネームドボスやスキル封印の瘴気という障害があったことからしても、ここが重要な場所ということはよくわかる。
恐らく、これは対魔王における最終兵器のようなものなんだろう。七つのスターコアを結集して、魔王にも負けないくらいの強さを身に着ける、それが目的なんじゃないだろうか。
そうなってくると、スターコアの捜索も急がないといけないね。
俺は台座を見ながら、より一層スターコアの捜索に力を入れなければと思った。
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