第四百三十二話:山の厳しさ
とりあえず、この部屋から出ることにする。
一応、ボス部屋ということもあり、もしかしたら宝箱でも置いてあるんじゃないかと思ったが、そんなものはなかった。
ランダムダンジョンのボスならともかく、シナリオ中に出てくるボスは、基本的に倒した時に手に入るドロップアイテムが報酬となる。
『スターダストファンタジー』の世界はどんなものでも売れるので、ドロップアイテムを売ることで疑似的に賞金を得るわけだ。
もちろん、宝の眠る洞窟へ挑むだとか、沈んだ海賊船を捜索するとか、そう言う宝を求めて冒険する系のシナリオならもしかしたら宝箱を配置するかもしれないけど、今回の場合は強いて言うならノクトさんが報酬ってことになるんじゃないだろうか。
意図的か偶然かはわからないけど、本来ならばフェラトゥスを倒すことによってノクトさんの呪いを解き、仲間にするっていう展開になったはずである。
まあ、それをフェラトゥスを無理矢理仲間にすることによってどっちも仲間にしたわけだけど、ノクトさんが仲間になってくれるなら、戦力としても十分期待できるし、何ならフェニックスの羽を定期的に入手できるかもしれないという破格の報酬となる。
ネームドボスの報酬としては十分すぎるものだろう。これ以上、宝箱なんか置いてあったら、ミミックを警戒した方がいいかもしれないね。
「ふむ、忌避感がない。やはり、解放されたのは間違いないようだ」
「前は出られなかったの?」
「うむ。穴に近づくと、戻らなければならないと無意識に考えてしまっていた」
穴から戻り、洞窟の外へ出ると、フェラトゥスはそんなことを言っていた。
やはり、ボスとしてあの空間に縛り付けられていたのは間違いないようである。
あんな真っ暗な空間に何千年も閉じ込められているとか気が狂ってしまいそうだけど、そのあたりは設定の力で耐えていたのだろうか。
なんにせよ、無事に出られるようになったのなら何よりである。
「さて、探すとしたら、後は山頂ですか?」
「山を虱潰しに探すならもっとあるだろうが、今のところはそこが一番か」
さて、スターコアの捜索だが、ひとまず山頂を目指すことにした。
道中では見かけなかったし、あるとしたらそこが一番可能性が高いだろう。
もちろん、山全体を探したわけではないから、もしかしたら反対側のルートで探してみたらすぐに見つかった、とかもあるかもしれないが、それに関してはもうどうしようもない。
後で調べるなりなんなりすればいいだろう。
〈さっきから探す探す言ってるが、何を探してるんだ?〉
「ああ、そう言えば言ってなかったの。実は……」
ノクトさんの問いに答える。
今のところ、スターコアは三つ見つけている。
一つはサクラの里の近くで、一つはアウラムから譲り受けて、一つは未開拓地域の先で見つけた。
鑑定して出てきた説明には、七つ集めたら何か起こるとも書いてあったし、何より、神様と通信するための貴重な手段でもある。
今まで見つけたスターコアが再利用できたらいいんだけど、スターコアの能力を失わないぎりぎりまで魔力を使った結果がこれなので、さらに使ったらただの石になってしまうだろう。
七つ集めろというのが、使い終わった後のただの石でいいならそれでもいいけど、どういう判定になるかはわからないし、とりあえずは今のままでいいだろう。
早急に神様に確認したいこともないしな。いや、なぜフェラトゥスをあの場所に閉じ込めていたのかっていうのは気になるが。
〈なるほどな。それで隕石を探してると〉
「そうなの。ちなみにだけど、ノクトさんはそう言うの見たことないの?」
〈そんなの意識して飛んだことないからな。あっても見逃してると思う〉
ダメ元で聞いてみたが、やはり知らないようだった。
まあ、スターコアがそのまま露出しているならともかく、隕石なんて遠目で見たらただの大きな岩だし、わざわざ気に留めることもないだろう。
ただでさえ、ここは雪が降っているし、仮にこの山をぐるりと飛んでみて回っていたとしても、見つけることはできないだろう。
「我も知らぬ。あの場所から出られなかったのでな」
「まあ、それは仕方ないの」
フェラトゥスも当然知らない。となると、やはり闇雲に探すほかないか。
外にいるスケルトンなら、フェラトゥスを介して会話できるかもしれないし、そこから手がかりを得られないかとも思ったけど、スケルトンはそもそも喋らないようなので会話するのは無理だ。
「地道に探すしかないの」
「それはいいのですが、流石にここまでくると寒さが厳しいですね」
「む、それは確かに……」
例の洞窟からさらに山頂に向かって上に進んでいるが、天候は最悪のままだ。
雪が降っているだけならまだしも、強風と合わさって吹雪になってしまっている。
視界は最悪で、近くにいるはずのみんなの姿すら見えなくなる時があるくらいだ。
一応防寒着は着ているが、それでも防げないほどの寒さであり、だんだんと歩みも遅くなっているように思える。
火の鳥であるノクトさんや、アンデッドであるフェラトゥスはあまり寒さを感じていないようだが、こちらはちょっとまずいかもしれない。
「多分、凍結状態に入りかけてる気がするの」
凍結状態とは、状態異常ではなく、フィールド異常の一つだ。
例えば他には、飛行状態とか、遊泳状態とかがある。
で、その中でも凍結状態は、体が凍るほど寒く、うまく動くことができない状態のことを指す。
具体的には、敏捷や行動値にマイナス補正がかかり、移動できる距離も半分くらいになる。
簡単に言えば、寒くて動けないってことだね。
これを解消する方法は、火属性の武器を持っている、寒さを防ぐ防具を着けている、火属性の魔法を使うなどが挙げられるが、多分、リアルになった影響でただそれを持ってるってだけじゃ効果がなくなって来たんじゃないだろうか。
だって、みんな防寒具は着ているのだから、寒さを防ぐ防具の条件は満たしているし、カインはフレイムソードという火属性の武器を持っている。それなのに寒いと感じているのだから、これだけじゃ不足ってことなのだろう。
一番つらそうなのはシリウスだろうか。なんだかんだ、サクラはイナバさんを抱いている関係で多少は寒さを防げているようだし、俺は獣人だから元々の体温が高い。
我慢はしているようだが、ガタガタ震えているし、これ以上進むのは危険かもしれない。
「ここは撤退するのも一つの手なの」
「いいんですか?」
「別に、今すぐに見つけなくちゃならないってわけではないの。瘴気も消えたし、ちゃんと準備を整えてまたくればいいの」
スキルが使えなかった関係で、最近城にも戻れていない。
ひとまずの目的は達成しているのだし、まずは戻って無事の報告と、仲間の紹介をしてもいいだろう。
一気に見つけられないのは残念だけど、これでシリウスが体調崩すのも困る。
いやまあ、【キュア・ディジーズ】で治せるだろうけど、そうならない方がいいに越したことはないし。
「そう言うわけで、ここはいったん戻るの」
そう言って、俺はポータルを開く。
ポータルが使えるなら、次回はまたここから挑むこともできる。
この霊峰にスターコアがある可能性はそれなりに高いし、そのうち虱潰しに探すことになるだろう。
そのためにも、ポータルは設置しておいた方がいい。
まあ、ここじゃあれだし、船まで戻ろうか。あそこなら、いきなり吹雪に見舞われるってこともないだろうし。
そんなことを考えながら、来た道を戻っていった。
感想、誤字報告ありがとうございます。




