第四百二十九話:深まる謎
瘴気の発生を自由に操作できるようになったおかげで、スキル封印の瘴気は霧散した。
これにより、スキルが使えるようになり、シリウスに沈黙状態も治してもらって、俺も話せるようになった。
いや、話せないって結構大変だね。筆談できるだけましだけど、とっさに声を上げられないっていうのは凄くストレスだった。
まあ、治ったしもう気にしないでおこう。それとも、耐性系のスキルでも取るか? いや、意味ないか。
一応、状態異常に対しては、魔物は三つまで耐性スキルを取得することができるというルールがある。
【耐性:毒】とか【耐性:麻痺】とかね。
この耐性っていうのは、指定された状態異常を受けなくなるっていうもので、言ってしまえば【状態異常無効】の下位互換だ。
これを使う場面は、完全耐性にはしたくないけど、完封されないためにある程度の耐性が欲しい、みたいな時である。
まあ、そういうことをしたいなら、そういうスキルを作ってしまえばいいだけなので、あってないようなルールではあるけどね。
どっちにしろ、貫通系のスキルには無力だからあんまり意味はないけど。
「さて、フェラトゥスさん。体の方はどうなの?」
「ふむ……悪くない。骸骨姿なのは少々気になるが、言葉も喋れるし、何より縛り付けられるような感覚がなくなった。礼を言う」
「そう、それはよかったの」
少々高圧的な喋り方ではあるが、それに関しては恐らく設定の範囲内だからしょうがない。
まあ、フェラトゥスは元々喋らないはずだけど、無理矢理喋れるようにしたことで、ネームドボスに相応しい喋り方をするように設定が追加されたのかもしれないね。
まさか元々こんな喋り方ってことはないよね? いや、別に俺は気にしないからいいけどさ。
「お前……いや、アリスは不思議な力を持っているのだな。あの時出会った、神と同じような存在なのか?」
「いや、私は神様じゃないの。ただ、ちょっと運がよかっただけなの」
ゲームマスターの能力に関しては本当にたまたま手に入れたものだ。
本来なら、自分が作ったキャラの姿で呼ばれた関係上、ゲームマスターが呼ばれることはなかったはずだが、俺はお助けNPCとして無理矢理パーティに入っていたせいで、ゲームマスターとしての力を持ったまま、この世界に呼ばれることになった。
この力がなかったら、ここまで冒険してくることはできなかっただろう。
もちろん、レベル30もあれば大抵の敵は倒せるだろうが、今回のフェラトゥスのように、一部のネームドボスは相手するのがきつかった可能性もある。
こんな世界の命運を分けるような使命を負わされたことは不運だろうが、それに見合うくらいの強力な能力を持っていたことは本当に幸運だった。
「それより、死んだ後に出会ったっていうのは、やっぱり神様なの?」
「ああ、よくは覚えていないが、そのようなことを言っていた気がする。それに、役割がどうとかも」
「役割、ねぇ」
この人は元々船の乗組員で、この世界で死んだ後、神様に出会ってフェラトゥスの体になったと言っていた。
普通に考えれば、神様がフェラトゥスの体にしたってことになると思うんだけど、わざわざそんなことする意味はあるんだろうか?
例えば、あの船を対魔王の切り札として使うことを想定して呼び出したのなら、それが使えずじまいになって、それを取り戻すために強い魔物に転生させたっていうならなんとなくわからないでもないけど、そもそも魔物はすべて魔王の配下である。
そりゃ、純正の魔物でなく、人の魂を持った魔物なのだから、魔王の支配から逃れられるかもしれないけど、それだったら初めからその心配がない人族に転生させるべきではないだろうか。
しかも、見た限り、フェラトゥスはこの部屋から動けなかった可能性がある。
さっき、縛り付けられる感覚がなくなったと言っていたけど、それは恐らく、ボスとしてこの場にいなければならないという制約からの解放だろう。
それに関しては、俺が『リビルド』したことによって、ボスではなくプレイヤーとして認識されたから、解除されたって感じなんだと思う。
ただ、ボスとしてこの場にいなければならないという制約があったのなら、対魔王の戦力として使おうとしてたっていう仮説は間違っているということになる。
だって、船が完全な状態で残ってるってことは、この山は魔王の手が伸びなかったってことだろうし、それだったらわざわざこんなフィールドにいたところで戦う機会なんて訪れないだろう。
どちらかというと、この山を訪れたプレイヤーを楽しませるためにボス役をさせたと言われた方がしっくりくる。
でも、そうなってくるとますます意味がわからない。
もし仮に、魔王とか関係なくその後の時間に呼ばれたんだとしても、生き返らせてまでボス役をさせる意味なんてなに一つない。
神様は、一体何が目的でフェラトゥスを生き返らせたのだろうか。
「ちなみに、その役割については覚えているの?」
「わからぬ。フェラトゥスという名を与えられたのは覚えているが、詳しいことは朧気だ」
「うーん……」
前向きに考えるなら、魔王に滅ぼされた後、いつか俺達のような人達が呼び出されることを予知して、その味方になってくれるように配置しておいたとも考えられるけど、そんな回りくどいことしなくても、それだったらみんなのレベルをいじって強くするとかすればいいと思う。
神様でもできないことってあるんだろうか? いつかの時のために、こうして予備戦力を残しておくので精一杯だったとか?
ちょっと無理があるような気がするけど……。
「まあ、こうして仲間になったんだからいいんじゃねぇか? 普通なら、そもそも仲間になるなんて選択肢はなかったんだろうし」
「んー、まあ、そうなんだろうけど、なんかもやもやするの」
確かに、よくよく考えてみれば、ネームドボスを目の当たりにして、仲間にしようなんて考える奴いないよな。
今回は、フェニックスによって弱っていたからちょっと違和感を抱けたけど、そうでなかったら問答無用で襲い掛かってもおかしくない。
そして、フェラトゥスも闘争本能というか、攻撃されたら攻撃し返すみたいな設定だっただろうから、そこから仲間になろうなんてルートにはならないだろう。
となると、神様は初めからフェラトゥスを敵として配置した?
魔物なのに、まさか人族の味方として配置したってわけじゃないだろう。それこそ、人族に転生させればいいのだから。
フェラトゥスがいつこうなったのかはわからないけど、魔王が現れて大変な時にこうなったならわざわざ冒険者の敵を増やす必要はないし、魔王が去った後にこうなったんだとしても、文明が崩壊して復興もままならないって時にそんなもの配置する理由がない。それも、こんな誰も来ないような霊峰の奥地に。
あるいは、もっと前。魔王が出現するよりも前に呼び出されたってことはあるだろうか?
それだったら、冒険者のために用意したとしても少しは納得できなくもないけど。
でも、そうなってくると船ごと呼び出した理由がわからないし……。
ダメだ、いくら考えても神様の考えがわからない。
俺はしばらく腕を組んで考えていたが、いくら考えてもわからないものはわからないので、とりあえずできることから手を付けることにした。
感想ありがとうございます。