表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
466/677

第四百二十八話:新たな可能性

 俺は一つの可能性に思い至っていた。

 フェラトゥスというのは、『スターダストファンタジー』に登場するネームドボスの一体である。

 当然ながら、それには設定があり、スキル構成や行動理念、バックグラウンドの説明など、色々と書かれている。

 もし、この人が船の乗組員ではなく、フェラトゥスというキャラだとするなら、その設定に縛られているのではないかと思ったのだ。

 色々おかしな部分はあった。かなり温厚な性格っぽいのに戦いでは結構威力の高い攻撃を仕掛けてきていたし、今も先程の台詞とは裏腹に、カインが一歩近づけば杖を構えている。

 多分、ネームドボスとしてふさわしい行動をしなければならないのだろう。自分の意思はあまり関係なく、侵入してきた者は攻撃しなければならない設定でもあるのかもしれない。

 本当ならこの人も、他の人と仲良くしたいのかもしれない。フェニックスを匿っているのもあるし、根は優しい人なんだろう。

 でも、それができない体に嫌気がさし、死にたいと願っているって感じだと思う。

 ここで戦い、この人を眠りにつかせてあげることは恐らくできるだろう。すでに【不死王の再来】は使ってしまっているだろうし、そもそも戦う意思が薄い。

 いくら設定で無理矢理戦わされるのだとしても、本気でないなら避けるのはそう難しくないし、恐らく攻撃も積極的に当たってくれることだろう。

 でも、本当にそれでいいのか?

 設定にも負けず、健気にも相性の悪いフェニックスを匿っている人を、望んでいるとはいえ倒してしまってもいいのだろうか?

 他に何か方法があるのではないか。そんなことを考えてしまう。

 カインもシリウスもサクラも、待ってくれている。頷きはしたが、俺が迷っていることなどお見通しのようだ。

 この人を助けるためにできることは何か。考えて考えて、その結果一つの方法を思いついた。

 そう、『リビルド』である。


「なるほど、言うなれば、フェラトゥスというキャラを操るプレイヤーという見方もできますし、できないことはないでしょうね」


「キャラシは開けるのか? 開けるなら、やってみる価値はあるかもな」


 シリウスに促され、キャラシを開いてみる。

 フェラトゥスというのは、このキャラの名前だからどうかとも思ったけど、一応開けるようだった。

 そこにはフェラトゥスのデータとほぼ同じステータスが書かれていた。

 いくつかのステータスに下降補正がかかっており、状態異常に浄化状態という項目があった。

 多分、フェニックスを取り込んでいることによってステータスが下がっているんだろう。

 備考欄には、船の乗組員だったことと、神の加護によってアンデッドとして蘇った、みたいなことが書かれている。瘴気の発生源ということも書かれていた。

 アンデッドとして蘇るのは神の加護って呼べるんだろうか。まあ、生き返れるだけましなのかもしれないけど。

 なんか、思ったよりはあんまり書かれていなかった。これならば、ある程度好きにいじれるかもしれない。


「質問します。あなたはどうやらこの世界に疲れてしまっているようですが、アリスさんなら再びやり直す機会を与えることができます。もちろん、多少の制約はあるかと思いますが、ここからも出られると思いますし、フェニックスも助けることができるでしょう。もしよければ、私達の仲間として、一緒に行きませんか?」


 どうせなら、仲間は多い方がいい。それに、こんな可哀そうな人を見捨てたいとも思わない。

 前向きに考えるなら、フェラトゥスはネームドボスだけあってかなり強い。仲間になってくれるならとてもありがたいことだし、あの船のことについて色々聞けるかもしれない。

 もちろん、このまま消えたいっていうなら無理にとは言わないけど、まだ希望を見出してくれるなら、全力でサポートする所存である。

 さて、返答はいかに。


「……」


 しばらく悩んだようなそぶりを見せた後、ゆっくりと頷いた。

 どうやら、まだ希望は捨てていなかったようである。こちらとしても、後腐れなくてよかった。

 さて、そうと決まれば『リビルド』である。

 『リビルド』は、スキルや能力値振りを見直し、新たにキャラを作り直すことである。

 その時は最善だと思って取ったスキルが、後に役に立たないスキルだったとか、キャラ付けのために伸ばしたけど、あまりに使いにくくて活躍できないとか、そう言う場面でゲームマスターが許可を出せば、同じレベルのキャラを新たに作ることができるのだ。

 もちろん制約はあって、あまりに大きな改変は許されない。

 例えば、種族が人間で、バリバリの前衛アタッカーだった人が、エルフになって魔法でサポートする後衛サポーターになったら、それまでの冒険に矛盾が出てしまう。

 あくまで、それまでの冒険に矛盾があまり出ないように、クラスや種族はおおよそそのままに、ちょっと気になる部分を変えるというのが『リビルド』である。

 アンデッドであることや、備考欄に書かれている瘴気の原因、みたいな項目は取り消せないけど、まあやりようはいくらでもある。

 会話ができないので、そのあたりも考慮しつつ、スキルやクラスを当てはめて行こう。


「……(こんなもんかな?)」


 そうして色々いじくった結果、種族はそのままリッチになった。

 本来、魔物冒険者はそんな高位の魔物にはなれないけど、フェニックスやらリヴァイアサンやらがすでにいるんだから、今更リッチが現れたところでどうってことはないだろう。

 一応、アンデッド系列なら他の姿にもできそうだが、あまりに姿が変わりすぎても困るだけだろうし、一応人型で、ローブを羽織れば街中も歩けそうなリッチはそれなりに都合がよかった。

 で、もちろん言語は取得させた。差し当たって、大陸共通語と人間語は必要だろう。一応、魔物語も取得はさせたけど、使う場面が来るかは知らない。

 まあ、リッチは魔法使いだけあって知力は高いし、それなりに言語は取れるので問題はないだろう。取らない方がもったいない。

 クラスは【ソーサラー】になった。エンズさんと同じだが、呪いとデバフに特化した魔法使いならこのクラスが一番合っている。

 雰囲気だけで言うなら【ネクロマンサー】も合いそうだけど、あれは【シャーマン】からの派生だし、デバフはともかく、バフはちょっと癖が強い。

 昔の人であるフェラトゥスにとってはあまり馴染めないものだと思うし、そのまま活用した方がいいだろう。

 スキルはフェラトゥスの時に取っていたものをほぼそのまま採用し、それに加えて【ソーサラー】のスキルをいくつか取得。

 ネームドだけあってレベルは元々高いし、追加でスキルを取る枠は十分にあった。

 スケルトン召喚もあるし、一人でもそれなりに戦えるスペックにはなっただろう。

 で、問題の瘴気の原因って部分だけど、自分でオンオフができるようにした。

 備考欄に書かれている以上、瘴気の原因という部分を消すことはできないが、それを吹き出すかどうかを決めることができれば、普段はオフにしておけば何の問題もない。

 これなら今までの設定ともあまり矛盾も起きないし、案外すんなりはめ込むことができた。

 見た目に関しては、リッチである以上は骸骨姿であることは変えられないけど、まあ概ねいい感じになったんじゃないだろうか?

 満足いく結果に、俺はうんうんと頷いた。

 感想ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ついでに見た目を誤魔化すスキルも取れれば良かったが……
[良い点] 裏技的なやり方でフェラトゥスを仲間にするとは思いませんでした [一言] スキル封印も解除されて瘴気もなくなるしスターコア探しも楽になりそうです 人里離れてますし絶対あるでしょう
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ