第四百二十七話:フェラトゥスの正体
このフェラトゥスはプレイヤーではない。けれど、ただのネームドボスというわけでもない。
では一体何なのか、色々考えてみて、一つの可能性に思い至った。
「あなたは、この近くにあった戦艦の乗組員ですか?」
「あっ……」
頷く。やはりそう言うことらしい。
あの戦艦の乗組員達は、どうやら戦時中の日本からやってきたようである。
いきなり雪山の上層まで連れてこられ、食料は底をつき、お互い争うようになった。それを見て、全滅する前に、どうにかして下山しようと、なけなしの食料などを手に、みんなで下山を試みたと日誌には書いてあった。
この乗組員がそのうちの誰なのかはわからない。けれど、こんなところでアンデッドになってるってことは、下山は失敗したってことなんだろう。そして、この山にスケルトンが多いのは、そんな乗組員の最期の姿だったのかもしれない。
薄々予想していたことが当たってしまってちょっと気分が悪くなる。
魔物とあらば、もはや殺すことに抵抗はあまりなくなって来たけれど、元人間と言われたらちょっとは思うところはある。
このフェラトゥスも、そんな中の一人だと考えたら、積極的に戦いたいとは思えなくなってしまった。
まあ、あちらに戦う意思はないようだし、どうにかしてフェニックスを引き渡してくれるなら戦う必要もないんだけど。
でも、まだ疑問なことはある。フェラトゥスがあの船の乗組員だったとして、じゃあフェニックスを匿っている理由は何だ?
呪いをかけたのは自分だと言いながら、自分でないと言っているのも気になるし、そもそもアンデッドとして蘇るとしても、フェラトゥスなんて言うネームドボスになるか?
あったとしても、普通のスケルトンになるのが落ちな気がするんだけど。
「その姿になった理由はわかりますか?」
「あ……」
頷き、何かジェスチャーを始める。
わざわざスケルトン召喚まで使って、なにやら芝居のようなものを始めた。
その内容を見る限り、フェラトゥスは死んだ後、複数人の何者かに出会ったらしい。その人物に何かを言われた後、今の姿になった、みたいな感じだろうか。
死んだ後に出会うって……神様か何か?
『スターダストファンタジー』の世界にはたくさんの神様がいるから、複数人に会ったというのは不思議ではないけど、その後フェラトゥスの姿になったってことは、神様がこの姿にしたってことか?
普通に考えれば、この人がこの世界に来たのも、神様の仕業である可能性は高い。俺達と同じように、元の世界からこの世界に召喚したと考えれば辻褄は合う。
ただ、呼び出しておいて何もしなかったのは気になる。
あの船、雪による劣化防止を踏まえても恐らく数千年は経っているはず。そんな前に召喚したということは、考えられるのは、粛正の魔王に対抗するために呼び出したって可能性が高いか。
俺達のようにキャラの姿でなかったのは、戦艦というこの世界においては超兵器を使わせるためなのかもしれない。
ただ、呼び出した場所が悪く、ただ呼び出されただけで終わってしまったってところだろうか。
俺達の時も、目的を知らされたのは呼び出されてからしばらく経った後だったし、この人の時もそうだった可能性がある。
粛正の魔王に対抗するために呼び出されたものの、場所が悪く動けなくなり、また、霊峰という極限の場所だったせいで魔王の手も届かず、ただ朽ち果てるのを待つのみとなってしまった。
だから、もしかしたら、それを可哀そうに思った神様が、せめて強い体を与えようとフェラトゥスの体を与えたって可能性はなくはないかな。
せっかく蘇らせてくれるなら元の世界に帰してあげたらよかったのに。ただ呼び出されて、そのまま死んだ挙句アンデッドになるなんて、この人めちゃくちゃついてないね。
「フェニックスとはどういう関係なのですか?」
再び寸劇が始まる。頷くか首を振るかの二択しかないと思っていたけど、スケルトンを使うことによってある程度分かりやすいジェスチャーをすることはできるようだ。
だったら初めからそうすればよかったのに。いや、もしかしてあの時スケルトンを召喚したのはそれをやろうとした可能性もあるのか?
だったら悪いことをしてしまった。
で、フェニックスの関係だけど、会ったのは最近のようだ。ある日この場所に迷い込んできて、戦闘になった。
その結果フェニックスが勝ち、フェラトゥスはもう一度死ぬことになる。しかし、その時になぜか呪いが発動し、フェニックスに目覚めぬ呪いを与えた、ということらしい。
死んだ時に発動するスキルというと、いくつかある。フェラトゥスにもそう言ったスキルはあったはずだけど、目覚めない呪いなんてあっただろうか。
そこらへんはよくわからないけど、フェラトゥスはそれに責任を感じ、それ以来フェニックスを守っているとのこと。
なるほど、呪ったのは自分だけど自分じゃないっていうのは、自動的にスキルが発動して、自分の意思とは関係なく呪ってしまったということか。
あれ、でも、戦闘になったって言ってたけど、こんな話のわかる人が安易に戦闘なんてするか?
俺のことを襲ってきたのはフェニックスを守るためだとしても、その前はそもそも守る対象はいなかったわけだし、フェニックスが直接喧嘩売って来たとかでもなければそもそも戦闘にならない気もするけど。
いやまあ、フェラトゥスはネームドボスだし、フェニックスがプレイヤーなら問答無用で襲い掛かっても不思議はないが。
「呪いが原因なら、スキルが使えれば治せそうだが」
「問題はそのスキルが使えないってことだよね」
フェニックスを守っている理由がそれなら、呪いが解ければ守る必要もなくなるし、引き渡してくれる可能性はあるだろう。
ただ、治そうにもスキルが使えないじゃ無理がある。
一応、呪いを解呪するアイテムもあるっちゃあるけど、この呪いはどう考えてもイベント呪いだし、普通のアイテムが効くかどうか。
というか、これがイベントだとしたら、なんとなくゲームマスターのやりたいことは見えてくる。
スキルを使えないのは瘴気が原因で、瘴気の原因は恐らくフェラトゥスだ。だから、フェラトゥスがいなくなれば、スキルを使えるようになるはずである。
こうやって話させて情が沸いたところを、あえてフェラトゥスを倒させることによってシリアスを演出し、その死を背負いながらフェニックスを仲間にする。そんな展開なんじゃないだろうか。
一応、フェニックスは助け出せるし、瘴気の原因もなくなって、この山のスキル封印も解除されるだろう。何となくのハッピーエンドとしては上等な方だと思う。
何となく、もやもやは残るけど。
だけど、今更フェラトゥスを倒せるかと言われたら、そんなことはない。
元人間というのもあるし、神様に振り回されてこの世界に閉じ込められている人をいたぶる趣味はない。
まあ、予想が合っているとしたら、すでにこの人は数千年を生きているわけだし、永遠の命から解放してあげるという意味で倒すならまだ踏ん切りもつくけど、そのあたりはどう思っているんだろうか。
この世界での生を終えて、静かに眠りたいと思っているのか、それとも、まだ生きていたいと思っているのか。聞いてみた方が早いかな。
「あなたは、まだ生きていたいと思いますか?」
「う……」
首を振る。フェニックスのことが心配なだけで、もう未練はないってことなんだろうか。
一応、細かく確認も取ってみたが、フェニックスを助けるために自分が犠牲にならなければいけないのなら、喜んで犠牲になろうとは言っていた。
何より、何もないこの空間で、ただひたすらに生きているだけというのに疲れてしまったというのもあるらしい。
だから、フェニックスを助けてくれるのなら、引き渡すのも吝かではないし、助けるために自分が消えなければならないのなら、消してくれと言っていた。
悲しいことだけど、本人がそう望んでいるなら、俺達にとやかく言う権利はないのかもしれない。
確認を取るように見つめてくるカインに対し、俺は静かに頷いた。
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