第四百二十六話:会話を試みる
もし仮に、このフェラトゥスがただの残留思念で、通常よりもかなり弱体化された状態なら、ごり押しでも多分何とかなるだろう。
実際、軽く戦ってみて、そこまで強いとは感じなかった。
まあ、それに関してはこちらのレベルが高すぎるからというのもあるかもしれないけど。
ただ、もし、何か伝えようとしているのなら、ただ倒すんじゃ解決しない。いや、解決はするかもしれないけど、心の中にモヤモヤを残すことになるだろう。
わざわざ相性が悪いはずのフェニックスを守っているのはなぜなのか、それを聞かなければ納得ができない。
「どうします? 一応、待ってはくれているみたいですが」
フェラトゥスは一定の距離を開けた状態で動こうとしない。
もちろん、こちらから足を踏み入れれば威嚇はしてくるけど、すぐに攻撃してこないあたり、あまり戦いたいとは思っていないのかもしれない。
そうなってくると、俺に攻撃してきたのは、俺が不用意に近づいたからか。
戦いたがらないボスなんていないから、ボスは問答無用で倒すものだと思っていたけど、そう言うわけでもないんだろうか。
「フェニックスをこのまま放置していくわけにはいかないよな。せっかく見つけたんだし、できれば連れて帰りたい」
「でも、そのためにはこの人を倒さないといけないよね。倒していいのかな?」
「それが問題だ。いくらボスでも、あちらに襲う意思があるのかわからない状態で倒しにかかるのもなぁ……」
まあ、厳密に言えば、魔物と分類されている時点で人族に対する敵なので、ネームドボスの魔物であるフェラトゥスは間違いなく敵なのだけど、今はそう言うことではないだろう。
相手が何を伝えようとしているのか解読できれば、それが一番いいんだけど。
「……(一応、喋る魔物は一部いるし、そう言う言語もマスターできないことはないけど、俺達はすでにそれを知っているはず。にもかかわらずわからないってことは、単純に呻き声しか上げてないってことだと思うし、それじゃあ意味ないよな)」
流石に、呻き声から何を言っているのかを把握するのは難しい。ちゃんとした言語なら魔物語でも解読できるが、そもそも言語になっていないのだから。
ただ喋れないというだけなら、【テレパシー】のようなスキルを使って会話することもできるとは思うけど、今はそのスキルを封印されてしまっているし、フェラトゥスはそう言うスキルは覚えていないはず。ちょっと望み薄だよなぁ。
「フェラトゥス、あなたは私達に何かを伝えたいのですか? もしそうなら、頷いてみてください」
「あ、ぁ……」
カインの呼びかけに対し、フェラトゥスはぎこちなく頷いた。
こちらの言葉はわかっているらしい。その上で、何か伝えたいことがあるのも事実なようだ。
頷いたり首を振ったりができるなら、こちらから質問を繰り返せばいずれは答えに辿り着けるか?
「ではまず、あなたは私達と敵対する意思はありますか?」
「う、ぅ……」
首を振る。どうやら戦いたくはないらしい。
攻撃してきたのはあくまで威嚇目的であり、敵対したいわけじゃないってことか。
「では次、あなたはすでに死んでいて、そのフェニックスを依り代に生き返ったのですか?」
「あ、ぅ……」
曖昧に首を振る。これは、どっちだ?
俺はカインにもう少し細かく言うようにメモに書いて見せる。
その結果、すでに死んでいるかという問いには頷き、フェニックスを依り代にしているかという問いには首を振った。
死んでいることは事実だが、フェニックスを基にしているわけではないようだ。
ということは、フェニックスがいなくなることによって体を維持できなくなるとかそう言うことではないのかな?
「では次、そのフェニックスはあなたにとって大切な人なのですか?」
「あ、ぁ……」
これには頷く。
依り代としているわけではないけど、大切な人。これはどういうことだ?
今までの情報を繋ぎ合わせると、フェニックスを深い眠りの呪いに落としたのはフェラトゥスのはず。でも、フェニックスのことは大切に思っている。
呪いをかけることがフェラトゥスなりの愛し方とか? いや、そもそもアンデッドが幻獣に対してそんな感情を持つとも思えないけど。
もしかしたら前提が間違っているのかもしれない。俺はさらにカインに指示を出す。
「では次、そのフェニックスに呪いをかけたのはあなたですか?」
「あ、ぁ……」
首を振る。どうやら前提が間違っていたようだ。
フェニックスを呪ったのはフェラトゥスではない。とすると、フェラトゥスはフェニックスを守ろうとしてこんなことをしているのだろうか?
渡したくはなさそうだったし、俺達からフェニックスを守るための行動だとしたら一応辻褄は合うか。
でも、だとしたら呪いをかけたのは誰だ? このフロアにはフェラトゥスとフェニックスくらいしかいないと思うんだけど。
町の方では、この山に向かうフェニックスの姿を見たという情報もあったし、深い眠りについてしまう呪いだとしたらこの場でかけられた可能性が高い。
一応、呪われた後にフェラトゥスが運んだという可能性もあるが、登場の仕方とかを考えると、フェラトゥスはこの部屋から出ていないはず。
やっぱりこの部屋で呪いをかけられたと考えると、フェラトゥスくらいしか候補がいない。
一体どういうことだ?
「では次、フェニックスに呪いをかけた人物はこの部屋にいますか?」
「う、ぅ……」
頷き、自分を指さした。
うん? どういうことだ?
「あなたがフェニックスに呪いをかけたんですか?」
「あぅ……」
頷いたり首を振ったり、曖昧な反応だった。
さっきは自分が呪ったんじゃないと言っていたのに、そのすぐ後に自分が呪ったと言っている。
明らかに矛盾しているけど、一体どういうことなんだろうか。
自分がやったけど、自分はやってない。うーん、あれか? やったのは自分で間違いないけど、自分の意思ではないとか?
以前、みんなで酒を飲んだことがあったけど、みんな酔ってる時のことはあまり覚えていなかった。ただ何となく、楽しかったという記憶があるだけで。
それと同じように、自分がやったということは何となく覚えているけど、どうしてそんなことをしたのかわからない、みたいなそんな感じかもしれない。
なんだかどこかで聞いたような話である。もしかしたら、この人プレイヤーか?
「では次、あなたはプレイヤーですか?」
「ぅ……?」
首を傾げた。プレイヤーという言葉がわかっていない?
確かに、プレイヤーというのはどちらかというとやっている人の方を指す言葉であって、自分のキャラである冒険者のことではないけど、大抵はこれで通じるはずである。
一応、冒険者かどうかも聞いてもらったが、そちらも首を傾げていた。
こうなってくると、俺達と同類ってわけではなさそうである。
でも、もしフェラトゥスが設定通りのキャラだとするなら、こうやって話なんてしないはずだ。明らかに、何かしらの手が入っている。
なんだか混乱してきた。こいつは一体何者なんだ。
俺は腕を組みながら、こいつの正体について思案していた。
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