第四百二十三話:穴の先にあるもの
「……ひとまず、私が下りて確認してくるの」
考えた結果、降りなければ始まらないということもあり、まずは自分が降りて確認して来ようという結論に至った。
下の状況がわかれば、みんなが安全かどうかの判断もできるだろうし、敵がいるかどうかの確認もできる。
最悪、【ハイジャンプ】があれば、みんなを抱えて脱出も可能だし、それを確認するためにも最初に降りるべきは俺だろう。
そう思ってみんなの方を見ると、みんな心配そうにこちらを見ていた。
「大丈夫ですか? かなり深そうですが……」
「多分何とかなるの。いざとなれば、【ハイジャンプ】で戻ってくるの」
「使えなかったらどうする気だ?」
「検証の時に軽くやった限りではできそうだったし、できなかったとしても【土魔法】があるから、最悪壁に穴開けて脱出するの」
「瘴気が濃いって話だけど、やばいのいたらどうするの?」
「その時は戻ってくるの。戻れなかったら、みんなを呼ぶの」
明らかにボスが出そうというか、シナリオで言うなら終盤の雰囲気を感じてみんな心配なようだ。
よくは見えないけど、この下の空間はかなり広いように感じる。どういう形状かまではわからないけど、これだけ広いならボスの一体くらい出ても不思議はない。
瘴気を出している原因がそのボスだと考えれば、辻褄も合いそうだし。
通常攻撃だけで何とかなるようなボスならいいが、そうでないなら結構苦戦するかもしれない。その時は、素直にみんなの力を頼ろう。
「じゃあ、行ってくるの」
「どうか気を付けて」
俺はもう一度穴の底を覗き込んだ後、ぴょんと飛んで穴の中へと入っていく。
周囲を暗闇が覆っていく。落下による浮遊感と、若干の不安を覚えながらしばらく落ちていくと、ようやく地面に足がついた。
体感的には一分以上は落ちていただろうか。ふと上を見上げてみると、落ちてきた穴がとても小さく見える。
よく無事だったなと思うけど、それに関しては兎獣人である。高いところから着地するくらいお手の物だ。
みんなが落ちてきたら若干ダメージ受けそうな気がしてきたけど、できればみんなを呼ばない方向で片が付いてほしいところだね。
「思ったよりも不気味な場所なの……」
【暗視】のおかげで多少見渡すことはできるが、思った通りかなり広い。
この場に立っている限りでは、奥が見通せないほどである。
【イーグルアイ】が使えればもしかしたら見えるかもしれないが、今はそれに頼ることはできないし。
とりあえず一歩を踏み出してみると、足場が不安定なのか、少し歩きにくかった。
「うわ……」
どうなっているのかと足元を見てみると、そこには骨の欠片が大量に散らばっていた。
何の骨かはわからない。けれど、それがいくつも積み重なって、まるでそれが地面であるかのようになっている。
まあ確かに、冷静に考えれば、あんな高いところから落ちてきたら即死だろうし、助けが来るはずもないからそのまま息絶えて白骨化っていうのはわかるけど、それにしては砕けすぎな気がする。
それに、周りを見てみても骨の地面は続いていて、落ちて来た死体だけで作られたとは到底思えなかった。
明らかに、ここにいる何かのために用意されたステージって感じがする。骨の地面なんて、凄いあからさまだし。
「ボスがいるのは間違いなさそうなの」
となると、上から見た時にちょっと見えたあの光る何かだろうか。
周りを見渡してみれば、奥の方にその光が見えるのがわかる。
この空間に入った時点でボスが現れていないということは、恐らく近づいたら動き出すパターンではないだろうか。
そうであるなら、近づかない限りは安全は確保されていそうだけど、それじゃあ降りてきた意味がない。
この洞窟に隠されている秘密を暴かなくては。そのためには、ボスと一戦交えることも覚悟しておかないといけないだろう。
果たしてスキルなしでどこまでやれるか。みんなを呼んだとして、それで勝てる相手だといいのだけど。
「とりあえず、確認するの」
ボスがなんであるのかを確認しなくてはならない。
まあ、このステージを考えるに、ある程度は予想ができる。
アンデッド系で言うなら、リッチとか、あるいはアジダハーカとか、そのあたりだろうか。
仮にそいつらだとしたらスキルなしは詰んでる気がするけど。
イベント瘴気なのだから、せめてスキルなしでも倒せるギミックがあると嬉しいのだが、果たしてどうなることやら。
「えっ、これは……」
そんなことを考えながら光っている方に近づいていくと、ようやくその正体があらわになる。
それは一羽の鳥だった。深紅の羽はまるで炎を灯しているかのように淡く輝き、その尾はクジャクのように長く美しく幾本も伸びている。
どうやら眠っているようだが、見上げるほどに巨大なその姿は、まさしく幻獣の一角、フェニックスだった。
「フェニックス、こんなところにいたの……」
俺は恐る恐る近づいてみる。
目を閉じているから、もしかしたら死んでいるのではないかとも思ったけど、どうやら眠っているだけのようで、ほっと一安心だ。
しかし、どうしてこんなところにフェニックスがいるのだろう。
そりゃ確かに、洞窟の入り口や穴の大きさはフェニックスの体長でも簡単に通り抜けることはできるだろうが、わざわざこんな瘴気の真っただ中を寝床にする理由はないだろう。
幻獣は瘴気にとても敏感だし、活動はできるだろうが、寝床にするにはかなり不適切な場所である。
ここにスポーンしたから、帰巣本能的なものでここに留まっているとか? あるいは、このフェニックス自身が瘴気の元凶とか。
試しに鑑定してみるが、フェニックスであるということはわかったが、追加の説明が少し妙だった。
その内容は、呪いにより目覚めない状態、というもの。
キャラシが見られないから、呪いにかかっているかどうかはわからないが、この説明を信じるなら、このフェニックスは何かしらの呪いにかかり、眠り続けているということになる。
フェニックスが呪いを受けているということに若干の違和感は残るが、ここにはそれができるだけの何かがいるということか。
「な、なに?」
そんなことを考えていると、ゴゴゴと地面が揺れ始めた。
それと同時に周囲の骨がフェニックスの下に集まり始め、その体を覆っていった。
とっさに飛びのいて様子を見る。しばらくしてそこに現れたのは、巨大な骨の人型。
一般的にスケルトンと言われる魔物ではあるが、それはスケルトンの中でも最上位格。魔法を操り、呪いを振りまくとされる不死の王。
リッチの姿がそこにはあった。
感想ありがとうございます。




