第四十三話:毒の治し方
ひとまず、エミリオ様には落ち着いてもらって、紙かなにかがないかを聞いてみる。筆談であれば話を盗み聞かれる心配もないからな。
聞き耳を立ててみる限り、扉の外にいる騎士二人以外にこの部屋の近くにいる人間はいない。
もしかしたら偵察としてどこかに潜んでいる奴がいるのではないかとも思ったが、そこまで厳重ではないようだった。
「それなら確か、向こうの引き出しの中に……」
フローラ様が立ち上がり、引き出しを漁ると一冊の本が出てきた。
どうやらこれは日記らしい。倒れて寝たきりになってからは書いていないようだったが、こうなる以前に部屋を訪れた時、ここにしまっているのを覚えていたようだ。
日記を勝手に見るのは少々気が引けるが、仕方がないことだと割り切ろう。出来るだけ中身は見ないように後ろのページから開き、開いているページに文字を書き込んでいくことにする。
追加でインク瓶も用意してもらい、ひとまず原因は毒だということを伝えた。もちろん、声に出さないようにと注意をしてから。
「なっ!?」
「まさか、そんな……」
まさか毒とは思っていなかったのか、二人の表情が驚愕に彩られる。
毒、それも恐らく神経毒の類だろう。一年もの間、毒に侵されながらも生きているということはそこまで強い毒ではないのかもしれない。
まあ、もしかしたら病死に見せかけるためにあえて弱めの毒を使っているのかもしれないが。
「本当なのか……?」
「間違いないの」
キャラシに書かれている以上、間違いない。
ただ、エミリオ様はキャラシの事なんて知らないわけでいまいち納得いっていない様子だった。
まあ、いきなり泡吹いてぶっ倒れたとかでもない限り、一目見ただけで毒だなんてわかるわけないよね。
説明しようにも、見た目の変化はあまりない。こういう特徴があるから毒だと言えるものは何もなく、何を持って毒だと判定したのかと聞かれたら答えようがない。
さて、どうしたものか……。
「鑑定スキル持ちということか。確かにそれならわかっても不思議はないか」
どう説明しようかと悩んでいたらなんだか勝手に納得してくれた。
鑑定スキル、そんなものがあるのか。
まあ、確かに『スターダストファンタジー』の中でも敵鑑定や物品鑑定と言った判定は存在するし、それらの判定のダイスを増やすスキルも存在するからあっても不思議はないか。
勘違いしてくれているようだし、そういうことにしておこう。俺はそれっぽく頷いておいた。
「それで、治せるのか?」
「んー……ちょっと難しそうなの」
さっきから毒を治すためのスキルである【キュア・ポイズン】をかけているのだが、一向に治る気配がない。
俺のスキルは大抵の状態異常を治すことが出来るが、中には例外もある。
シナリオの都合上治せないっていうのもあるし、特殊なスキルを持つ敵に掛けられた毒は治療できないという可能性もある。
よくわからないけど、今回の場合はあまりに摂取した毒が多すぎるため治癒しきれないとか、そんな理由があるのかもしれない。
「そうか……」
「お父様……」
悲痛そうな表情で項垂れるエミリオ様。
ようやく原因がわかったのに、それを治せないと聞けば落胆するのも当然の事だろう。
だけど、エミリオ様は一つ勘違いをしている。
「待つの。何も絶対に治せないとは言ってないの」
「そ、そうなのか?」
「でも、さっき難しいって……」
「治癒魔法だけだと難しいって意味なの。もう一つ、別の要素が加われば治すことは恐らく可能なの」
ゲームマスターとしてシナリオを作っていればわかることだが、この毒は絶対に治すことが出来ない、みたいな設定を出してしまうと冒険者はそれを受けた時点で死亡が確定してしまう。また、NPCしか受けないような毒であっても、よほど鬱展開が好きなゲームマスターでもなければ絶対に治せない毒というのは存在しない。
だから、大抵の場合はそれを治す手段が何かしら存在するのだ。
それは特別なアイテムだったり、貴重な薬だったり、神の加護だったり色々ある。
そんなもの簡単に手に入るのかと言われたら当然難しいだろうけど、場合によってはすぐ近くに解決策が眠っていたりするものだ。
この世界はどうにもゲームっぽい。だから、そういうお約束もあるのではないかと思う。
まあ、なくても奥の手はあるんだが。
「別の要素とは何だ?」
「一番簡単なのは、多分薬なの」
身近に手に入る手段として最もあり得るのは薬による治療だ。
もちろん、普通の薬ではない。エリクサーとかのゲーム内でも割と貴重な薬の事だ。
「薬だと? 今まで医者に何度か薬を飲ませてもらったことはあったが、それで症状が良くなったことはないぞ」
「それはそうなの。だって、ただの病気に効く薬を飲んだところで効果はないの」
「そっか。ど……それが原因なら、それを治す薬を飲ませれば!」
今まで病気と判断されてきたなら、飲ませてきた薬も当然それに準じたものになるはず。毒が原因なのだから、それが効くわけがない。
フローラ様の言う通り、解毒薬なら多少の効き目はあるだろう。だが、恐らくそれだけでは足りない。
「普通の薬だけじゃダメなの。エリクサーがあれば一番なの」
「え、エリクサーだと!? どんな怪我でも病でも瞬く間に治すというあの伝説の薬か!」
この世界にエリクサーが存在するかどうかは賭けだったが、どうやらあるらしい。
ただ、それはもはや伝説に出てくるだけのものであり、現実には存在しないものとされているらしい。
だけど、伝説でも存在しているというのなら作ることは可能だ。材料さえ集めればね。
「エリクサーの作り方は知ってるの。後は材料があればいいんだけど」
「馬鹿な。エリクサーを再現することなど不可能だ。そんなことが出来るならとっくに誰かがやっている」
「実際にやってた人はいたの?」
「え、ええ。エリクサーは世界各地で研究されていて、どうにか再現しようとしていた人はたくさんいるわ。まあ、結果はどれも芳しくなかったけれど」
まあ、材料はかなり貴重なものだから作るのは難しいだろう。それにただ材料を集めただけでは作るのは無理がある。少なくとも、『賢者の石』と呼ばれる触媒が必要だ。
プレイヤーであればそうでもないが、普通に作ろうとすれば、賢者の石を作るのにも貴重な材料を使う上、特殊な手順を踏まなければできないため作れる人は少ないだろう。
「私ならできるの。信じて欲しいの」
「流石に信じられるか! 治癒術師だということは信じるが、エリクサーを再現できるのだとしたらそんな機密を俺達に話すわけがない。ホラ吹きもいい加減にしないと今度こそ叩き出すぞ!」
うーん、まあ、そんなすぐには信じてもらえないか。
自信満々にできると言っているが、もしかしたらこの世界では材料が揃わない可能性もあるし、これをやるためにはいくつかのスキルを新たに取らないといけないから経験値も欲しい。……いや、経験値はあるか。使ってないんだし。
一時は俺の事を信用してくれたのかと思ったが、流石にここまで突拍子もない話だとその信用も揺らぐというもの。
さて、どうするべきか。
「なら、実際に作って見せるの。仮に作れなかったとしても、王様は絶対に助けるの」
「……本当だろうな? 本当に陛下を、父上を助けられるんだろうな」
「神に誓ってもいいの。絶対に助けてみせるの」
「……いいだろう、その覚悟信じてやる。ただし、もし父上が死ぬようなことがあれば、俺はお前を処刑する。いいな?」
「はいなの」
処刑は怖いが、いざとなれば助けられることは確定している。恐れることは何もない。
まあ、材料を集めている間に暗殺されたらたまったものではないけど、そこらへんは少し考えがある。毒による衰弱に関しては【キュア・ポイズン】のおかげか少なからず軽減されているようだし、後数か月は問題ないはずだ。
俺はひとまず、エリクサーの材料を改めて思い出すことにした。
感想ありがとうございます。




