第四百二十一話:場違いなもの
翌日。色々検証してみた結果、パッシブスキルは問題なく使えるということがわかった。
パッシブスキルというのは、常時発動しているタイプのスキルのことで、発動に宣言が要らないものである。
いつも使っている【アローレイン】とかはアクティブスキルと言って、使用を宣言して使うものなので、スキル封印下では使えないということらしい。
わかりやすく言うなら、スキル封印が封じているのは、スキルの使用宣言であって、スキル自体ではないってことだね。
まあ、その理屈で言うと、使おうと思って使った【土魔法】が無効化されなかったのがよくわからないけど、もしかしたらこの世界特有のスキルはみんなパッシブスキル扱いってことなのかな?
このスキルを使うことによってその行動ができる、じゃなくて、この行動ができるから、このスキルを持っているっていう状態なんだと思う。
要は、この世界のスキルはその技術をどれだけ身に着けているかの指標であって、そのスキルを使って何かするっていうわけではないから大丈夫ってことなんじゃないかな。
そうなってくると、この山はプレイヤーキラーだね。
もちろん、魔物も出てくるからそれだけで解決はできないけど、この世界の人々はスキル封印の影響をほとんど受けないってことだから、攻略はしやすいだろう。
グレイスさんとかシュライグ君連れてきたら心強かったかもしれない。
「そうなってくると、耐性系のスキルや能力上昇系のスキルは問題なく使えると」
「そう言うことになるの。残念ながら、攻撃スキルは全滅だけど」
「そうだな。アリスの【土魔法】が使えるだけましじゃないか?」
「多分使わないとは思うの」
【土魔法】を使うとしたら、野営の時に風避けとかを作る時くらいだろう。
攻撃にも使えないことはないと思うが、多分スキルがなくても普通に弓で戦った方がダメージは高くなると思う。
一応、みんなをレベルアップさせて魔法系のスキルを習得させることはできるだろうが、そんなことしなくても攻撃面は十分強いのだ。
スキルなしでも、大抵の敵は一撃だしね。
「それなら、フェニックスも大丈夫?」
「ああ、多分大丈夫だと思うの。【転生の炎】はパッシブスキルなの」
あれはフェニックスが死亡した時に自動的に発動するスキルだし、スキル封印の影響は受けないだろう。
最低限、フェニックスの命の保証はされたようで何よりである。
「問題はどこにいるかだが」
「この辺りでは見かけませんでしたね」
「早いところ出てきてくれると助かるんだがねぇ」
今のところ、瘴気が濃い以外に情報は何もない。
隕石も見つからないし、フェニックスの影すら見えない状況だ。
まあ、いずれもあるかどうか曖昧なものばかりだけど、このまま何もないってことはあるだろうか。
俺の予想では、仮にそれらが見つからなくても、この山に関する何かを見つけられる気がすると思っているのだけど。
「まあ、今は進むしかないの。張り切っていくの」
「はいよ」
幸い、一晩明けて天気はそれなりに回復してきている。今のうちに距離を稼いでおいた方がいいだろう。
そう思いながら、再び山道を進むことにした。
山なんてせいぜい中学校の時に林間学校で登ったくらいだけど、あれと比べるのはおこがましいんだろうな。
あちらはきちんと登山道も整備されていて、荷物など持たない軽装であっても登り切れるし、登り切れなくても途中で引き返すことくらいはできるだろう。
それに対し、こちらは道などないし、しっかりと防寒着を着ていなければ寒さに凍えることになる。容易に撤退は許されず、少し気を抜けば山の厳しさに飲み込まれてしまうことだろう。
もちろん、俺達はプレイヤーとしての力があるから、普通の人間と比べることが間違っているんだろうが、それでも天と地ほどの差があると言わざるを得ない。
夏だというのに辺りはすでに雪に覆われ始め、空も曇ってちらちらと雪が降り始めている。
まだ、防寒着で何とかなるレベルではあるが、これ以上進んだらどうなるかわからない。
こんなことなら、登山についてもう少し調べておくべきだったかな。
「ちょっと魔物が多くなってきましたか?」
「そうだな。主にスケルトン系統が大量だ」
「やっぱり、言い伝えの通りなのかな?」
ただの登山ならまだしも、それに加えて魔物の処理もしなくちゃいけないのが難易度をさらに上げている。
襲ってくるのはスケルトンばかりで、普通の魔物はあまり見かけない。
幸い、そんな強くはないので、スキルを封じられた状態でもそこまで苦戦はしないが、昼夜問わず襲ってくるから面倒くさい。
ただでさえ寝にくい環境なんだからゆっくり寝かせてほしいものだ。
「何かを守っているようにも感じます。一度撤退した時は追ってきませんでしたし」
「守ってるって、何をだ?」
「さあ、そこまでは。しかし、こうしてスキル封印を付与する瘴気が覆っているのですから、何かあってもおかしくはないでしょう」
「まあな。それがこっちにとっていいものであると嬉しいんだが」
あるとしたら何だろうか。
判断材料は、瘴気が覆っているという点と、スケルトンが多いという点くらいか。
普通に考えれば、アンデッド系の何かと見るのが普通な気がする。お宝図鑑にそれっぽいのあったっけなぁ。
神様が住まう場所という言い伝えもあるみたいだし、そっち関係であるという可能性もある。
まあ、その辺は見つけてみなければわからないか。
「あと半分ないくらいか? 頑張って登っていくか」
「張り切っていこう」
気合を入れ直し、先に進んでいく。
雪に覆われた地帯。時たま足を取られることもあるが、この程度であれば特に問題はない。
途中、ぱっくりと開いたクレバスに遭遇したり、断崖絶壁に遭遇して少し立ち往生したりしながら、ひとまず山頂を目指して進んでいく。
そうして進んでいくこと約一日。次の日になって、ようやく進展が見えた。
「なんだ、こりゃ?」
このあたり一帯は雪で覆われている。黒かった地面は白で覆いつくされており、もはやその面影を感じることすらできない。
ただ、地面は覆いつくせても、高い崖のようになっている場所をすべて覆いつくすには至らなかったようで、その地層があちらこちらに見え隠れしていた。
いや、地層といった自然なものではないだろう。なぜなら、それは固く無機質な銀色をしていたのだから。
「機械……? いや、どちらかというと、船か?」
「戦艦って奴なの?」
まさにそう呼ぶにふさわしいものだった。
大半は雪に覆われていて全体像ははっきりしないが、その形はいわゆる戦艦の形をしていると思う。
この世界は、船を作る技術はあるが、そのほとんどはまだ木造船だし、最新鋭の船にしてもまだ小さいものばかりだ。
見える限りでも、ざっと三十メートルはありそうなこんな船は作れないだろう。それにここ山だし、こんな場所で船を作るメリットもない。
どうしてそんなものがあるのか。当然ながら、『スターダストファンタジー』にこんな設定はなかったと思う。
俺達のように、別世界から漂着した? それとも、この世界に存在する宇宙から来たどこかの星の生命体?
いずれにしても、この世界の人達にとっては手に余る存在だとわかるだろう。
俺達はしばらくの間、この世界には場違いな船を見つめていた。
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