第四百二十話:スキル封印の影響
スキルが使えないことで心配なのが、先に入ったであろうフェニックスのことである。
もちろん、攻撃手段が限定されることとか、回復ができないこととか色々あるけど、今探しているフェニックスは、スキルを封じられるとかなり厳しい状況にあるはずだ。
なにせ、死んでも蘇るのは【転生の炎】というスキルであって、それが封じられている状態となると復活できないということなのだから。
フェニックスのレベルはわからないけど、仮にシュエの初期レベルと同じと考えるとレベル5。それに加えて、幻獣としての力もあると考えると、その辺の雑魚にはやられないとは思う。
ただ、ここはほとんど人の立ち入らない秘境の地だし、それに比例して魔物も強くなっている可能性は十分にある。
フェニックスの強さは、何度でも生き返れるという蘇生スキルと、回復スキルを兼ねた炎攻撃にある。それらが封じられてしまうと、できることなんてせいぜい空を飛ぶくらいじゃないだろうか?
いや、ワンチャン空も飛べない可能性もある。空を飛ぶのは、【飛行能力】というスキルの影響だからね。すべてのスキルが使えないなら、それも使えない可能性もある。
これは、思った以上に急を要する状況なのかもしれない。
「なんだかだんだん天候が悪くなってきましたね」
「山の天気は変わりやすいとは言うが、こんな状況でさらに天候の心配もしなきゃいけないとか面倒だな」
すでに辺りに木々はなく、雨風を凌げそうな場所はない。
これがただの登山だったら、どこかしらに山小屋の一つでもあるかもしれないが、今回はそんなの望むだけ無駄だろう。
着替えはあるけど、こんなところで着替えたくないなぁ。
「上の方見てみてよ。雪が積もってるよ?」
「今夏だよな? 上の方はどんだけ寒いんだ」
遥か先に見える頂は白く、今いる場所の黒い地面と対を成しているようだ。
あそこまで登るのに一体どれだけ時間かかるんだろう。
いくら俺達が常人よりもよっぽど速く走れるとは言っても、流石に山道をそんなスピードで走ることはできない。
【ライフサーチ】が使えない今、魔物の奇襲もあるかもしれないし、不意に裂け目が出てくるかもしれない。そう考えると、多少慎重にならざるを得ないよね。
せめて数日間帰れないということをナボリスさんに伝えてからの方がよかっただろうか。
一応、ナボリスさんには、不意に何日も帰ってこられない場合もあるとは言っているけど、それは最終手段だし。
登り始めるのが早すぎたかもしれない。今更言っても仕方ないけど。
「別にあそこまで行く必要はないの。目的はあくまで隕石とフェニックスなの」
「そりゃそうだが、うまいこと見つかるかねぇ」
「見つけるの。なんとしても」
最悪、隕石もフェニックスも見つからなかったとしても、この山の秘密くらいは暴いていきたい。
【状態異常無効】を貫通するようなイベント瘴気が充満しているんだから、絶対に何かあるはず。
「結構登ってきたね」
「ええ。それと同時に日も暮れてきましたが」
正確な標高はわからないが、まあ2、3000メートルくらい登ってきたのかな?
天候は相変わらず悪く、辺りには強風が吹きつけている。雨が降らないだけましだけど、この状況下で野宿するのはちょっと大変そうだ。
でも、そうも言ってられないのでやるしかない。俺は【収納】からテントを取り出し、設営を開始する。
【収納】がスキルでなくて本当によかった。もしこれまで縛られていたら、流石に攻略不可能だったかもしれない。
「野宿も久しぶりだな」
「ですね。まあ、本来これが普通なんですが」
カイン達も、てきぱきと焚火を用意し、食事の準備をしていく。
慣れているように見えるけど、こうしてしっかりと野宿したことってあんまりないんだよね。
いつもは夜になるとポータルで城に帰っていたし、ついでに次の日の朝食は城で取っていた。
だから、旅の途中でも美味しいものが食べられたし、暖かな寝床で寝ることができていた。
そう考えるとなんて贅沢な旅をしていたんだろうと思うけど、まあ理にはかなっていたよね。
わざわざ悪い寝床で寝て次の日に疲れを残す必要はないし、魔物を警戒して寝不足になる必要もない。使えるものはどんどん使うべきだっただろうし、これに文句はない。
それに慣れ過ぎて普通の野宿を忘れないならそれで。
「石はたくさんあるが、薪が全然ないな。こりゃ手持ちのを消費するしかなさそうだ」
「あんまり長居はできないかもね」
「今日のように風が強いだけならいいですが、雨や雪に降られたら焚火もままなりませんし、せめて屋根のある場所が欲しいところですよね」
本来薪なんて持ち込まないが、みんな筋力がめちゃくちゃ上昇しているせいか、【収納】の容量もめちゃくちゃ広くなっている。だから、とりあえず放り込んでおけの精神で色々放り込んでいるので、かき集めれば薪くらい作れるわけだ。
まあ、逆に言えばちゃんとした薪を持っているわけではないので、せいぜい持って一週間ってところだろう。それまでに、調査を終わらせて、この山から脱出しなければならないというわけだ。
「洞窟でもあればいいんだけどな。めちゃくちゃ火つけにくかったし」
「体で風避けするとは言っても、限度がありますからね」
「ねぇ、アリス。【土魔法】とかで壁作れたりしない?」
「スキル封印されてるなら無理なの」
できたらここら辺に壁立てて、簡易的な小屋を作ってるだろう。
しかし、【土魔法】だってスキルなわけだし、スキル封印の影響下では使えない。
ここ、この世界の冒険者とかが挑んだら速攻で死ぬんじゃないか? 【剣術】とかが使えないってなったらどうなるんだろう。剣の使い方を忘れるとか? この世界のスキルは、言うなればどれだけそのスキルを極めたかっていう指標なわけだし。
いやでも、忘れるっていうのは考えにくいよな。思ったように体が動かなくなるとか? よくわからない。
「何かの間違いでできたりしない?」
「できないと思うけど、まあやるだけやってみるの」
サクラの願いを受けて、とりあえずダメ元でやってみる。
焚火を中心に、周囲を壁で囲むようにして……あれ?
「できちゃったの……」
できないだろうと思っていたら、予想に反して地面がせりあがり、簡易的な壁を作り出してくれた。
スキル封印されてたんじゃなかったの?
「うーん?」
一応、キャラシも確認してみるが、きちんとスキル封印の状態異常はついたままだった。
もしかして、スキル封印の中でも、封印されるスキルとされないスキルがあったりする?
「アリス、スキル封印解けたの?」
「いや、ちゃんとついてるの。多分、使えるスキルと使えないスキルがあると思うの」
「なるほどね。全部使えないわけじゃないんだ」
少しでも使えるスキルがあるとわかったのは僥倖である。
特に、【土魔法】は土さえあれば色々と応用が利くから割と便利なスキルだ。
少なくとも、野宿する際に風避けや屋根を作り出すことくらいはできるだろう。それだけでも、使えてよかったと思える。
「ちょっと検証した方が良さそうなの」
とにかく、今後山を登ることに置いて、どのスキルが使えて、どのスキルが使えないのかを把握しておく必要があるだろう。
俺達は、簡易的な食事をとった後、スキルの試行錯誤を重ねた。
感想、誤字報告ありがとうございます。




