第四百十九話:霊峰を覆う瘴気
翌日。準備を整えて、俺達は霊峰の麓へとやってきていた。
町の人達に止められると面倒なので、姿を消してこっそりと移動してきたので、町の人達には気づかれていないはずである。
宿にも泊まっていなかったし、昨日のうちに出発したとでも思われていることだろう。
さて、霊峰だが、流石に麓付近ではそこまで脅威は感じない。
森が広がっているが、【ライフサーチ】で見る限り、少し魔物の反応があるくらいでそこまで数はいないようだ。
「なんか、ちょっと不気味な場所だな……」
「何か感じるんですか?」
「ああ。なんだろうな、瘴気? とでも言えばいいのか? それがうっすらとかかってる気がする」
シリウスは少し警戒したようにそう呟く。
確かに、森自体はいたって普通の森ではあるが、そこにはなぜか、瘴気のようなものが覆っている。
奥に進む度に強くなっているようだから、恐らく霊峰自体が瘴気に包まれているのだろう。
確かに、スケルトン系の魔物がいるなら納得ではあるが、本当に神様なんているのか?
瘴気なんて、神様の神気で吹き飛ばされそうなものだけど。
まあ、本当に神様がいるかどうかもわからないし、行って見ないことにはわからないけども。
「しばらくは大丈夫だと思うけど、慎重に進むの。呪いになるほどではないと思うけど、体調不良を感じたらすぐに言うの」
「わかりました」
「はーい」
そう言って、森に足を踏み入れる。
瘴気の設定って、色々ありすぎてよくわからないんだよな。
例えば、アンデッド系の魔物が多く存在する場所に発生するとか言う設定があるけど、かと思ったら瘴気内にいると魔物が強化されたり、稀に呪い状態になったりすると言った設定がある。
アンデッド系から発生するのだとしたら、アンデッドが強化されるのはわかるけど、他の魔物まで強くなるのはどういうことなんだろうか。
呪いにかかるのは実にアンデッドらしいけど、そこらへんはよくわからない。
まあ、瘴気って便利な言葉だし、色々設定を付け加え過ぎた結果なんだろうな。どこまでが適用されているのかはわからないが、とりあえず全部適用されてると考えて進んでいこう。
「だんだん木々がなくなってきましたか?」
しばらく進んでいくと、木々が減り、黒い地面がむき出しになった場所が多くなってきた。
瘴気もだんだん濃くなってきて、ちょっと空気が重くなってきたように感じる。
今のところ全然苦でも何でもないけど、そろそろ本番だろうか?
「とりあえず【ライフサーチ】……あれ?」
「どうかしたか?」
「いや、【ライフサーチ】が発動しないの」
【ライフサーチ】は周囲に生命反応があるかどうかを調べるスキルである。
だから、周囲に何も生命が存在しなければ、反応はないし、その場合は発動していないようにも見えるかもしれないけど、今この場にはカイン達もいる。
当然みんなは生命体なので、【ライフサーチ】に引っかかるはずだし、実際今までもちゃんと反応していた。
それが、いきなり反応しなくなった。いや、正確には反応しづらくなっただけで、何度か使えばわかるんだけど、非常に感じ取りにくい。
まるでジャミングでもされているかのようだ。
「うーん? もしかして、スキルが封じられてますか?」
「どういうことなの?」
「私も試しにスキルを発動させようとして見ましたが、どうにも安定しないのです」
スキル封印? 俺は試しに他のスキルも試してみる。すると、カインの言う通り、確かに発動しづらくなっていた。
【ワープポータル】すら発動しない。これじゃ帰れないんだが?
「スキル封じられたら俺は役立たずなんだが」
「みんなそうだと思うよ。ほとんどをスキルに頼ってるわけだし」
確かに、スキルが全部使えないとなると、攻撃スキルはもちろん、回復スキルも補助スキルも何一つ使えないことになる。
そうなってくると、単純な攻撃くらいしか攻撃はできないし、回復はアイテム頼りにする他なくなる。
特に、バフや回復を担当するシリウスはかなりの痛手だろう。自分の役割を封じられてしまったわけだし。
「んー、確かにスキル封印状態になってるっぽいの」
キャラシを確認してみたが、確かにそう表示されていた。
もしかしたら、この瘴気のせいか? ただの瘴気にそんな設定はないはずだが、ゲームマスターの都合でいくらでも改変できるわけだし。
ユニークスキルを持った魔物でもいるか、あるいはそう言う縛りのあるステージなのか、どちらにしろ、かなりやばい状態異常と言えるだろう。
回復スキルも使えないから、スキルでこの状態を解除することもできないし、割と劣勢に立たされていると思う。
「キャラシは見れるんですね」
「ああ、そういえば。私の能力は無効化されないの?」
「何それずるい」
さらっと見ていたが、確かにキャラシが見れるとなると、ゲームマスターとしての能力は無効化されないのかもしれない。
最低限、鑑定くらいはできるってことか。まあ、だからどうしたって話ではあるけど。
一応、レベルアップもできるからいざと言う時は役に立つかもしれないけど、どうしようかな。
「どうしますか? 一度引き返して対策を練るというのも手ですが」
「うーん、流石にスキル封印は面倒くさすぎるの」
これが例えば、攻撃スキルしか使えないっていう状態なら、回復スキルで何とでもなるし、回復スキルが使えないってなっても、回復縛りが発生するだけで攻撃には困らない。
全部無効っていうのがやばいだけで、スキル封印自体はそこまで脅威ではないはずである。
スキル封印対策をすれば何とかなるか?
「でも、アリスも使えないってことは、【状態異常無効】も貫通してるってことだよね?」
「あ、確かに」
「それやばくないか?」
スキル封印状態は状態異常の一つである。だから、本来なら【状態異常無効】を持つ俺はスキル封印の影響を受けないはずだ。
それなのに、無効化されているということは、これはただのスキル封印ではなく、イベント系のものである可能性がある。
このエリアでは必ずスキルが使えなくなるっていうものだとしたら、対策しても意味がないかもしれない。
となると、このまま攻略しないといけないのか……。
「案外やばい場所なのかもしれませんね」
「まあ、みんな行くなとは言ってたが」
ただ単に、標高が高い山に挑むのは自殺行為だから、それを止めるための言い伝えかと思いきや、実際にやばいギミックがありそうな場所である。
一応、スキルが封印されても能力値が下がるわけじゃないし、攻撃もできないことはないけど、果たしてどうなるか。
諦めるというのも手だが、こんなギミックがあるってことは、何かしらある可能性は高い。
それがスターコアでないとしても、俺達にとって有用な何かである可能性は高いだろう。
それにフェニックスの件もあるし、何か手掛かりを掴むまでは帰れない。
不安ではあるが、ここは進むのがいいだろう。いざと言う時は、俺がみんなを抱えて逃げる方向で行こう。
そんなことを考えながら、進む意思をみんなに伝えた。
感想ありがとうございます。




