第四百十八話:霊峰の言い伝え
昼食を食べ終え、色々と街の人達に聞いてみた。
話をまとめると、霊峰は神様の住まう場所であり、人が立ち入ることは不敬なことだとされているということ。もし足を踏み入れようものなら、神様の怒りに触れ、その身を焼き尽くされ、骸骨の体となってさまようことになるだろう、ということらしかった。
まあ、入った時の注意と言うよりは、入るなと言う忠告かな。この町にも言い伝えのようなものがあるらしく、それをみんな信じている感じである。
確かに、高い山は人が立ち入れない領域で、すなわち神様の領域と言われることもあるけど、本当に神様がいるこの世界だとそれが想像によるものなのか、それとも本当に神様がいるのかの判断がつかない。
もし仮に、本当に神様がいるのだとしたら、ぜひ会ってみたいところである。
俺達がスターコアを探しているのは、説明文に集めろと書いてあったというのもあるが、スターコアを通じて神様と会話したいからだ。
神様はかなり大雑把ではあるけど道を示してくれるし、有用な情報もくれる。それに、魔王を倒すことを一番望んでいるのは神様だし、それはすなわち俺達の味方と言うことでもある。
今のところ、仲間がうまい具合に見つかっていたのは神様の導きあってこそだ。来る魔王との対決に備えて、戦力を揃えておくのは重要なことだし、そのためにも、神様には仲間の居場所を教えてもらわなくてはならない。
だから、スターコアを介さず、直接話ができるのならそれに越したことはないというわけだ。
これは、入る理由が一つ増えたね。
「みんな入るなって言ってますけど、どうします?」
「入る一択なの。神様に会えるかもしれないし、そんな言い伝えが広まっているなら人が立ち入っていないのは確定なの」
「まあ、確かにな。焼き尽くされて骸骨になるっていうのが少し気になるが」
「何かの比喩? それとも、本当に骸骨にされちゃう?」
「確かに骸骨、と言うかスケルトンは魔物としているけど」
そのあたりはどうかわからない。一応、スケルトンは上位種でもない限りは雑魚に当たる魔物である。
まあ、雑魚の中では強い方で、射撃攻撃に対する回避が上昇する、なんていう固有スキルを持っているから、弓使いである俺にとってはちょっと面倒な相手ではあるけど。
スケルトンアーチャーとかスケルトンソルジャーとか、上位種も同じスキルを持ってるので、そいつらが居たらちょっと面倒くさいかもしれない。
いやまあ、当てられないことはないから、何とかなるとは思うけど。
「骸骨化、なんて状態異常は聞いたことありませんが」
「言い伝え的に、殺された後もスケルトンとして永遠に働かされるって意味なんじゃないか?」
「まあ、それなら確かにありそうなの」
そうなってくると、あの霊峰にはスケルトン系の魔物が多く生息しているのだろうか。
それらが元々は人で、嫌々襲い掛かってくるとかだとちょっと倒しにくいけど。
意識とかどうなってるのかな。人の時と同じ? それとも、意思のようなものはないのかな? ないなら後腐れなくていいんだけど。
「まあ、情報としてはそんなものか。仲間に関しては?」
「特にそれらしい情報はありませんでしたね」
「まあ、そんなもんか」
仲間に関しての情報はやはりなかった。
活躍しているなら有名人として噂されていてもおかしくはないけど、聞くのはクズハさんの噂くらいで他はあまり聞かない。
表立って活動はしていないのかな? それとも、クズハさんの噂が大きすぎて他が入ってこないのか。
どちらにしろ、この町では有用な情報は手に入らなそうである。
「あ、でも、私はそれっぽいの聞いたよ」
「どんなの?」
「えっと、この町の町長の娘さんが病気だったらしいんだけど、だめ元で探させていたフェニックスの羽が見つかって、無事に治ったっていう話」
「……? それのどこが仲間の情報なの?」
「ほら、アリス言ってたじゃない。シュエの仲間が幻獣だって話」
「ああ!」
確かに、言われてみればそんな話を聞いた気がする。
フェニックスの羽は、文字通りフェニックスから取れる羽である。
かなりレア度の高い蘇生アイテムで、【リザレクション】と似たような効果があるので割と重宝する。
ただ、入手機会がかなり少なく、フェニックスを倒してようやく一枚入手できるかどうかなので、もったいなくてあんまり使えないが。
そんなフェニックスの羽が見つかったという話。もしかしたら、シュエの友達であるフェニックスである可能性もなくはないか。
「そのフェニックスの羽、どこで見つけたの?」
「そこまでは聞けなかったけど、でも、最近霊峰に向かって飛んでいく赤い鳥を見たっていう話もあったし、もしかしたら霊峰にいるのかも?」
「なるほど」
本来なら、フェニックスの羽はフェニックスを倒さなくては手に入らないけど、リアルとなった今なら、抜け毛とかで取れたものでも効果を発揮する可能性はある。
それが霊峰に向かって飛んでいったなら、町の近くに落ちていたとしても不思議はない。
まあ、あってもかなり低い確率だとは思うが、よく治ったものだ。
でも、おかげで霊峰には仲間かもしれないフェニックスがいる可能性が高まった。これはますます行くしかないだろうな。
「となると、目的は霊峰で隕石の捜索、そして仲間と思われるフェニックスの捜索ってところですか」
「そのフェニックスは霊峰に入って大丈夫なのか?」
「さあ、幻獣がそう簡単に死ぬとは思えないの。それに、フェニックスは不死鳥なの、死んだとしてもすぐに生き返るの」
その点だけは安心材料と言える。まあ、正確には【転生の炎】と言うスキルを使って生き返るから、そのスキルを封じられたりすると生き返れないけど、そんなスキル封じがたくさんいるとは思えないし。
フェニックスが何の目的で霊峰に立ち寄ったのかはわからないけど、もしいるならぜひとも仲間にしたいところだ。
「ひとまず、今日のところは準備を整えて、明日出発することにするの」
「了解です」
「異議なし」
「じゃあ、いったん帰るの」
すでに夕方だったこともあり、今日は一度城へと帰る。
準備と言っても、そこまで用意するものはない気もする。
いつもの野営道具や食糧なんかは【収納】に入っているし、その気になればポータルですぐに取りに帰ることもできる。
もちろん、だからと言って準備を怠る気はないけれど、まあ軽く点検するだけで十分だろう。
みんなもそれがわかっているのか、いつもより少し早めに帰ってきたこともあって、しばらく俺の部屋で談話を楽しみ、そしてそれぞれの部屋へと帰っていった。
霊峰の探索、一体どうなるだろうか。
ナボリスさんに報告を済ませ、明日のことを考えながら、その日は眠りについた。
感想ありがとうございます。




