第四百十七話:秘境を目指して
旅の準備を整え、ポータルを通して隣の大陸へと赴く。
いや、ポータルって便利だね。船で数ヶ月かかる道のりも、ポータルを通れば一瞬なのだから。
これがあれば貿易なんかもめちゃくちゃ簡単にできそう。【収納】があればたくさんの荷物を持つこともできるし、途中で魔物に襲われて積み荷を放棄するなんてことにもならないし。
それほど財政がひっ迫しているわけでもないけど、いざとなったらやってみようかな。いや、流石に目を付けられるだろうし、やめた方がいいか。やるとしても念入りに隠蔽してって感じになりそうだ。
「さて、港町まで来たわけですが、ここからどこへ行くんです?」
「秘境を目指す、って形にはなると思うけど、ひとまず拠点にする町に向かおうと思うの」
一応、この大陸について少し調べてきたが、面積的には俺達がいた大陸とそんなに大差ない。若干小さいくらいか。
で、そのうち人が暮らしているのがおおよそ四割。つまり、残りの六割は森だったり山だったり、とにかく人の手が及んでいない場所である。
俺が知っているこの大陸の町の分布を考えると、だいぶ狭まったんだなと思う。『スターダストファンタジー』の地図で見るなら、未開拓地域なんてほんの一握りだったのに。
三千年と言う時の流れは残酷らしい。まあ、こうして一部だけでも復興できているだけましかもしれないが。
「どんな町?」
「ラクシャ王国っていう、この町が属する国の隣にある王国なの。近くにとんでもなく高い山があって、霊峰と呼ばれているらしいの」
「へぇ」
今回調べる秘境はその霊峰である。
隣の大陸と言うこともあって、詳しいことはよくわからなかったが、この大陸随一の標高を誇るらしい。隕石があるかはわからないが、まあ探す意味はあるだろう。
「じゃあ、まずはその町に移動するか」
「おー」
馬車を用意し、目的の町に向かって出発する。
街道もしっかり整備されているので、そこまで道に迷うこともない。
未開拓地域が多いとは言っても、最低限の街道くらいは切り開かれている。
近くに森があるパターンが多いので、魔物に遭遇したり、盗賊が襲い掛かってきたりなんてパターンもあるようだが、まあ襲ってきたところでって話だよね。
念のため【ライフサーチ】は行っておくけど、そこまで気張らなくても十分な気がする。
「その霊峰って、有名なのか?」
「さあ? 大陸で一番高い山ってくらいしか聞いてないの」
「この大陸で一番高い山と言うと、霊峰スタルのことでしょうか」
「ああ、そう言えばそんなのあったの」
霊峰スタルは、『スターダストファンタジー』における名称である。
大陸を南北で分断している大きな山脈で、迂闊に入った者は二度と帰ってこられないなんて言い伝えもあったような。
ラクシャ王国がある場所にあった国は、そこまで大きな国ではないのだけど、この山脈と隣接しているおかげで守りやすく、そのおかげで存続しているなんて考察を見たことがある気がする。
まあ、マスカニア大陸じゃあるまいし、そんなポンポン戦争はしない気もするけど。
「二度と帰ってこられないって、大丈夫なの?」
「どうだろう。理由は特に語られてなかったけど」
単純に、高い高度の山は人が生活できる領域じゃないから、高山病とかにかかってしまって帰れない、とも考えられるけど、ステータス化け物の冒険者すら帰ってこられないと考えるとちょっと違う気もする。
この世界の言い伝えだったら、俺達なら何とかなりそうだけど、これは『スターダストファンタジー』の設定だからな。つまり、プレイヤーである俺達ですら、迂闊に入ったら帰ってこられない可能性があるということでもある。
何かとてつもない化け物でも眠っているのか、それとも即死トラップでもあるのか、そう考えるとちょっと怖くなってきたな。
「まあ、ゲーム的に考えたら、難易度が高いってことなんだろうが」
「安全を取るなら、別の場所を探すというのも手ですが」
「うーん、でも、そんな場所なら誰も入ってない気がするの」
そんな厳しい場所なら、誰も入ったりしないだろう。この世界でもこの言い伝えがあるかは知らないが、もしあるなら、それこそ誰も入らないだろうし。
誰も入っていない場所で、しかも山脈と言う巨大な空間があれば、隕石が落ちている可能性もなくはない。むしろ、秘境の中では可能性が高い方だろう。
確かに妙な仕掛けがあって、それで帰ってこられないっていう可能性を考えるとちょっと怖いけど、今のレベルなら大抵のことは何とか出来るはずである。
即死耐性も取っているし、何もできずに死亡、なんてことにはならないはずだ。
いざとなればポータルですぐに戻ってくることもできるし、そこまで警戒しなくても大丈夫だろう。
「まあ、ここまで来たのですから、行くしかないでしょう。それに、そんな危険な場所に行くなんて、凄く冒険者らしくありませんか?」
「それはまあ……」
「そう考えるとちょっと面白そうだな」
危険な場所に飛び込んで、お宝を持って帰る。冒険者と言うよりはトレジャーハンターって感じもするけど、まあ似たような感じだろう。
冒険者らしく冒険することも楽しまなくちゃね。
「でも、冒険もいいけど、仲間探しも忘れるなよ?」
「わかってるの」
この大陸にどれほどの仲間がいるかはわからないが、いないってことはないだろう。
クズハさんが聖女候補として祭り上げられていたのだから、その陰に隠れて活動していた人もいそうである。
できれば、今から行く町にいてくれたら一番楽なのだが、流石にそれはないか。
そんな淡い期待を抱きながら、しばらく馬車に揺られていた。
それから約二週間。俺達は目的の町へと辿り着いた。
見た限り、ホビットの割合が多いだろうか。人間は結構いるけど、それ以外の種族はあまり見かけない気がする。
ここならそんなに浮かなそうだなと思いながらも、とりあえず昼食を取ろうと適当な食堂に入り、注文をした。
「さて、これから霊峰スタルに挑むわけだが、作戦は何かあるのか?」
「ないの」
「おい」
「仕方ないの。情報が全然ないの」
まあ、高い山ってことは寒いだろうし、夏とはいえ防寒着くらいは必要かもしれないが、それくらいはすでに用意している。
出てくる魔物の種類とか、気を付けるべきポイントとか、その辺は情報収集して集めるしかないだろう。
と言っても、あまり人が入っていないならその情報も本当に信用できるかわからないが。
「まあ、未踏の地なんだし仕方ないか」
「そうそう」
「んじゃま、まずは町の人に色々聞いて、それから考えるべきか」
一応、山の麓に足を踏み入れたって人くらいはいるだろう。そこからある程度の情報を得て、後は想像するしかないかな。
さて、一体どんな場所なんだろうか。できることなら、入る意味のある場所だといいのだけど。主にスターコアが見つかるかどうかという意味で。
そんな淡い希望を持ちながら、昼食を食べるのだった。
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