第四百十五話:一件落着
「これであらかた片付いたの?」
「そうですね。おおよそはうまくいったかと」
ラズリーさんの鍛冶屋に集まって、報告を上げるみんな。
今回の作戦で、四軒の鍛冶屋、および商業ギルドの信用は地の底に堕ちた。
鍛冶屋に関しては、粗悪品を売ってるんじゃないかと言う噂が真実になってしまい、なんとなくで訪れていた人も、じゃあやめようと店に足を運ばなくなったし、商業ギルドに関しては、ギルドマスターがすべてを吐いたことから、ラズリーさんの鍛冶屋に対することも含めて、不正を働いていた人達が芋づる式に摘発され、上層部の職員はほとんどが検挙された。
もう抜けすぎて商業ギルドとしての体裁を保てないくらいだ。
これで、もうラズリーさんの鍛冶屋にちょっかいをかけることはできなくなっただろう。
「センカさんもシュエもありがとうなの。おかげでスムーズに進んだの」
「まあ、魔物を適当に連れてくるだけだったし、これくらいならお安い御用よ」
「シュエはちょっと不満だよ! なんであんなちょい役なのよ!」
「それについては申し訳ないけど、出すタイミングがなかったの」
途中で行った大規模魔物討伐作戦。あれはセンカさんが用意した魔物を意図的にけしかけて、それを冒険者ギルドにリークして戦う形を作ってもらい、カイン達がそれに便乗して戦う、と言う風にしたのだ。
鍛冶屋がやっていたのは、ごろつきを雇ってラズリーさんの鍛冶屋を襲撃させていたこと。もちろんそれは悪いことだが、主導となってやっていたのは商業ギルドであり、鍛冶屋はそれに便乗しただけだった。
だから、直接的な被害はあまり出さず、ちょっと評判が悪くなる程度に収めようと思って、わざわざ店の常連が自分の店で買った剣のせいで怪我をし、順当に行けば掴めるはずだった、他国での優遇措置を無に帰してしまったという、後悔が残るようなやり方にしたのだ。
ラズリーさんの店には今後も勝てないだろうけど、他の町でなら再起できなくもない。そんな微妙な立ち位置で、これからも頑張って欲しい。
シュエに関しては、確かに出番が少なかったのは認める。
大規模魔物討伐作戦のラスボスとしても一応登場してもらったが、リヴァイアサンなんて化け物を普通の冒険者が相手にできるわけがない。
だから、敵前逃亡する冒険者も多く、それ故にあまりインパクトを刻みこめずにいた。
だから、もう一度チャンスをと言うことで、商業ギルドでサクラが活躍するための踏み台になってもらったわけだけど、やっぱりあれじゃ不満だったらしい。
まあ、リヴァイアサンっていう特大の魔物を操るのは大変だったってことだね。
でも、町の中に出現したおかげで、多少なりとも目撃者はいたようだし、それを倒したのがラズリーの鍛冶屋の逸品だったということはそれとなく噂を流しておいたので、これを機にラズリーさんの店も売り上げが伸びていくかもしれないね。
「でも、こんなことしてよかったんですか? 商業ギルドが潰れたとなれば、この国の商人達は困ると思うのですが……」
「あの鍛冶屋達はともかく、それでこのお店まで割を食ったらまずいのでは?」
「その心配はないの。それについても根回し済みなの」
グレイスさんとシュライグ君の懸念はもっともだ。
いくらラズリーさんが商業ギルドに加盟していないとはいえ、王都の商業を取り仕切っていたのは商業ギルドである。
それがなくなったとなれば、混乱するのは目に見えているし、新たに商業を始める者や、信用のおける店を見極める必要があるなどの問題が浮上してくる。
しかし、そもそも王都の商業ギルドは権力を持ちすぎだった。
特定の店への優遇措置や、仕入れルートや値段への口出し、都合の悪いことのもみ消しなど、金さえ払えば何でもまかり通っていた魔境だったのだ。
それを是正するためにも、商業ギルドはもう少し権力を落とす必要があった。だから、後釜には、現在商業ギルドに所属しておらず、また商人としてのノウハウも持っている者、すなわち、ラズリーさんが選ばれることになったのだ。
もちろん、ラズリーさんは見た目は子供だから、本格的な業務は別の者が担当することになるだろうが、権力が強くなりすぎないよう、王宮はそこまで手を出さないし、邪な者に利用されないようにアルフレッドのギルドマスターが協力を申し出てくれた。
だから、よほどのことがなければ、これ以上ラズリーさんに危害が加わることはないだろう。
「あちきはなにも聞いてないんでちが……」
「これが一番簡単にラズリーさんを守る方法だったってだけなの。大丈夫、今までと何も変わらないの」
「ほんとでちか? 仮にもギルドマスターに選ばれるなんてどう考えてもおかしいと思うのでちが……」
まあ、そりゃね。商業ギルドの権力を落とすためには、商業ギルドのことを客観的に見れる人材が必要だった。だから、商業ギルドに加盟していない人を選ぶ必要があったというのは本当だ。
しかし、それならもっとふさわしい人はごまんといるだろう。いくら獣人があまり頭がよくないとは言っても、それは一般論であり、探せばギルドマスターが務まる人物もいたはずである。
何なら、アルフレッドの商業ギルドから引っ張ってくるのでもよかった。あくまで王都の商業ギルドがおかしかっただけで、他の町の商業ギルドはそこまで強力な権力は持っていなかったのだから。
王都とは関係のない場所であるアルフレッドの商業ギルドから後釜を決めれば、多少アルフレッドに有利な条件になるかもしれないとはいえ、確実に再興はできるだろう。
それを、あえてラズリーさんにしたのは、自衛のためと言うのもあるが、ラズリーさんが仲間外れにされないためでもある。
今後は、商業ギルドは心を入れ替えて、真っ当な商売をすることにはなるだろう。だが、そもそもラズリーさんの店はミスリルを使っている割に値段が安すぎる。
これではいくら他の武器鍛冶を社会的に潰したとは言っても、他の、道具などを売っている鍛冶屋から、あるいはそれらを扱う商人から噛みつかれる可能性は十分にある。
そうならないためにも、商業ギルドのギルドマスターと言う地位が必要だったわけだ。
流石に、ギルドマスター相手に脅しをかけられる商人などいない。いくらトップが騙しやすそうな少女だったとしても、本当のトップは別の人が担当していると思うだろうしね。
もちろん、どこかのタイミングでラズリーさんに接触し、直接約束を取りつけようとする輩もいるかもしれないが、ラズリーさんがそんな奴らの口車に乗せられるはずもない。
仲間外れにならないようにしつつ、今まで通りの値段で売るには、これがちょうどよかったのだ。
「……まあ、お前様達があちきのために色々手を回してくれたのは伝わったでち。このお礼は、必ずするでち」
「うちにも武器をたくさん卸してくれたらそれで構わないの。これからも、いい取引相手としてよろしくお願いしたいの」
「これだけのことをやったのに、豪胆なことでちね。もちろん、喜んでお相手させていただくでち」
ラズリーさんと握手を交わし、お互いに微笑みあう。
仲間にはできなかったけど、これで武器問題は解決だろう。クリーさんの方は仲間になってくれたし、戦力もアップした。
さて、次はどこへ行こうか。次にやるべきことを考えながら、行先を想像していた。
感想ありがとうございます。
今回で第十三章は終了です。数話の幕間を挟んだ後、第十四章に続きます。




