第四百九話:目には目を
城の俺の部屋。いつものメンバーで集まり、作戦の進行状況を報告しあう。
あれから数日が経ったが、皆順調に進んでいるようで何よりだ。これなら、案外早めに決着をつけられるかもしれないね。
「それにしても、馬鹿のふりするのって大変だねぇ」
「お疲れ様なの。商業ギルドの様子はどうだったの?」
「結晶花が一つ小金貨二枚だってさ。いや、買い叩くにしても限度があるよね。取り繕うのが大変だったよ」
商業ギルドに向かったサクラは、案の定買い叩かれたようだ。
商業ギルドの性格を予想した時、無知な相手には絶対に買い叩いてくるだろうということは予想していた。
だから、森から出てきたばかりのエルフって感じにすれば、絶対にそう動いてくれると信じていたよ。
ちなみに、結晶花はほぼエルフの里にしかない貴重品で、その価値はその辺の魔石の何倍もする。
少なくとも、小金貨二枚じゃ済まないだろう。桁が一つ違うと思う。
サクラにはあらかじめ、どんなに買い叩かれてもそれが当然という風にふるまうように言っていたけど、あまりに安すぎてびっくりしているのを隠すのが大変だったようだ。
「カイン達の方はどうだったの?」
「私の行ったところは、お客さんが来ないからなのかやたらと食いついていましたね。剣を試し切りさせてもらいましたが、買うと言ったら凄い笑顔で値段を言ってくれました」
「こっちも似たようなもんだな。俺はどっちかと言うと魔術師だからがっかりされるかと思ったが、サブ武器として剣を使っていると言ったら喜んで勧めてくれたよ」
カイン達には例の四軒の鍛冶屋の方に向かってもらった。
クレームが多いせいで客が少なくなっているというのは本当のようで、少なくとも不快な接客はされなかったらしい。
グレイスさんやシュライグ君も似たような感じだったらしいので、人を見て接客を変えるようなことはしていないらしい。
まあ、その余裕がないだけかもしれないけどね。
「品質の方はどうなの?」
「見た限り、そこまで悪くはありませんでした。まあ、私が使ったら、数回で壊れそうですけど」
「基本的に、武器は武器破壊スキルでしか壊せないと思うんだが、リアルになったせいで耐久力みたいな概念ができてるのかもな」
「まあ、それは十分あり得るの」
剣に耐久力がないと、普通に使い続ける限りは、いくら使っても壊れない無敵の剣となってしまう。
敵に壊されるパターンとして、武器破壊攻撃を受ける、と言うのがあるが、逆に考えればそれさえ受けなければ壊れないというのはリアルな世界ならおかしな話だ。
重い攻撃を何度も受ける、硬いものに何度も打ち付ける、とか色々と壊れる条件はあるだろう。それを考えてしまうと、この程度の品質ではカイン達の攻撃力には耐えられないってことだね。
「まあ、普通に使ってて壊れるなら都合がいいの。壊れてくれないと、先に進めないの」
「ですね。しばらくは壊れない程度に使って、修繕を頼む形でしたっけ?」
「そうなるの。修繕回数が多すぎておかしいなと思われるくらいまで通ってくれると嬉しいの」
別に他の鍛冶屋の武器の品質が悪いわけではないと思うが、ラズリーさんの作品と比べれば、相対的に品質は悪いと言えるだろう。
だから、実際に品質が悪いということにしてやれば、今のクレームの言葉は真実と言うことになる。
噂を広げる準備は万全だ。
「私の方は、ずっと結晶花を売りつける感じ?」
「そうなるの。後で別の町の商業ギルドに鑑定してもらって、その鑑定書を貰っておくの。そうすれば、準備は万端なの」
「いいカモだと思ってたお得意様がいきなり知恵を付けたら、どうなるだろうねぇ」
商業ギルドに対して権力で押し通すのは難しいが、商売という同じ土俵に立てば話は変わってくる。
今までさんざん買い叩いていたけど、実はそれはもっと高価なものだった。しかも、その相手はただのエルフではなく、エルフの女王だったとなれば、下手したら国際問題ものである。
そりゃ、エルフの里は実際には国ではなく、ただの里ではあるけど、エルフの実情にそこまで詳しい人がいるはずもない。
騙してたお偉いさんが商業ギルドを訴えるとなれば、国が動かなくても他の町の商業ギルドは動くだろう。
この町のように腐っているならともかく、他の町でここまでの権力を持っているとは思えない。
商業ギルドは商業ギルドに裁かせるってわけだね。
そして、その際に色々と不正の証拠が出てきたらどうなるか。楽しみだね。
「名付けて、マッチポンプにはマッチポンプ作戦、うまくいくといいね」
「まあ、何とかなると思うの。最悪商業ギルドが潰せなくても。鍛冶屋を社会的に潰せるならどうとでもなるの」
この作戦は、商業ギルド、および例の鍛冶屋四軒を社会的に潰すのが目的である。
公正な取引をしていたはずなのに、それが実は不正な取引で、しかも相手がお偉いさんだったら?
懇意にしていた鍛冶屋だったのに、そこで買った武器が原因で怪我をしてしまったら?
特に鍛冶屋の方は今の時点でも色々なクレームがあるのだし、少しでもそれが事実となってしまえば、もう覆ることはないだろう。
商業ギルドとて、大きな権力を持っているとはいっても基本は客を相手にする商売人である。客がとても理不尽な要望を言っているならともかく、筋が通ったことを言っているなら、表立って反論はしづらい。
そこにうまくラズリーの鍛冶屋を絡ませることができれば、商業ギルド自身から言質を引き出すことも可能かもしれない。
引き出せなかったとしても、バックにお偉いさんがついているとなれば、容易に潰しにかかりはしないだろう。
後は、このまま作戦を続行し、じわじわと首を真綿で締め上げていくだけだ。
「センカ殿の準備はどうですか?」
「すでに動いてもらってるの。十分な量を手懐けるにはもう少し時間が必要だって言ってたの」
「なら、それまでは適度に買い物しながら待機ですね」
「ラズリーさんへの襲撃は大丈夫なの?」
「それに関しては、クリーに確認したけど大丈夫そうだぜ。流石に、直接攻撃はまずいって思ったんじゃねぇか?」
「まあ、妥当な判断なの」
店のものを壊したり、盗んでいったりするのは、十分悪だけどそれはともかく、ラズリーさんへの直接攻撃は流石にばれたらやばすぎる。
雇い主である鍛冶屋や商業ギルドが庇ってくれる範囲を大きく逸脱しているだろうし、下手したらトカゲの尻尾きりされてもおかしくない。
鍛冶屋連中だって、その報告を聞けば流石にやりすぎだって思うだろうし、しばらくは治療期間として襲撃を控えているのかもしれないね。
まあ、いまさらそんな優しさ出しても無意味だけど。
「私も裏で色々動いておくの。みんなも頼んだの」
「はい、お任せください」
「きっちり仕事はするさ」
「頑張るよ」
報告も終わり、みんなそれぞれの寝床へと帰っていく。
さて、このままうまく行ってくれるといいんだけど。
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