第四百六話:悪だくみ
しばらく考えてみたが、なかなかいい案は浮かんでこなかった。
そりゃ、その気になれば、鍛冶屋とか商業ギルドをまとめて潰すことくらいできるだろうけど、それだとラズリーさんの関与を疑われて、こちらまで潰されてしまいそうだ。
もしやるとしたら、どうにかラズリーさんの関与を否定できる形にしたいよね。いや、やらないけどさ。
「話し合い……はとっくにしてますよね」
「毎回説明してるでちよ。まあ、流石に仕入れルートとかは教えられないでちが、できる限り丁寧に対応してきたつもりでち」
「普通、子供が頑張ってお店開いてたら応援したくなるものじゃないの?」
「同業者にとってはそんなの関係ないんじゃねぇか? 応援して自分の店が潰れても困るだろうし」
文句言うとしたら鍛冶屋にだろうけど、あいつらはもう聞く耳持ってないだろう。今回の襲撃でもそれがよくわかる。
そして、商業ギルドに文句言おうにも、そっちは表立って手を貸しているわけではないから知らないと言われておしまいだろう。
多分、狙いとしては、そうやって追い詰めて、商業ギルドに加盟させるのが目的なんじゃないかなと思う。
音を上げて加盟してくれるなら、有利な条件を突きつけられてよし、そうでなくても潰れてくれればよし、商業ギルドには何の損もない。せいぜい、鍛冶屋に流した資金や物資くらいか。
自分で襲わせて、自分を頼らせて、自分で事態を解決するって、完全にマッチポンプだよなぁ。
「これは、ちょっと他の人にも相談してみるの」
「他の人でちか?」
「城に戻れば、頼りになる人がいるの。その人にも聞いてみるの」
「まあ、煮詰まってきてるでちからね。どうしても浮かばないのであれば、このままでも構わないのでちが」
「そう言うわけにはいかないの。なんとかいい案を聞き出してくるの」
俺達ではこれ以上の案は出てこないと思い、一度ポータルで城へと戻ってくる。
誰に聞くかと言われたら、まあ、ナボリスさんしかいないだろう。
ナボリスさんなら、何かいい知恵を貸してくれると期待している。いつも、国のために頭を悩ませてきたナボリスさんなら、きっと何か案を出してくれるだろう。
そう思い、さっそく聞いてみた。
「ふむ、なるほど。話は大体わかりました」
「それで、何か案はありそうなの?」
「まあ、月並みな考えであれば、それだけ嫌われているならさっさとその国を捨てて別の国に、それこそ我が国にお越しいただくのが一番いいとは思いますが」
「それはそうだけど、そうじゃないの」
俺だって、それはすぐに思いついた。
そんな嫌がらせを受けてまで留まる理由なんてないと思ったし、うちに来てくれるなら一石二鳥だし。
でも、なにやらあの国から離れたくない理由があるみたいだし、それはできない。
流石に、ナボリスさんもそう簡単には妙案は浮かばないだろうか。
「そうでしょうな。交渉は不可能、退去も不可能、こちらに手札と言えるものは何一つないとなれば、多少損をしても商業ギルドに登録するのが一番丸いとは思いますが、それでは納得なさらないのでしょう?」
「できれば、やり返してやりたいの」
「ならば、こちらも力を手に入れるしかありませんな」
「力、なの?」
ナボリスさんがにやりと笑う。
その後、説明された内容を聞いて、俺は思わず目を丸くした。
なるほど、確かに相手がそういうことをしてきている以上、こちらが変に正攻法に頼る必要はない。
つい、力で解決してしまいがちではあるけど、その力も要は使いようだ。ごり押しだけが力じゃない。
ただそうなると、ちょっと時間がかかるかな? でも、完全に決めるためにはそれもやむなしだろう。
これもラズリーさんを助けるためだし、多少の時間は惜しまず使うべきだ。
そうと決まれば、さっそく準備した方がいいだろう。やるなら早い方がいいだろうしね。
「ナボリスさん、ありがとうなの。おかげで活路が見えたの」
「お役に立てたなら幸いです。吉報をお持ちしております」
「任せるの」
俺はナボリスさんにお礼を言うと、戻ってみんなに作戦を説明する。
ラズリーさんは目を丸くしていたけど、どういう意味か理解すると、にやりと笑っていた。
ラズリーさんとて、やられっぱなしのまま終わりたいとは思っていない様子。できることなら仕返ししたい、そして、今その光明が見えた。
なら、後はしっかりとそれを遂行するだけである。
「まずは下地作りですね。誰が担当しますか?」
「商業ギルドの方はサクラがいいと思うの。エルフはあんまり外の世界に出ないし、最近外の世界に出てきたエルフとしてふるまえば自然だと思うの」
「鍛冶屋の方は俺とカインだな。クリーは別の意味でマークされてるだろうし、アリスもさっきの襲撃に手を出しちまったから警戒されてるだろ」
「後二軒はどうする?」
「そこは適当に引っ張って来ればいいんじゃね? どうせセンカとか呼ぶんだろ?」
「それはそうなの。なら、シュライグとグレイスさんあたりに任せるの」
「決まりですね。それでは、悪だくみを始めましょうか」
「なんだかワクワクするの」
「楽しそうでちね」
役割も決まり、後は動くだけである。
ただまあ、万全を期すためにもこちらはこちらで動くとしよう。どっちにしろ、俺は表立って動きづらいし、裏方に徹した方がいい。
適当に噂を作って流すくらいならできるだろうしね。それと、いざと言う時のために冒険者ギルドの人達にも協力を頼んでおこう。
「クリーさん、いざと言う時のラズリーさんの護衛は任せるの。時間がかかるから、絶対にまた来ると思うの」
「そこらへんは任せとけ。ラズリーには世話になってるからな、たまには守る側に回るのも悪くない」
「頼んだの」
これでラズリーさんの護衛も大丈夫。
さて、後はみんなを呼びに行こうか。今回の作戦は、みんなの力も必要である。
まだ許可は取ってないけど、まあみんななら多分力を貸してくれるだろう。貸してくれなかったら、その時は俺が頑張ればいいだけだ。
「さて、みんなはどこに?」
話し合いをしていたせいか、すでに夕方になってしまった。
明日になってから聞いてもいいけど、できることなら早めに済ませておきたい。
シュライグ君は家だろうな。グレイスさんは兵舎かな?
あ、せっかくだからシュエにも力を貸してもらったらいいかもしれない。リヴァイアサンなんて出てきたら驚くだろうな。
「あ、いた。おーい」
町を回り、協力者に事情を話していく。
シュライグ君もグレイスさんも、快く力を貸してくれることになった。それと、センカさんとシュエもね。
国一つどころか、ただの商業ギルド一個相手にするには過剰すぎる戦力だろうけど、相手が暗躍するならこちらも盛大に暗躍してやらないと失礼だろう、
俺は今後の展開を予想し、静かにほくそ笑んだ。
感想ありがとうございます。




