第四百五話:敵は誰か
それから、カイン達とも協力して、相手について調べてみた。
まず、敵対している相手だけど、武器や防具を扱う鍛冶屋が四軒と商業ギルドで合っているようだ。
逆に味方となってくれているのが、冒険者ギルドの冒険者達と一部の兵士、騎士達。警備隊も一部は協力的なようだが、商業ギルドの圧が強く、なかなか動けないようだ。
力関係的には、商業ギルドが最も強いようで、冒険者ギルドの冒険者達だけでは太刀打ちできないとのこと。
ただ、商業ギルドは、表立ってラズリーさんの店を潰そうとしているわけではない。
そりゃ、商業ギルドに加盟した方が安全や安心を買えるし、商人同士の情報交換とか色々できるから有利なのには変わりないけど、わざわざ加盟していないからと言って加盟することを強制はできないし、気に入らないから潰すなんてことはできないようになっている。
そんなことできてしまったら、商人にとって商業ギルドに入らないことイコール死だしね。
ただ、表立ってしていないというだけで、裏ではバリバリに潰そうとしているようだ。そこで動いているのが、他の鍛冶屋である。
この鍛冶屋達は、武器鍛冶組合というものを設立しているようで、仲良く経営していたらしい。そこに現れたラズリーさんだったが、当然鍛冶屋達はその組合に入るように言ったようだ。
だが、ラズリーさんはそれを拒否。拒否した理由は、商業ギルドとの癒着を疑ってとのこと。
組合自体は、商業ギルドと何の関係もないけれど、鍛冶屋達は当然商業ギルドの方にも登録している。だから、組合に入ることによって、実質的に商業ギルドに加盟したことにさせられる可能性を考えて、拒否したのだそうだ。
そうなってくると、ラズリーさんを縛るものは何もない。おかげで、ラズリーさんは高品質のミスリル武具を安価で提供することができた。
けれどそれは、他の鍛冶屋にとっては死活問題。当然クレームを入れるが、組合にも入ってないのに指図を受けるいわれはない。当然突っぱねられる。
そうやって鬱憤が溜まっていった鍛冶屋達に手を貸したのが、商業ギルドと言うわけだ。
商業ギルドはラズリーさんの店を潰すために、裏金を使ってごろつきを雇い、ラズリーさんの店に嫌がらせをするように指示した。
客足が遠のいた鍛冶屋だけだったら嫌がらせもそこまで激化しなかっただろうが、そこに商業ギルドが入ったことによって、継続的な資金と物資が手に入るようになった鍛冶屋達は、だんだんと過激な嫌がらせをするようになっていった。
その結果が、今の鍛冶屋と商業ギルドが敵になっている状況である。
これに対し、冒険者ギルドは表立って動くことはできないでいた。
もちろん、ラズリーさんが度々襲われるから護衛をしてくれ、と依頼するなら、冒険者を派遣したりもできるが、ラズリーさんはそう言った依頼はしていないようである。
まあ、いつ来るかもわからない襲撃に対してずっと護衛を雇っておくって結構難しいしね。
ただでさえ、安価で売っているせいで利益はほとんど出ていないだろうし、従業員に対する給金を払ったらほぼすっからかんなんじゃないだろうか。
だったら値段上げればいいとも思うけど、そこはラズリーさんにも何かこだわりがあるようである。職人の考えることはよくわからない。
それはいいとして、そんな状態だから、冒険者ギルドが何かすることはできない。せいぜい、冒険者自身が個人的に動く程度である。
運が良ければ襲撃の際に守ってくれることもあるらしいが、武器なんてそんな頻繁に買い替えるものじゃないし、タイミングが合わないことも多い。今回も、来ていた客は一部は守ろうとしてくれていたけど、襲撃が来た時点で店を出て行ってしまった人も多かった。
一応、商業ギルドとかに改善を求めているらしいんだけど、商業ギルドは自分のところに所属しているわけでもない鍛冶屋を守る気はないと突っぱねているらしい。
正論っちゃ正論だから、それ以上進展しないんだろうね。
「さて、まずどうしたら改善すると思う?」
「一番簡単なのは、その鍛冶屋四軒を潰しちまうことか」
「いきなり過激なの」
そりゃ確かに、クレーム入れてくる鍛冶屋がいなくなれば、商業ギルドも表立って動けない以上は手出しできなくなると思うけど、流石にそれは力業すぎるだろう。
その鍛冶屋達だって、元々はこの町で活躍していたんだろうし、それをぽっと出てきたラズリーさんに攫われた形だから、被害者と言えなくもない。
まあ、だからと言って嫌がらせしていい理由にはならないけど、潰すのはやりすぎだろう。
「穏便に解決するなら、値段を適正にするとか、武器防具以外のものを取り扱うとか、でしょうか」
「まあ、それが一番穏便ではあるの。できないけど」
「値段は変えたくないでち。武器防具以外を作るのは、スキル的に難しいでち」
何のこだわりかは知らないけど、値段は変えられないし、【ウェポンコーディネート】は武器を作るスキルであって、鍛冶自体をするスキルではない。
だから、鍋とかそう言う金物を作ることはできないと思う。
まあ、レベル上げてもいいんだったら、【鍛冶】と言うスキルがあるから、それさえ上げれば行けなくはない気がするけどね。というか、これだけ作っているならもしかしたらすでに【鍛冶】のスキルが生えているかもしれないし。
「潰すのもダメ、値段を上げるのもダメとなると、正攻法じゃ無理じゃない?」
「うーん……」
力関係的に、商業ギルドの方を何とか出来れば解決はすると思う。
ただ、この町の商業ギルドはかなり力が強いらしい。
と言うのも、元々獣人はあまり多種族との交流をしない種族だったようで、それ故に知識が不足していた。
特に、動物の特徴を強く持つことから、野性での生活に慣れており、わざわざ家を作って暮らすという発想があまりなかったらしい。
だからこそ、建築技術はあまり高くないし、獣人の職人とかが生まれるのも稀だったようだ。
それを何とかしたのが商業ギルドであり、無知な獣人達に知識を与え、貿易をするようにし、町を作るということを教えた。
今、この国があるのは、商業ギルドのおかげと言ってもいいわけである。
だから、仮に王様でもおいそれと楯突くことはできず、それ故に商業ギルドもちょっと態度が大きくなっているというわけだ。
そんな背景があるというのは初耳だが、それなら確かに商業ギルドが力を持つのは納得である。
権力で対抗するのは難しそうだなぁ。
「商業ギルドに忍び込んで、裏取引の証拠を掴んでくるってのはどうだ?」
「まあ、もし決定的な証拠なら、王様にでも渡せばもしかしたら対応してくれるかもしれないけど、かなり時間がかかりそうなの」
商業ギルドに真正面から対抗できそうなのが国くらいしかいない現状、もし不正の証拠を掴んだとして、持っていくなら王様のところしかない。
しかし、いくら不正な証拠とは言っても、それを手に入れるために不正をしているのはこちらだし、そもそも王様に直接届けるなんて不可能である。
まあ、俺がヘスティアの王だということを明かして、王様との謁見を望むのなら、話くらいはできるかもしれないけど、仮に証拠を持っていったとして、対処してくれるかどうかは微妙なところである。
下手したら王様と対等くらいの権力を持っている商業ギルドに対し、いくら不正の証拠があるとは言ってもすぐに動くとは思えない。動くとしても、事実関係を確認してからとか、色々段階を踏みそうだ。
そして、そんなことをすれば商業ギルドは証拠をもみ消すだろう。それじゃ何の意味もない。
俺が介入するというのも、他国の王様が好き勝手するわけにもいかないだろうし、難しい。
案外八方塞がりだなぁ。さて、どうしたものか。
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