第四百一話:勧誘と商談
「ところでラズリーさん、聞きたいことがあるの」
「なんでちか?」
「ラズリーさんはプレイヤーなの?」
代金は一括で払うという方向で落ち着いたので、俺は本題に入った。
ラズリーさんの見た目的に、プレイヤーであることは間違いない。
俺と同じくらいの身長で、且つめちゃくちゃ華奢な体なのだ。どう考えても、鍛冶屋をやっているような見た目ではない。
それに、特徴的な語尾もある。ロールプレイ的に、俺以外にそんな奴がいるのかとも思ったけど、広い世界だし、いないことはないだろう。
もちろん、特徴的な語尾をしているってだけでプレイヤーだとは言わないが、その可能性は高そうだ。
「ふむ、その話をするということは、アリス様やそちらの方々もそうなのでちか?」
「その通りなの」
「おやおや、こんなにも同じ境遇の人がいるとは驚きでち」
「同じ境遇と言うことは、やっぱり?」
「そうでち。あちきも、別の世界からやってきた、いわゆるプレイヤーでち」
やはり、予想通りそう言うことらしい。
それにしても、鍛冶屋と言うことは【ブラックスミス】なんだろうけど、面白いキャラ設定にしているものだ。
【ブラックスミス】に必要な能力は、主に精神力である。
持ち味である、武器作製をするにはMPが必要であり、その上限を上げる精神力はかなり重要なのだ。
戦えるようにするなら、それに加えて筋力や器用が必要になってくるけど、振ってるのかな?
まあ、それはいいとして、【ブラックスミス】を選ぶ場合、種族的にはドワーフを選ぶのが一番効率がいい。
なぜかと言うと、ドワーフは種族スキルの一つに、【ブラックスミス】などの生産系のクラスになっている時、レベルアップ時のスキル取得枠を一つ増やすというものがあるからだ。
基本的に、レベルアップ時に取得できるスキルの数は二つだが、これがあれば三つに増やすことができる。
しかも、このスキルはパッシブスキルであり、レベルアップすればするほど恩恵は大きくなってくる。
なので、【ブラックスミス】になるなら、セカンドクラスでもない限り、普通はドワーフ一択なのだ。
でも、ラズリーさんの種族は頭の狼耳を見る限り獣人。最も重要な精神力に補正を貰うことができない種族である。
もちろん、必ずしも最適な選択を取ることが絶対だとは言わない。むしろ、TRPGは自分の好きなキャラクターを作ることができるのだから、あえて王道から外すのも全然ありである。
あえて華奢な姿で鍛冶屋をやるというのもなかなか面白い。もしかしたら、話が合うかもしれないね。
「そう言うことなら話が早いの。もしよければ、ラズリーさんも仲間にならない?」
「仲間でちか。あちきのような低レベルの生産職では、そこまで力になれないと思うでちが」
「レベルは後でどうとでもなるの。それに、今は武器防具が不足しているの。もし、ラズリーさんがそれを作ってくれるのなら、だいぶ助かるの」
「ふむ」
俺は粛正の魔王の情報と共に、ヘスティアの武器事情を話す。
確かに、武器自体は存在するし、このままの状態でも戦うことはできるだろう。しかし、いつ折れるかもわからない武器を持って戦場に出るのは、誰でも怖いものだ。
俺が作ってあげればいいのかもしれないが、俺は他にも色々とやることがあって忙しい。
だからこそ、武器防具を専門に作ってくれる人が必要なのだ。
話を聞いただけではあるけど、ラズリーさんはかなり信用できると思う。店頭に並べられた武器や、クリーさんが持っていたミスリルナイフ、そして、それらすべてに並々ならぬ情熱を持っている。
兵士の分までなかなか回ってこないミスリル製と言うのもポイントが高いし、そこそこでいいと言われながらきちんとしたナイフを作るその姿勢も素晴らしい。
ラズリーさんならば、ヘスティアの兵士達やプレイヤー達の満足いく武器を作ってくれることだろう。
「話は大体わかったでち」
「それじゃあ、返答のほどは?」
「お断りするでち」
ラズリーさんは迷いなく誘いを断った。
てっきり、仲間になってくれるものだと思っていたからちょっとびっくりである。
でもまあ、すでにここで鍛冶屋として成功を収めているし、わざわざヘスティアまで来る必要は確かにないか。伝説の鍛冶屋だしね。
「あちきはただの鍛冶屋でち。粛正の魔王に対抗しろと言われても困るでち」
「元の世界には帰りたくないの?」
「それは、できることなら帰りたいでち。でも、それで命を危険に晒すくらいなら、あちきはこの世界に骨を埋めるでち」
「そっか……」
まあ、確かにそうだよね。
帰る手段があるなら、そりゃ帰りたいと思うのが普通だろう。しかし、そのためにはとても危険な橋を渡らなければいけないとなれば、尻込みする人も出てくるのは当然である。
それでも、元の世界に残してきたものがあるだとか、この世界での生活に嫌気がさしただとか、そう言う理由があるならチャレンジする人もいるかもしれないけど、ラズリーさんは見た限り大きな成功を収めている。
仮に、このままこの世界で一生暮らすことになったとしても、なにも困らないだろう。高品質の低価格な武器を売る鍛冶屋として、長く暮らしていけるはずである。
それを考慮しなかったのは俺が悪いよね。
「でちが、武器を作れ、と言うだけなら応えられないことはないでち。ヘスティアまでの運搬費や護衛費なんかを払って貰えるのなら、依頼は受けるでちよ」
「結構な数になると思うけど、大丈夫なの?」
「大丈夫でち。作るのは一瞬でちから」
ああ、そういえば、何かを作成する系のスキルって、一瞬で出来上がるんだよね。
ポーションもそうだし、ホムンクルスもそう。【ブラックスミス】の【ウェポンコーディネート】も、ハンマーを一振りするだけで望んだものが一瞬で作れる。
なるほど、それなら確かに何百本だろうがそこまで時間はかからないだろう。
「そう言うことなら、お願いするの」
「それなら、ここからは商談になるでち。細かいところを詰めていくでち」
「わかったの」
そう言って、ラズリーさんは目をギラリとさせながら話を始めた。
とは言っても、武器さえ作ってくれたら取りに来るのは簡単だ。
ポータルを使えば距離の問題は解決するし、それなら途中で盗賊とかに奪われる可能性もない。
流石に、ここからヘスティアまで馬車で運搬じゃ、かなりの金額になってしまうだろうからね。節約できるところは節約していかないと。
作る武器種に関しては、剣を中心にまんべんなくと言うことにした。
槍やらハンマーやら、ヘスティアの兵士はその気になればどんな武器だって扱えるようになるだろう。主に俺がクラスを変更すれば。
もちろん、その兵士の努力を無に返すようなことはしたくないから、クラスの変更は本人の希望通りにはするけど、あまりに偏るようなら説得も考えている。
まあ、剣が使えれば大抵は何とかなるとは思うけどね。ただの魔物を倒すだけだったら、それでも十分だし。
「しっかし、あれだな」
「どうしたの?」
「お前ら二人とも喋り方面白すぎだろ」
「「うるさいの(でち)!」」
俺だって好きでこんな喋り方してるんじゃないやい!
はもったあたり、ラズリーさんも気にしているのかな。やっぱり、ロールプレイで話すのと素で話すのは違うよね。
俺はラズリーさんに親近感を覚えながら、商談を続けるのだった。
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