第四百話:鍛冶屋の少女
本編でも400話達成しました。ありがとうございます。
それから数日。俺達はラズリーさんが店を構えているという王都までやってきた。
流石、王都だけあって、今までの町と比べると結構立派ではある。
相変わらず木造建築ばっかりだけど、それでも結構工夫が凝らされていて、温かみのある安らかな雰囲気を感じさせられる。
どうでもいいけど、こんな場所で鍛冶屋なんて開いて大丈夫なのかな。めっちゃ燃えそうだけど。
まあ、そのあたりはうまく調整してるんでしょう。きっとそうに違いない。
「店はあっちだ。ちょっと外れにあるんだよ」
「まあ、当然っちゃ当然なの」
クリーさんの案内の下、ラズリーさんの鍛冶屋へと向かう。
町の中心地からだいぶ離れ、歩いていくにはちょっと大変だなと思うような場所に、その鍛冶屋はあった。
店舗も兼ねているようで、店の中には剣を始め、様々な武器が陳列されている。
値段も見て見たが、確かに良心的な価格だ。鑑定もしてみたが、全部ミスリル製だったし、それでこの価格は普通に赤字な気がする。
伝説の鍛冶屋と謳われるだけあって結構繁盛しているようで、店の中にはそれなりの数のお客さんがいた。
「おーい、ラズリー、いるか?」
「おや? 聞き覚えのある声が聞こえたと思ったら、クリーでちか?」
カウンターにいる店員さんを無視して声を張り上げると、店の奥から一人の少女がやってきた。
緋色の髪に緋色の瞳、それに服も赤を基調とした色で構成されていて、とても暑苦しい。唯一、頭に生えている狼耳だけが黒く、なんとも違和感を感じさせる。
作業でもしていたのか、硬そうなエプロンを付けていて、手にはハンマーを持っているが、その容姿はとても可愛らしく、とてもじゃないけどそんな細腕で鍛冶なんてできないだろと言われるような華奢な体をしていた。
うん、これ絶対プレイヤーだ。そうでなければ、痩せすぎたドワーフってところか。どう考えても、鍛冶屋って見た目じゃない。
「おお、いたいた。喜べ、ツケを全部払ってくれるって奴が見つかったぞ」
「そもそもツケにしないでほしいのでちが……そんな特異な人がいたのでちか?」
「ああ。アリス、こいつがラズリーだ」
「どうも、アリスなの。よろしくなの、ラズリーさん」
「あ、これはご丁寧にどうもでち。鍛冶屋をしているラズリーでち」
お互いにお辞儀をし、挨拶をする。
見た感じ、俺と同じくらいか? 成人してるって見た目ではないが。
でも、俺も結構年月が経っているにも拘らず姿が変わっていないし、もしかしたらもう成人してるって可能性もある。
ここはとりあえず、年上っていう解釈をしておこう。
「そこの馬鹿のお代を払ってくれるらしいでちが、どう言いくるめられたんでちか?」
「人聞きの悪いこと言うな。向こうから申し出てくれたんだよ」
「そんなわけないでち。きっとナイフを首に押し当てて、払ってくれなきゃどうなるかわかってんだろうなぁ? とか言って脅したんでち」
「んなわけあるか! 俺を何だと思ってるんだ!?」
「ツケと言って代金を払わず、徴収しに行った人達を返り討ちにして踏み倒そうとしてる極悪人でち」
「違うから! ちゃんと払う気はあるから!」
ラズリーさんの言葉に慌てて訂正するクリーさん。
まあ、俺の目から見てもそんな感じだけど、今回ばかりは嘘は言ってないのがね。
信用がないとこういうことになるといういい例である。これに懲りたら、ツケなんてせずにきちんと料金を払うことだ。
「こほん!」
「……とりあえず、ここじゃ邪魔になるでち。中に入るでちよ」
そう言って、店の奥に誘導してくれた。
確かに、ここだと店員さんや他のお客さんの迷惑になるしね。
誘われるがままに奥に行くと、応接室のような場所に通される。
こういう工房って、鍛冶場が大半を占めていて、こういう場所はないと思っていたけど、そう言うわけでもないらしい。
ラズリーさんがお茶を用意してくれて、それを飲みつつ、話が始まった。
「それで? 実際はどうなんでち?」
「残念ながら払うって言ったのはこっちなの。クリーさんには、どうしても仲間になってほしかったの」
「こんな奴仲間にしてもいいこと何もないような気がするでちが……まあ、護衛と言う意味では役に立つかもしれないでちね」
「私もちょっと仲間にするの後悔してきてるけど、今更引けないの。仲間になったらせいぜいこき使ってやるの」
「おい、聞いてないんだが?」
実際、クリーさんの能力は結構有用っちゃ有用なんだよね。
【アサシン】で隠密に長けているから、諜報とかがやりやすい。【ワープポータル】を覚えてもらえば、一回行って設置してしまえばいくらでも出入りできるわけだし、どこかに忍び込んで情報を得るという意味ではかなり役に立つはずである。
ナイフの供給を何とかする必要はあるが、それくらいだったら俺が作れるし。ラズリーさんが中途半端なものは許さないというなら、俺が作ってやれば解決するでしょ。
ああでも、今のところどこかに忍び込んで何かしろっていうのはないから、そう言う意味だと役に立たないのかな? いつか魔物でも攻めてきた時に殲滅してくれる係として使う方が現実的かもしれない。
「まあ、払ってくれるというならありがたく貰うでちが、払えるんでちか?」
「いくらなのかにもよるの」
「ふむ、ちょっと計算するから待つでち」
そう言って、ラズリーさんは部屋にある棚からそろばんのようなものを取り出す。
しばらくパチパチと玉を弾いていたが、やがて結果が出たのか戻ってきた。
「ざっと計算して、金貨50枚になるでち」
「んー、まあ、高いの」
店先に並んでいた武器の値段を見る限り、ナイフの値段は恐らく銀貨数枚程度。
金貨は1枚で銀貨100枚分だから……ナイフの本数に換算すると大体千本くらい?
いや、折りすぎだろ。今持っているのが十本くらいと言っていて、しかもミスリルだから折るのに抵抗があるー、みたいなことを言っていたくせに、千本分のナイフ作らせてるとかどう考えても容赦なく折ってるよね?
確かに金貨50枚くらいなら払えるけども。てっきり、ナイフ一本分払えばいいと思っていたからこの金額にはびっくりである。
「まあ、一括でなくてもいいでち。月に金貨1枚ずつとかでも払ってくれるなら、ツケはなくしてもいいでち。その代わり、これが払い終わるまでは絶対にツケにはさせないでちが」
「えー、そりゃ困るな。アリス、一括で払えないか?」
「払えるか払えないかで言えば払えるけど、気分的には払いたくないの」
「なんでだよ!? 払ってくれるって言ったじゃんか!」
いや、だって、ねぇ?
まあ、それが仲間になるための条件なのだから、払わないという選択肢はないけども、そんな簡単に払ってしまってもいいものか。
このままだと、払った瞬間またナイフ作らせてツケにしそうで怖い。
ラズリーさんが断ればいいだけの話ではあるけど、なんだかんだ作ってるってことは、上客扱いしてそうだし、普通に受けそう。
なんだかなぁ……
「じゃあ、払うけど、もうツケにはしないって誓うの。それならすぐに払うの」
「えー」
「別にお金稼げないわけじゃないんだから、きちんと稼いでから買うの。それが普通なの」
「んー……わかったよ。今度からはちゃんと払う」
「それでいいの」
なんでこんな当たり前のことを諭さなきゃならないのかは疑問だが、これでとりあえずは解決しただろう。
後は、ラズリーさんのことだな。
俺は一つため息を吐いた後、ラズリーさんの方へ向き直った。
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