第三百九十九話:王都への道中
その後、俺達はラズリーさんがいるという王都に向けて出発することになった。
馬車にはクリーさんも同行している。まだ正式に仲間になったというわけではないが、もうほとんど確定と言うこともあって、すでに城には招待した。
結構苦労していたようで、衣食住は保障すると言ったらかなり喜んでいた。
クリーさんは今15歳らしいのだが、冒険者登録ができるのが15歳からなので、今までは森とかに入って魔物を狩り、それを売ることによって生計を立てていたらしい。
クリーさんほどの実力があるなら、それだけでも生活はできそうだが、そこはやはりスキル構成と設定の影響があり、常にナイフが不足する状態が続き、結構苦しかったのだとか。
しかも、この世界にはただのナイフと言えど、銅貨一枚で売っているようなものはないらしく、結果的に出費が増えたのも痛かった。
おかげで魔物の素材を売って得たお金のほとんどをナイフ代につぎ込む羽目になり、しかもナイフを作ってくれる場所も噂が広まるにつれて少なくなっていったこともあって、場所を転々とせざるを得なくなり、過酷な旅を続けていたようだ。
確かに、俺は『スターダストファンタジー』の感覚でナイフの相場を言っていたけど、普通に考えてナイフが10円で買えるわけないよな。リアルになった影響はここにもあるようである。
15歳になったことで冒険者登録こそできたが、登録したばかりのFランクにそんな上等な依頼が受けられるはずもなく、これは楽になるのはまだまだ先だなと思っていたようだった。
子供のためにわざわざ財布を盗まれるような性格もそうだし、かなり苦労しそうな生き方してるよね。
そのうち自分までスリに手を出しそうで不安である。いやまあ、多分しないだろうけどさ。
「クリーさんが今持ってるナイフってどんなもんなの?」
「今持ってるのはほとんどラズリーに作ってもらった奴だな。ざっと十本くらいあるぞ」
そう言って、【収納】から無数のナイフを取り出す。
いずれもミスリル製であり、作り自体はシンプルだが、品質は相当なものだとわかる。ラズリーさんはかなり腕のいい鍛冶屋のようだ。
普通に買えばかなりの金額がしそうだけど、これだけ買っても金貨一枚にも満たないらしい。
常に金欠であるクリーさんにとっては、かなりありがたい値段設定だったようだ。
まあ、結局ツケにしているから意味なさそうだけど。
「武器破壊スキルって、どの程度火力が上がるんですか?」
「んー、一般的な火力アップのパッシブスキルが、複数取って10から20だとすると、武器破壊スキルは、一つ取るだけで30くらいは上がるの」
「かなり上昇しますね」
「まあ、武器を壊すんだからこれくらいのメリットがないと誰も使わないの」
まあ、一部の武器ではお金を払って火力を増加させるという見方もできるから、場合によっては使うけどね。クリーさんみたいに。
一つ取るだけでそれだけ上がると言ったが、複数取ることもできる。だから、その分威力も増して、それに特化させればとんでもない威力を出すことができる。
コスパは悪いかもしれないけど、ロマンがあっていいよね。
「範囲スキルも取ってるから、火力上げて雑魚を一掃って動きが基本だな。露払いは任せとけ」
「頼もしいの。戦力が多いに越したことはないの」
役割的にも高火力物理アタッカーだからそんなに被らないかな。
シュライグ君とちょっと被るかもしれないけど、シュライグ君はどっちかと言うと単体の方が得意だし、棲み分けはできていると思う。
そろそろ役割が被ってくる人がいてもおかしくなさそうだけど、まあ被っていたら被っていたでやれることはいくらでもあるから困らない。
流石に生産職ばっかりっていうのは困るけども。
「ラズリーさんってどんな人だろうね」
「聞いた感じだと、職人肌の頑固おやじって感じがするが」
「あ、ラズリーは女だぞ」
「まじかよ」
女性で鍛冶屋とは珍しい。
力のいる作業だから、基本的には男がやるってイメージが強いけど、でもまあ、プレイヤーなら何の問題もないのかな?
女性キャラでも筋力が高いキャラなんていくらでも作れるし。アリスもそんな感じだしな。
「もし仮に、ラズリーさんが【ブラックスミス】だとしたら、ぜひともうちに来て欲しいの」
今、ヘスティアでは深刻な武器不足が発生しているからね。
いや、別に武器がないってわけではないけど、みんなのレベルに対して、武器や防具が貧弱すぎるっていう問題がある。
いくらレベルを上げて防御力が高くなっても、防具自体が弱ければダメージを貰う可能性は格段に上がってくる。
カインだって、俺が特注した防具でなければ、もう少し食らう場面も出てきていただろう。
武器に関しても、みんなの力が強すぎて、誤って折ってしまうっていう事故も多発しているようだし、早急にみんなのレベルに見合った武器や防具が必要になっているのだ。
職人気質と言うなら品質には期待していいだろう。時間はかかるかもしれないが、専門の人がいるならいずれ安定はすると思う。
うまく勧誘できればいいんだけどな。
「仲間が必要なのはわかるが、そんなに人手不足なのか?」
「人手不足って程少なくはないと思うけど、粛正の魔王を相手にするんだったら全然足りないと思ってるの」
「そんなに強いのか? ぶっちゃけアリスがいれば簡単に片が付きそうだが」
「魔王を舐めすぎなの。私一人どころか、全員で行っても手に余ると思ってるの」
もちろん、これは俺が粛正の魔王のデータを見ただけの感想だから、もしかしたらもっと楽なのかもしれない。
それに、今はどうやら魔王は傷ついて動けない状態らしいし、もし弱っているなら今の戦力でも余裕で倒せる可能性はある。
だけど、死んだら終わりと考えると、慎重にならざるを得ない。いくら蘇生手段があるとはいえ、死ぬのは怖いし、間に合わない可能性だってあるしね。
やるなら確実に、圧倒的にだ。
「魔王もお前みたいな奴に目を付けられて大変だな」
「別に私が目を付けたわけじゃないの。ただ、神様からそう言われただけなの」
「まあ、この世界には本物の神様がいるし、魔王も実在するんだろうが、一つ疑問なのは、本当に魔王を倒したら元の世界に帰してくれるのかってことだな」
「どういうことなの?」
アルメダ様は、魔王さえ倒せば、俺達をこちらに連れてきた神様も復活でき、元の世界に帰してあげられると言っていた。
確かに、いきなり連れてこられて魔王を倒せはちょっと納得いかないけど、現状俺達にはそれをする以外に選択肢はないし、アルメダ様の話は筋が通っているように見える。
それなのに、魔王を倒しても元の世界に帰れない可能性があるんだろうか?
「ほら、こういうのって後で帰してやるから力を貸せって言われて、結局帰さないパターンじゃないか? よくあるだろ? 勇者召喚して魔王を倒してもらったはいいが、強すぎる勇者が邪魔で消しに来るみたいな」
「……まあ、可能性はなくはないけど」
物語の一つとして、確かにそう言う展開はあるだろう。
でも、相手は神様だよ? 神様が約束を違えるなんてことするだろうか。
確かにアルメダ様は適当だし、今回の魔王の痕跡の件だって結構大雑把だったけども、嘘は言ってない気がするんだけどな。
もし、アルメダ様が嘘をついていて、魔王を倒しても帰してくれないとなったら、その時はどうするべきか。
この世界で一生暮らす? ……それは、嫌だな。
なんだか複雑な気分になりつつ、馬車に揺られていた。
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