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第三百九十五話:ギルドの余興

 翌日。昨日まで進んだところから旅を再開し、すぐに町へと辿り着いた。

 魔王の情報についても気になりはするけど、今はそれだけ考えていてもしょうがない。

 なので、まずはもう一つの目標である仲間探しを優先することにしたわけだ。

 今のところ、仲間らしき情報は一つも入っていないけれど、果たしてこの町には何かあるだろうか?


「ひとまず、また情報収集するの」


「そうですね。この町には冒険者ギルドもあるみたいですし、そこで依頼するというのも手ですが、どうしますか?」


「ふむ、ギルドねぇ……」


 噂話が集まる場所として有名なのは酒場だが、それと同じくらい情報が集まるのがギルドである。

 ギルドにはその町専属の冒険者もいるにはいるが、そのほとんどは外からやってきた人達だ。

 それに、護衛依頼やらなんやらで人と話す機会は多いし、その辺の一般人よりよっぽど情報を持っている。

 さらに言うなら、こういう人を探してるんです、と依頼を出せば、きちんと探してくれる。探した後どうするかはこちらに丸投げされるだろうけど、見つかりさえすればいい状況ならそれでも十分に役に立つ。

 多少の依頼料を払えば多くの冒険者が手を貸してくれると考えれば、依頼するのも悪くはない。

 ただ、今はその方法はあんまり取りたくなかった。


「あんまり警戒されたくもないし、ここは自分達で交渉したいの」


 探しているのはいわゆるプレイヤーだ。プレイヤーはこの世界の人達と比べればかなり強く、その能力も独特なものが多い。

 今暫定で探している伝説の鍛冶屋やナイフを折りまくる人も、そう言う特殊な能力があるからこそ、この世界でやっていけているのである。

 しかし、特殊な能力を持っているというのは何もメリットだけでなく、デメリットも存在する。

 何事も、強い力と言うのは争いの種になる。単純に、戦争しているところにそれを放り込めば、戦況は変わるだろうし、他にも隠密に長けていれば暗殺やら諜報やらができるし、生産が得意なら金儲けの道具にできる。

 どんな能力にしろ、それを利用したいと思う人はたくさんいるわけだ。

 だから、あからさまに冒険者に探させて、その口からお前を探している人がいる、なんて言われたら警戒されてしまうだろう。

 下手したら逃げられてしまうかもしれないし、過激なら潰される前に潰すと言わんばかりに襲い掛かってくるかもしれない。

 今探しているプレイヤー達は、見知らぬ世界に連れてこられて、数年を生き抜いた猛者達である。真っ当な生き方をしているにしてもそうでないにしても、警戒心はそれなりに持ち合わせているだろう。

 だから、ファーストコンタクトはできれば同じプレイヤーである俺達であることが望ましいのだ。


「でもまあ、依頼しないで貰える情報を得るくらいだったら役に立つだろうし、ギルドには行くの」


 冒険者に探してもらうのはちょっとリスキーだけど、ただ話を聞くだけなら酒場で聞くのと何も変わらない。

 冒険者はおおらかな人が多いし、ちょっと飯でもおごってやれば知っていることくらいは聞かせてくれるだろう。

 そう言うわけで、まずはギルドへと向かうことにした。


 冒険者ギルドはそれなりの規模の町なら大抵は存在している。

 冒険者システムはこの世界の根幹に関わるものだろうし、時代が粛正されても廃れることはなかったのだろう。

 まあ、その役割は昔とはだいぶ異なってしまっているようだけど。

 確かに、冒険者は魔物を倒したりするのが仕事ではあるが、今はどちらかと言うと何でも屋に近い。

 迷子の捜索や引越しの手伝い、薬草の採取など、その幅はめちゃくちゃ広くなっている。

 多分、レベルが上げづらくなってしまって、魔物を狩りに行ける人材が減ったからだろう。

 成人していれば誰でもなることはできるらしいが、魔物討伐で稼ぐ奴はほんの一握りなんだろうな。

 まあ、それはいいとして、ギルドである。

 それなりに大きな建物で、中には酒場も併設されているから冒険者の溜まり場としても機能している。

 そのせいで喧嘩もよくあるみたいだけど、ギルド内での喧嘩は懲罰の対象だから酔った勢いで、とかでもない限りそんなに発展することはない。

 だから、普通は扉をくぐった瞬間にナイフが飛んでくるなんてことは普通はありえないのだ。


「ひゅいっ!?」


 思わず飛び上がって天井の梁に着地する。

 多分、そんなことしなくても防御力だけで弾けるし、そうでなくてもとっさにカインが前に出て盾を構えていたから無傷だっただろうけど、流石に入った瞬間攻撃されるとは思っていなかったので過剰に反応してしまった。


「あ、わりぃわりぃ、手が滑っちまった!」


 そう言って近寄ってきたのはかなりガタイのいい男である。

 いったい何事かと降りて話を聞いてみると、どうやら余興の一環で、銅貨を折り曲げる、と言う芸をやろうとしていたようだ。

 ただ、それをやろうとしても生憎物がなく、どうしようかと悩んでいる時に、近くにいた人から「だったらこいつは曲げれるか?」と言われてナイフを手渡されたのだとか。

 銅貨が曲げれるなら鉄製のナイフくらい曲げられるだろうと二つ返事で受け取り、力任せに曲げようとして見たが、思うように曲がらない。

 と言うか、ナイフである以上は刃があるので、力任せに握りしめることもできず、銅貨よりもかなり難易度は高かった。

 そうしていつまで経っても曲げられず、周りもなんだそんなものかとヤジを飛ばし始め、焦った男はテーブルにナイフを突き立て、てこの原理で曲げようとした。

 が、その時運悪く手が滑ってしまい、ナイフはテーブルからすっぽ抜けて入口の方へ。その結果、扉をくぐって入ってきた俺の目の前にナイフが飛んできた、と言うことらしい、


「芸をするのはいいけど、少しは周りの迷惑考えるの!」


「これでアリスさんにナイフが刺さっていたら、八つ裂きどころじゃ済みませんよ?」


「面目ない! ほら、飯奢るから機嫌直してくれや」


 そう言って席まで案内してくれる男。

 ヤジを飛ばしていたであろうギャラリーも加わり、災難だったな、とか色々声をかけてくれた。

 本当はこんなことするつもりじゃなかったんだけど……まあ、昼飯がタダになったと思えばいいか。


「ところで、ナイフってそんなに曲げにくいものなの?」


「まあ、そりゃ銅貨よりはな。簡単に曲がったら使い物にならないだろ」


「まあ、そりゃそうなの」


 銅貨も簡単に曲がったら使い物にならない気がするけど……まあそれは置いておいて。

 多分、俺がやろうとしたら簡単に曲げれるとは思う。

 なにせ筋力がめちゃくちゃ高いからね。こんな華奢な体でも、筋力の数値だけは高いのだ。

 でも、それを言うならこの男だってそれなりに高そうに見える。

 まあ、キャラシを見たわけではないからわからないけど、少なくとも見た目は何でも力で解決しそうな見た目をしている。

 銅貨を曲げられるなら、ナイフも曲げられないまでも反らせる位はできそうだけど。


「このナイフですね。かなりいいものに見えますが」


 カインが拾ったナイフを見せてくれる。

 作りとしては、かなりシンプルなナイフだ。結構新しいのか、錆び一つなく、柄の部分もあまり汚れていない。

 買ったばっかりなのかな? そんなものをほいと渡してしまうなんてちょっともったいない気もするけど……。


「……んー?」


 いったいこのナイフを渡した人は誰なんだと思いつつ、何気なくナイフを鑑定してみた。

 すると、驚くべき結果が出てきたのである。


「このナイフ、ミスリル製なの」


 ナイフには、と言うか武器の素材には色々なものが使われるけど、主流となっているのは鉄だろう。

 合金だったり、その比率は変わっているかもしれないが、鉄はかなりの確率で使われているはずである。

 鉄のナイフはピンからキリまであるにはあるが、そこまで高くはない。安いものだと、一本銅貨一枚なんてものもある。

 だから、こうして渡したのなら、そう言う安物かと思っていたんだけど、まさかのミスリル製。

 ミスリルは武器に使われる素材の中ではかなり貴重な方で、その分値段も跳ね上がる。

 このひと振りだけでも、恐らく金貨一枚とか行くんじゃないだろうか。

 それに加えて、このナイフにはさらに効果も付与されているらしい。

 効果としては、クリティカルが出やすくなる、というものだったけど、そもそも効果付きの武器が少ないこの世界では相当なレアアイテムだ。

 そんなものを曲げられるか? と言ってポンと手渡す? ありえない。

 効果については知らなかっただけかもしれないけど、ミスリル製と言うことくらい持ち主なら知っているだろう。

 どう考えても、このナイフを持っていた人は普通ではない。


「こ、このナイフをくれた人はどこに?」


「あ? ああ、それならそこに……ってありゃ?」


 男が指さした先には、食べかけの料理が置かれたテーブルと、空になった椅子があるだけだった。

 感想ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] きちんと焼きが入ってたら普通は曲がる前に折れるからなぁ
[一言] みんなスルーしてますけどジャンプして天井の梁に着地するってある意味芸みたいです ミスリルのナイフをそんな事にポンッと渡すんじゃないよ笑 探しているプレイヤーか分かりませんがこれは鍛冶屋に嫌…
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