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第四十話:不穏な謁見

 用意があると言うので、一度応接室らしき場所に案内してもらい待つことしばらく。ようやく準備ができたと兵士らしき人が呼びに来たので出向くことにした。

 一応、公式の訪問ということで、ちゃんと謁見の間で対面するらしい。

 別にあの場で会ったのだからちゃっちゃと話せばいいのにとは思うけど、王族には色々とあるのだろう。

 若干の面倒くささを感じながらも豪奢な扉の前に案内され、ゆっくりとその扉が開かれる。

 部屋の中にはエミリオ様の他にも数人の人物が待機していた。

 用意って言うのはこの人達を呼ぶためか? 護衛騎士らしき人も結構いて中々に物々しい雰囲気ではある。

 俺は少し緊張しながらも部屋の中に入ると、奥で待つエミリオ様の方へと進み、ある程度近づいたところで跪いた。


「ほう、少しは礼儀というものを知っているようだな。いいだろう、顔を上げろ」


 正直、作法なんて適当だ。俺がやっているのは漫画やアニメの知識でしかない。

 経験値はあるのだから、レベルアップして【礼儀作法】のスキルを取得することも考えたが、スキルレベル1や2では大して変わらないと思うし、何よりそれっぽいことをしていればそのうち手に入りそうということもあって見送っていた。

 だって、毎日のように教えていた【弓術】は簡単に取得できた上に今やスキルレベル7。【剣術】や【槍術】に関してもスキルレベル3で取得できているので練習をしていればスキルを取得することはそう難しくないことだと気づいたのだ。

 元々得意な弓が上がりやすいのはともかく、自分では積極的にやってはいなかった剣や槍ですら数か月でこれだけ上がっているのだから、【礼儀作法】だってそれっぽいことをしていればその内身に着くだろう。わざわざレベルアップ時のスキル取得で手に入れるほどのスキルでもないし、最低限無礼にならないように演じられれば問題もないだろうし。

 喋り方に関してはまあ……仕方がないけど。


「まずは名乗れ」


「はいなの。私はアリス。ここには治癒術師として呼ばれました……なの」


「貴様、何だそのふざけた口調は!」


 早速外野がツッコミを入れてくる。

 喋り方に関してはもうそういうものだと割り切って欲しい。俺だってできるものなら普通に丁寧語を喋りたいのだ。

 どうせ無理に丁寧語で喋ったら変な口調になるのだから、もう普通に喋った方がいいか? その方がまだ自然な気がする。


「かまわん。どうやらこいつの口癖らしい。あまり気にするな」


「し、しかし殿下」


「俺がいいと言ってるんだ。口を挟むな」


「は、ははっ!」


 ひとまず、エミリオ様の一喝によってその場は収まる。

 話が進まないというのもあるんだろうけど、そうやって抑えてくれるのはありがたい。

 だって、ここで抑えてくれなかったら絶対罵倒の嵐になるだろうからな。いくら獣人の地位が低いだろうとはいえ、わざわざ呼ばれた場でそんなものは聞きたくない。

 どうせ罵倒するなら、お前は必要ないからさっさと出て行けと一番に言って欲しいものだ。


「さて、治癒術師である貴様を呼んだのは、ある人物を治療してほしいからだ」


「ある人物? それは誰なの?」


「それを教える前に、貴様に一つ確かめたいことがある」


 エミリオ様はそう言っておもむろに剣を抜く。

 最初に会った時は剣なんて持ってなかったと思うけど、一体なぜ。

 ちなみに俺の持っている弓は今は収納にしまってある。城に入るのに武装していてはいらぬ誤解を生みかねないからな。

 エミリオ様はそのまま俺の方に近づき、あろうことか俺に向かってその剣を振り下ろしてきた。


「おっと……」


 だが、その程度の攻撃なら避けるのはたやすい。敏捷の高さはそのまま回避力の高さに直結するからだ。

 軽く上体をひねって回避すると、空を切った剣が床に叩き付けられる。

 そんな強い威力ではなかったのか、床に敷かれた絨毯を軽く傷つけただけで特に大事には至らなかったが、当たっていたら斬り傷くらいは負っていただろう。

 いくら獣人の地位が低いとはいえ、いきなり斬りつけてくるとは思わなかったが。

 そんなに鬱憤が溜まっていたのだろうか? 止めない周りの人もそうだけど、なんて国だ。


「おい避けるな。確かめられないだろ」


「いきなり斬りつけられて避けない人はいないの。そんなに私のことが嫌いなの?」


 エミリオ様は不機嫌そうに舌打ちしながら剣を戻す。

 確かめたいことがあると言っていたけど、一体何のことだろうか。

 獣人の血の色が知りたいとか? そんなわけないか。


「違う、そうではない。貴様の能力を確かめるためだ」


「私の能力?」


「貴様の職業は何だ?」


「……治癒術師なの」


 本当は冒険者だけど、この世界では登録していないし、強いて言うなら無職だが、エミリオ様が言いたいのはそういうことではないだろう。

 治癒術師としての能力を確かめるってこと? 治癒術師の仕事は怪我の治療だけど……ああ、そういうことか。


「つまり、私に怪我を負わせて、それを自分で治療して見せろってことなの?」


「そうだ」


 なるほどね、それなら納得だ。……ってなるか!

 治癒魔法って、その人の治癒能力を高めることで怪我の治りを早める効果があるだけで、瞬時に怪我を治す事はできないって言うのが常識だと聞いた。

 俺の治癒魔法はそんなの関係なく即座に治せるけど、エミリオ様がそれを知っているとは思えない。

 だから多分、獣人に対する嫌がらせ込みでやろうとしたってところだろう。

 小さな切り傷程度ならともかく、あの振りかぶり方では、防御もなしに受けたら下手をしたらかなり深い傷になっていた可能性もある。

 なんで向こうが呼んできたのに斬られなければならないのか、ほんとに意味がわからない。


「だからとりあえず斬られろ」


「いやなの」


 誰が好き好んで斬られるものか。

 確かにすぐに治せるだろうが、痛いことに変わりはない。というか、物の弾みでうっかり死んでしまったらどうするつもりなのか。

 そりゃ俺ならこの世界基準では体力もある方だし、ちょっと斬り付けられた程度で死ぬわけはないが、レベルの低い人だったら普通に瀕死になってもおかしくはない。

 獣人を人とも思っていないのだろうか。だとしたら相当な獣人嫌いだな。


「貴様、俺に逆らう気か?」


「痛いのは嫌なの。それにただ治癒魔法を見せるだけならそんな大仰な剣はいらないの。ナイフかなにかでちょっと傷つければいいだけの話なの」


「黙れ。仕方がない、おい、手伝え」


 エミリオ様の合図に周囲にいた護衛騎士達がこちらを囲んでくる。

 おいおい、これじゃ完全に罪人扱いだぞ。

 ここまでやるってことはただ傷つけるだけじゃ終わりそうにないし、諦めるまで避けるか。いいタイミングで自分で適当に傷をつけて、治癒魔法を披露してやれば収まるだろう。……収まってくれるといいなぁ。

 とはいえ、流石にエミリオ様を含めて七人を相手にするのは少し骨が折れる。ここはスキルを使わせてもらおうか。

 俺はふぅ、と小さく息を吐き、体の力を抜く。


【ドッジムーブ】


 回避判定の際のダイスを増加させることが出来るスキル。ちょこまかと動き回って敵の攻撃を避けるっていう感じだ。

 元々回避は高い方で、よほどのレベル差がない限りは避けることはできる。それに加えてスキルまで使えば、七人相手とは言えまず当たることはないだろう。


「かかれ!」


 エミリオ様の合図に一斉に斬りかかってくる。だが、どれも止まって見えるほど遅くてこれならあくびをしながらでも避けることはできるだろう。

 ひょいひょいと次々に攻撃を回避し、相手と絶妙に距離を保っておく。

 ここまでくると回避の隙間に攻撃して剣を落とさせることくらいはできそうだが、それだと何言われるかわからない。

 こちらはあくまで痛いのが嫌だから避けているだけであって、攻撃の意思はない。ここで下手に攻撃することによって後々それを盾に何か言われるのは面倒だ。

 だから、相手が疲れるまで避けてやる。さて、何分持つかね。

 感想ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] ファンブルチェックの時間ですねぇ…
[一言] 頭が悪すぎて呪いにでも掛かってないか?と疑うほどの王子と取り巻きの面々…w こんなことしてたら、例え今までに治せる人がいたとしても寄り付かんでしょうに 察しの良い人なら、治せる腕があっても出…
[良い点]  うあー(´Д` )圧倒的強者すらわからぬとはここはまさにボンクラの王国!これはあれですね秋一くんが心配していた「アリスのバグっぷりが簡単にバレる」事はこの世界ではほぼ“無い”って事ですね…
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