第三百八十七話:獣人の国
魔王の痕跡を調べるという目的もあるけど、今回は仲間を探すという目的もある。
偶然、それが同じ場所にあったからちょうどいいと思っただけで、どちらが本命と言うわけでもない。
まあ、最終的な目標を考えるなら、魔王が見つかることが一番の収穫かもしれないけど、今はまだ会いたくない。頑張れば戦えるかもしれないけど、それは万全の状態ではない。だったら、まだ見つからないでほしいというのが本音である。
じゃあ探さなきゃいいじゃんとも思うけど、それはそれでいつ襲ってこられるかわからないから怖い。
痕跡がある以上、魔王かそれに近しい存在がいることは確かなのだ。相手の動向を探るためにも、少しでも手掛かりが欲しいのである。
そんな、相反する気持ちがぶつかり合って、ずるずると流されているのが今の現状。
よくないなぁとは思うけど、もうこれはしょうがない。みんなが魔王と戦うことに乗り気な以上、俺は手伝うことしかできないのだ。
「さて、ウマラ王国に入ったが、確かに獣人ばっかりだな」
出発してからしばらく。俺達はとうとうウマラ王国へと辿り着いた。
道中は平和なものだった。
魔王の痕跡は道中にもいくつかあり、俺達はそれを調べながら進んできたが、びっくりするくらい何もなかったのである。
魔王らしき人が目撃されたなんてこともなければ、怪しげな品が持ち込まれたということもない。
強いて共通点を上げるとするなら、痕跡はみんなそこそこの規模の町ばかりにあったということだろうか。
途中、村にもいくつか寄ったが、そこには特に反応は見受けられなかった。
痕跡があろうがなかろうが何も見つからない現状に、俺は違和感を覚えていた。
神様が直々に調べて、ここに痕跡がありましたよと教えてくれたのに、何も見つからない。
そりゃ、ただの痕跡であって、そこに行けば必ず本人がいるなんて断定はできないけど、それこそ怪しげな人物の目撃情報や物品の取引なんかがあってもいい気がする。
まあ、町の人に話を聞いた程度で、そこまで詳しく調べていないから見つからなかったという可能性もなくはないが、痕跡っていうのはそんな頼りないものなんだろうか?
アルメダ様がどういう意図で痕跡と言ったのかがわからない。
まさに、数時間前、いや、下手したら数日前とか数年前に魔王関連の何かがあったって意味だったのだろうか?
もしそうだとしたら、そりゃ何も見つからないわって思う。
一日や二日前程度なら、まだ何とか情報を掴めるかもしれないが、それ以上前となれば情報は更新されていくものだし、人々の記憶も薄れていく。よほど衝撃的なことが起こっていない限り、覚えている人は少なくなるだろう。
わかりやすく、魔王由来のアイテムが封印されている、とかだったらまだ調べようがあるんだけど……。
もう痕跡とか忘れて仲間探しに注力しようかな。なんか探すだけ無駄な気がしてきた。
一応その場所に来たらやるはやるけど、あんまり期待はしない方がよさそうである。
「犬獣人に、猫獣人、鳥獣人に、鼠獣人。まさに多種多様ですね」
「ただ、何というか、前時代的? っていうのかな。街並みが、ヘスティアとはだいぶ違うね」
ウマラ王国の国境沿いの町。
他国からの貿易品もあるためか、通商の通り道としてそれなりに栄えているように見える。
ただ、その街並みにある建物は、簡易的な木造建築ばかり。
テント、ほど酷くはないけど、隙間風がバンバン入ってきそうなスカスカな造りだ。
まあ、一応外面は整えようとしているのか、区画整理はきっちりされているようだし、大通り沿いの建物はそれなりのものが揃っているようだけど、少しわき道に逸れればあばら家が立ち並んでいる。
お金ないのかな。それともそう言う文化? 詳しいことは調べてないのでよくわからない。
「ここに、新たな仲間がいるんですか?」
「アルメダ様の言うことが本当なら多分そうなの。まあ、獣人の国と言われただけで、この国かわからないし、この国だったとしてもこの町かはわかんないけど」
文句を言ったからか知らないけど、以前よりはましな導きだった。
該当するのは二つの国だけで、それくらいだったら時間をかければすべて探しきることも可能だろう。相手の方も探しているならすぐに見つかるはずである。
まあ、欲を言うならもっと具体的な町の名前とかを示してほしいけど……それは仕方ない。
「ひとまず、仲間の情報を探しながら、町を回ってみるの。もしかしたら、魔王の痕跡についても何かわかるかもしれないの」
「そうですね。では、また二手に分かれますか?」
「そうするの。ポータルも覚えてもらったし、いざという時は各自それで帰還してもらうの」
ポータルは今まで俺しか使えなかったけど、今ではこの場にいる三人は全員使えるようにしておいた。
これなら、俺がいなくてもいつでも城に帰ることができる。
まあ、基本的には俺が使うけどね。運び屋としての責務を果たさせてほしい。
「じゃあ、私とシリウス、カインとサクラで分かれるの。異論はあるの?」
「ないな」
「おっけー」
「じゃあ、各自情報を探してくるの」
そう言って二手に分かれる。
二人が町の雑踏に消えていくのを見て、こちらも動きだした。
「しかし、情報と言っても、どんな奴かもわからないんだろ? どう探すんだ?」
「恐らくだけど、仲間は伝説の鍛冶屋かナイフを折りまくってる人のことだと思うの」
以前、センカさん達に教えてもらった情報である。
獣人の国で逃げていた時に聞いたというプレイヤーらしき人物。もし、まだこの国にいるなら、それが新たな仲間の可能性は高い。
もちろん、彼らがすでに別の国に移動していて、全くの別人が仲間になる可能性もなくはないけど、その時は出たとこ勝負で頑張ろう。
まだ着いたばっかりなのだ、焦る必要はない。多分。
「鍛冶屋なら、どこかに店開いてるかもしれないな」
「その情報があれば一番手っ取り早いの」
「ナイフ折りまくってる奴も気になるが、果たして見つかるか」
そんなことを考えながら道行く人々に話を聞いていく。
兎族だから舐められるかも、と思っていたけど、町の人達の反応は意外と良好だった。
背が低いシリウスと一緒にいたからかもしれないが、一緒に子供扱いされて、まるで我が子を見るかのような目を向けられてしまった。
あれかな、子供だから子作りしろと言うよりは、まずは立派な女になれってことか? まだまだ未熟だから、手を出す対象に入らないと。
まあ、それならそれで好都合だ。訪れた国のせいかもしれないが、元からそこまで貶められたことはなかったけど、それが獣人の国でも続くなら万々歳である。
子供扱いなのは気に入らないが、この見た目なら仕方ないだろう。シリウスも一緒にいじられてくれるし、それで我慢するとしよう。
「まあ、半分予想はしていたけど、全然情報集まらないの」
「そうだな。端っこの町だから、情報があんまり流れてこないのかもしれないな」
プレイヤーらしき人物について色々聞いてみたが、みんな知らないという。
伝説の鍛冶屋とやらが店を開いているなら、噂も広がってるんじゃないかと思ったけど、それもなし。
言うほど噂が広まってないのか、端っこの町だから情報が届くのが遅いのか、どちらにしても、有益な情報は得られなかった。
魔王の痕跡についても調べてみたが、それも空振り。この町で得られそうな情報は何もなさそうである。
もうちょっと中央部に行かないとだめかもしれないな。
そんなことを考えながら、合流場所へと戻っていった。
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