第三百八十六話:魔王のレベル
遅くなって申し訳ありません。
アルメダ様に教えてもらった魔王の痕跡だけど、確かにウマラ王国の周辺にもあるようだ。
ただ、反応に関しては結構な場所が候補に挙がっている。このエルガリア大陸だけ見ても、ざっと数十か所はあるだろう。
今まで全く痕跡すら発見できなかったのに、今更になって発見できたのは少し違和感を覚えるが、恐らくアルメダ様を始めとした神様の力が、少しずつ回復しているからだと思う。
本来なら、消滅してもすぐに復活するような人達だ。むしろ、襲撃を受けたとはいえ、三千年も動けなかった方が不自然なくらいである。
まあ、それだけ粛正の魔王が凄かったのかもしれないけど、そうして探知精度が上がったことで、今回の痕跡が見えるようになったのだろう。
しかし、痕跡の数が異常に多い。
その人物が持つ魔力を見ているので、極論を言えばその場に存在しているだけで痕跡は生まれるだから、このように各地に点々と痕跡が現れているのはおかしいはおかしい。
ただ、魔王ならば、自分の魔力を隠すくらい朝飯前だろう。今までの探知精度で見つけられなかったのも頷ける。
そう考えると、これはそんな隠している魔力から漏れたほんのわずかな残滓のようなもの。それが魔王本人なのか、それに関連する物や人なのかはわからないが、何かがそこにいたのは確かなのかもしれない。
もしかしたら、一部はダミーで、こちらを攪乱するための魔王の策略かもしれないけどね。
「詳しいことはわからないけど、ぱっと見る限り、エルガリア大陸が一番痕跡が多いの?」
他の大陸にもいくつか痕跡はあるようだが、その数はそこまで多くはない。割合で言えば、半分以下だ。
これを踏まえると、魔王、あるいはその関係者は、エルガリア大陸にいる可能性が高いのかな?
同じ大陸に時代を滅ぼすような化け物がいると考えるとちょっと怖いけど、ある意味で探しやすいと言えばそうだ。
魔王にしては反応が弱すぎるらしいし、弱っているか、あっても魔王関連の何かと言う線が強いだろう。
どちらにしろ、今の俺達なら逃げるくらいはできそうだ。
逃げてどうにかできればいいんだけどね。
「もし仮に、この四人で魔王を相手にするとしたら、勝率はどのくらいになりそうだ?」
「んー、一割行くかどうかってところなの」
「まじか。もうレベル100超えてるのに?」
「そもそもの話、魔王のレベルが999ってことを覚えていてほしいの。神様とかのレベルがない存在を除くと、最強の存在なの」
もちろん、プレイヤーのレベルと魔物のレベルは基準が違う。
例えば、魔物の中には傭兵のような人の魔物も存在する。
厳密に言えば、傭兵は人であって魔物ではないけど、『スターダストファンタジー』のルール的には、冒険者の敵はみんな魔物として扱われる。
そして、傭兵のレベルは場合にもよるが、ルルブに載っているのは大体レベル13とかだ。
このレベルがプレイヤーの操る冒険者と同じだと考えると、この傭兵は上級冒険者に片足突っ込んでるくらいの実力を持つことになるだろう。
ただ、実際にはそうではなく、プレイヤーがこの傭兵を相手にする時の適正レベルはおおよそ4~6くらい。つまり、プレイヤーと魔物のレベルでは強さが全然違うのだ。
魔物のレベルは結構曖昧なものが多く、レベルが低いのにめちゃくちゃ強かったり、逆に高いのにそこまで強くなかったりと様々いる。だから、魔物のレベルが高いからと言って、必ずしも強いとは限らない。
だったら、魔王もレベルが高いだけでそこまで強くないのかと言われたら、そんなわけはない。
999は、『スターダストファンタジー』に登場するレベルを持つ登場人物の中で最大の数値である。ネームドだけあって、それにふさわしい大量のスキルを持ち、まず勝たせる気がないだろうというほど高いステータスを持っている。
むしろ、999でも足りないくらいだ。それくらい、強い。
冒険者は、レベル20でセカンドクラスを取ることができるが、普通はそもそもそこまでいかないことの方が多い。
キャンペーンシナリオを何回も回して、ようやくたどり着く境地。あるいは、特別ルールとして初めから高レベルで始めるでもしない限り、まずそこまで到達することはできない。
だから、レベル100を超えている今の俺達は、上級冒険者どころか、人の理から外れるレベルの超強力な力を持っていると言っていいだろう。
だけど、それでも勝てるかわからない。
もちろん、弱っていて、通常攻撃しかしてこないっていうならいくらでも対策のしようはあるけど、流石にそんな弱った状態で前に出てこないだろう。仮に弱っていたとしても、必ずある程度戦える状態にあるはずだ。
そんな中、レベル100を超えているとはいえ、たった四人で何ができるのか。
瞬殺されなかったら上出来と言っていいと思う。データを見るだけなら、それほどまでに強いのだ。
「流石に怯え過ぎではないですか? 確かに、粛正の魔王は強いのかもしれません、通常では絶対に勝てないような設計なのかもしれません。ですが、こちらも通常ではありえないくらいのレベルに到達しているのです。少なくとも、善戦くらいはできるのでは?」
「まあ、確かに私も実際に戦ったことはないし、データを見ただけの感想ではあるけど……」
カインの言う通り、データで見るのと実際に戦うのとでは違う場合もあるだろう。
俺だって、データがすべてだなんて思わない。ここはリアルな世界であり、それ故に感情やその時の運なんかにも左右されるだろう。
でも、常に最悪を想定していた方がいいのは確かだ。
一応、【リザレクション】という蘇生スキルはあるとはいえ、本当に生き返らせられるかはわからない。生き返ったとしても、何かしらの後遺症を貰う可能性だってある。
死んだら終わりなリアルな世界。そして相手は世界最強の災厄である。
ならば、可能な限りいい条件で戦いたいと思うのは当然だろう。最終的には四人だけで戦わなくてはならないのだとしても、もっとレベルを上げる余地はあるし、俺達が戦っている間の周りの露払いも必要。
神様は魔王さえ倒せば帰してくれるとは言ったけど、その時この世界が再び終焉を迎えているようなことがあったら後味も悪い。
確実に守るとは言えないけど、可能な限り守ってあげたい。そんな気持ちもあるからこそ、万全な状態で戦うことが重要なのだ。
突発的に弱っている魔王に会ったからと言って、その場でじゃあ戦うかと言うのは悪手だろう。
それこそ、話し合いで解決できるならそれが一番だ。
「心配なのはわかりますが、怯え過ぎるのもよくないと思います」
「そうそう。まあ、少し戦ってみて、やばそうなら逃げればいいんじゃないか?」
「いざという時の情報伝達手段は用意していた方がいいかもね。万全の状態で戦いたいのはわかるけど、相手はそうさせてくれないかもしれないし」
みんなは魔王と戦うのに結構乗り気な様子。
まあ、怯えて動けないというよりはましだけど、心配でならない。
たとえ魔王を倒せたとしても、みんなを失うようなことがあれば、俺は立ち直れないかもしれない。
せめて、もしものことがあったなら、その時は俺が命に代えても守り切ろう。
俺は苦笑を浮かべながら、心の中でそう誓った。
感想ありがとうございます。




