第三百八十四話:魔王の痕跡
案内が大雑把なのははぐらかされたけど、まあ確かに見つかったんだし何かしら手は回してくれていたのだろう。
他の転移者だって、仲間を探していることだろうし、お互いに探しているなら見つかるのは必然、なのかもしれない。よくわかんないけど。
「まあ、それはいいの。じゃあ、粛正の魔王について、何かわかったことはあるの?」
『それなんだけど、ようやく痕跡らしきものを見つけることができたわ』
「おお」
痕跡らしきものっていうのが気になるが、以前までは痕跡すらつかめていなかったのだから進展した方だろう。
果たして、その痕跡とやらは一体何なのだろうか?
『万物にはそれぞれ固有の魔力が宿っているわ。だから、私達はたとえ顔を見なくても、魔力さえわかればそれが誰なのかを理解することができるの』
「じゃあ、今回見つかった痕跡っていうのは」
『そう、魔王の魔力よ』
なるほど、魔王の魔力。
スキルの中には、相手を威圧する、名前の通り【威圧】っていうスキルがあるけれど、その方法は色々あって、その中の一つに魔力の膨大さに恐れを抱かせる、というものもある。
まあ、これはゲームマスターの裁量にかかっているから、俺の解釈にはなるんだけど、要は魔力が多すぎて、余剰分がオーラのように周囲にふりまかれ、それを見た人があいつはやばいと思う、と言う感じなんじゃなかろうか。
魔王の魔力って、なんだかそんな感じの威圧する魔力って感じがするよね。
「どこで見つかったの?」
『それが、ちょっと不可解でね。いくつかあるの』
そう言うと同時に、頭の中に地図が浮かび上がってくる。
恐らく、アルメダ様が説明のために地図のイメージを送り込んでいるんだろう。
声だけでも違和感あるのに映像まで流さないでほしいけど、こればっかりは仕方ない。
妙に記憶に残る地図を眺めながら、俺は説明を聞いた。
『あなたのいる大陸で言うとこの辺り。他の大陸でもわずかな痕跡を見つけたけど、魔王の気配にしては微弱なものばかり。もしかしたら、弱っているのかもしれないわね』
今まで全然見つけられなかったのに、今更になってこんなにも候補地点を見つけられたのは少し違和感を覚えるが、それよりも気になることがあった。
今俺がいる大陸にも反応があると言っていたが、そのいくつかに見覚えがあった。
それは、先日行ったばかりの滅びた村やサクラの里がある森などだったのだ。
「この痕跡って、そこを魔王が通ったとかそういうものなの?」
『わからないわ。魔王の魔力がそこにあったというだけで、そこに魔王自身がいたかどうかはわからない。もしかしたら、魔王由来のアイテムや武器なんかが関係している可能性もあるけど、断言はできないわね』
つまり、魔王がいたというよりは、魔王の魔力を纏った何かがあったというわけか。
確か、魔王は神界を襲った後、行方不明になったんだよね。アルメダ様の話だと、煙のように消えてしまったとか。
神様に激しく抵抗されて、深手を負って逃走した、とも考えられるけど、神様の攻撃は一切通用しなかったと言っていたような気もするし、よくわからない。
いや、神様のことだから何かしらの策を使って無力化した可能性もあるか。あるいは、魔王には神界にいられるタイムリミットがあって、それを過ぎてしまったから消えてしまったとか。
可能性は色々あるけど、今もなお、魔王がどこかで身を潜めているのは確かだろう。
魔王の目的はわからないが、この世界をめちゃくちゃにしうる存在をいつまでも野放しにはしておけないし、何より魔王を倒さなければ俺達は元の世界に帰れない。
なんとしても、見つけなければならないだろう。
『魔王にせよ魔王に近しいものにせよ、そこには何かしらの痕跡があるはず。だから、そこを調べてみたら何かわかるかもしれないわ』
「わかったの。調べてみるの」
『お願いね』
さて、となると一番気になるのはサクラの里の付近の反応だ。
あそこは一度、隕石が落ちてきた場所でもあるし、何かしら重要なものがあるのかもしれない。
けど、もし何かあるならサクラが気付きそうなものだけど。
別に、サクラの里では、何かを封印しているということもないし、特別なものがあるわけでもない。せいぜい、エルフの里特有の水や結晶花くらいだ。
そう考えると何が魔王の琴線に触れたのかよくわからないけど、何か見つかるといいが。
『後はそう、他の転移者の場所ね』
「ああ、うん、聞きたいの」
『では一つ。ヘスティアより北西、獣人の国に探し人あり』
「獣人の国、ねぇ」
確かそのあたりは、以前センカさん達が逃げていた場所だと思う。
いくつか転移者らしき情報は聞いていたし、そのうちの誰かってところだろうか。
そのうち探しに行く予定だったから、できれば別のがよかったけど……まあ、贅沢は言ってられないか。情報が確実なものとなっただけましな方だろう。
『痕跡を見る限り、魔王も万全な状態ではないはず。でも、もし遭遇することがあったら、その時は倒してくれると嬉しいわ』
「簡単に言ってくれるの」
『あなたにはそれだけの力がある。期待しているわ』
その言葉を最後に、通信は途絶えた。
魔王が手負いねぇ。まあ、仮にそうだったとしても、そう簡単に勝てるとは思えないけど。
一応、即死攻撃対策とか色々スキルは取ってきたけど、それが十分にできているのはカイン達だけだ。他の人達はまだまだ育成途中である。
仮に今の状態で魔王に遭遇したら、確実に負けるだろう。
そう考えるとちょっと調べに行くのが怖い気もするけど……見つけなければいけないのも事実。
まじで、育成を急がないといけない。けど、魔王の捜索もしなきゃいけないし、スターコアの捜索もしなきゃいけない。やることが多すぎる。
「粛正の魔王は、一体どんな奴なんだろう」
俺が知っているのは、ルルブに載っているデータ上の存在だけだ。
簡単な紹介文も載っていたけど、世界を滅ぼしうる力を持つ魔物達の王、と言うような紹介で、性格に関することはほとんど書かれていなかった。
地上を滅ぼしただけでは飽き足らず、神界までも滅ぼそうとしたのだからとてつもなく冷酷な奴なんだとは思うけど、案外話の通じる奴だったりしないだろうか。
もし、話し合いで解決できるなら、俺も無駄に戦わずに済むし、みんな幸せに終われる気がするんだけど。
……流石にそれは望みすぎか。
とにかく今は、魔王に対抗できるくらい強い力を身に着けることが大切。万が一の時に生き残れる可能性が少しでも高くなるように。
俺は、帰らなければならないのだから。
「とりあえず、みんなにも報告するの」
俺はスターコアを【収納】にしまい、部屋を後にする。
無事に調査が終わればいいのだけど。
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